乳がんサブタイプ別(まずはトリプルネガティブ)に、複数の新規治療を同時に評価し新薬開発を迅速化する試験開始—国がん他
2024.11.13.(水)
乳がんのサブタイプ別に、まずはトリプルネガティブ乳がんを対象として、「複数の新規治療」を同時に評価し、新規の抗がん剤等開発を迅速化する試験を開始した—。
国立がん研究センター、名古屋市立大学、日本臨床腫瘍研究グループが11月6日に、こうした点を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
まずは「トリプルネガティブ」乳がん対象に、新規抗がん剤開発を進める
「乳がん」は、述べるまでもなく「女性では、がん死亡の第1位」になっており(関連記事はこちら)、より効果的な治療法の開発に期待が集まっています(関連記事はこちら)。
ところで、昨今「新たなタイプのドラッグ・ラグ(新薬が他国で承認されてから本邦で承認されるまでの遅れ)やドラッグ・ロス(新薬が他国で承認されているが本邦で未承認・開発されない)」が問題視されています(関連記事はこちら)。諸外国の医薬品メーカーが「日本の医療保険制度では、新薬の評価が低く、また薬価が徐々に引き下げられていくため、市場としての魅力がない」ことから、本邦での開発・上市の優先順位を低く設定し始めていると指摘されます。こうした事態の改善に向けて、2024年度薬価制度改革では「医薬品のイノベーション評価」を柱の1つに据えており、これを製薬メーカーサイドも歓迎しています(関連記事はこちらとこちら)。
他方、世界における乳がんの新規治療薬開発では「製薬企業が主導して有望な新規薬剤候補に対し小規模な臨床試験を実施→後に大規模な国際共同試験を実施」という流れが一般的です。しかし、日本で「すべての開発品の情報をキャッチアップする」ことは難しく、上記の事情もあり、「乳がん領域でも、有望な新規薬剤の開発が遅滞する」恐れがあります。
そこで、日本臨床腫瘍研究グループは、有望な薬剤を遅滞なく評価し、本邦の乳がん患者に届けるために「患者の乳がんの特性に応じて複数の試験治療を実施し、医薬品の有効性と安全性を評価できるプラットフォーム試験」(S-FACT試験)を構築。これにより、効率的な薬剤開発が可能になると期待されます。
具体的には、臨床病期II期・III期乳がん患者を、(1)トリプルネガティブ(HR陰性、HER2陰性)(2)HR陽性、HER2陰性(3)HER2陽性(4)その他—の4つのサブタイプに分類し、術前化学療法として「標準治療」(科学的根拠に基づき、現在利用できる最良の治療)と「試験治療」との比較を行うもので、まずは、(1)の「トリプルネガティブ乳がん」患者を対象とした群(コホート)で試験が開始されます。今後、新たな試験治療薬候補がみつった場合には、他のサブタイプ((2)から(4))でも順次、試験が開始される予定です。
本試験では、「標準治療」と「試験治療」について、▼病理学的完全奏効(pCR)割合▼ctDNAクリアランス割合▼安全性—などを比較し、「試験治療」(つまり新たな薬剤)の有効性・安全性を確認します。
本試験は、現時点では▼国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)▼がん研有明病院(東京都江東区)▼神奈川県立がんセンター(神奈川県横浜市)▼名古屋市立大学病院(愛知県名古屋市)▼岡山大学病院(岡山県岡山市)—で実施されますが、今後、実施施設が追加される可能性もあります。
また本試験の対象患者は、例えば次のような要件を満たす患者です(下記以外にも要件があり、下記を満たした患者がすべて試験に参加できるわけではない)。
▽組織の病理検査で乳がん(浸潤がん)と診断されている
▽臨床病期II期またはIII期と診断され、かつ切除可能と診断されている
▽非浸潤性乳がん、浸潤性乳がんいずれの既往もない
▽年齢が18歳以上80歳以下である
▽試験参加について患者本人から文書による同意が得られる
すでに、本年(2024年)6月から試験参加患者の募集が始まっていますが、試験治療ごとに「約2年間の募集期間」が予定されています(上記の試験全体では約15年間)。
今後も、優れた「がん治療法」の研究・開発が進むことに期待が集まります。
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