固形がんに対するCAR-T細胞療法の安全性・有効性を評価する医師主導治験を開始—国がん他
2025.5.13.(火)
固形がんに対するCAR-T細胞療法の安全性・有効性を評価する医師主導治験を開始する—。
国立がん研究センター・信州大学・京都府立医科大学の共同研究チームが5月12日に、こうした研究方針を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
一部血液がんで優れた効果を出しているCAR-T細胞療法、固形がんへの応用に期待
CAR-T細胞療法(遺伝子改変T細胞療法)は、▼がん患者自身の血液から免疫細胞「T細胞」を採取する→▼その細胞に、がんを認識する「CAR」を遺伝子導入技術を用いて組み込み、培養する→▼それを薬としてがん患者の身体に投与する—という療法です。いわゆる「科学的根拠に基づくがん免疫療法」の1つで、白血病などの一部血液がんに対して優れた治療効果が示され、本邦でも保険適用されている技術もあります(例えば、キムリアやイエスカルタ、ブレヤンジといったCAR-T細胞療法は、細胞採取についてはK921【造血幹細胞採取】、投与についてはK922【造血幹細胞移植】を算定できる、関連記事はこちらとこちらとこちら)。
一方、「固形腫瘍(固形がん)に対するCAR-T細胞療法の治療効果」はまだ乏しく、全世界で固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の治療開発が進められています。
共同研究チームは、肝がん、胆嚢がん、膵がん、頭頸部がん、乳がん、卵巣がん、悪性骨軟部腫瘍など多くの固形がんで高発現し、悪性化にかかわっている「EPHB4受容体」に着目。すでに「EPHB4が発現する固形腫瘍を特異的に殺傷」するCAR-T細胞(EPHB4-CAR-T細胞)を開発しています。
また、ピギーバック転移酵素というタンパク質を用いた遺伝子改変法(ピギーバックトランスポゾン法)によって「EPHB4-CAR-T細胞」を作製することで、固形がんに対し非臨床研究で「有意に持続的で高い抗腫瘍効果を示す」ことも明らかにしてきました。
さらに「EPHB4受容体が発現したユーイング肉腫または固形がんを対象とした悪性固形腫瘍に対する医師主導治験」の実施に向けて、治験製品の製造方法を開発し、非臨床安全性試験を開始し、今般、国立がん研究センター東病院(千葉県)で治験を開始し、最初の患者への「EPHB4-CAR-T細胞」投与を行いました。
具体的な治験内容は以下のとおりです。
【目的】
▽転移・再発に対して標準治療がない、または不応、もしくは不耐の「EPHB4受容体」を発現するユーイング肉腫または固形がんを有する患者に対して「EPHB4-CAR-T細胞」を投与した際の安全性と有効性を探索的に検討する
【使用する細胞】
▽がん患者から採取された末梢血単核球を原料とした「EPHB4抗原を発現する細胞を特異的に認識、殺傷」するCAR-T細胞
▽患者由来の末梢血単核球は国立がん研究センター東病院で採取→信州大学病院先端細胞治療センター内の細胞加工施設に輸送し、これを原材料としてAP8901を製造
【細胞移植】
▽「EPHB4-CAR-T細胞」を、次の3つの用量レベルで静脈内投与する
・「用量レベル1群」として、低用量の「EPHB4-CAR-T細胞」を単回投与する
↓
・用量依存性の毒性が見られないことを確認した場合に、「用量レベル2群」に移行して、高用量の「EPHB4-CAR-T細胞」を投与する
↓
・用量レベル1群で用量依存性の毒性が出現した場合には、「用量レベル▲1群」に移行し、さらに低用量の「EPHB4-CAR-T細胞」を投与する
▽「EPHB4-CAR-T細胞」投与を行う際には、投与前にリンパ球除去療法として「フルダラビン、シクロフォスファミドによる前処置」を実施する
【実施予定人数】
▽合計6-18例
【治験実施病院】
▽国立がん研究センター東病院(千葉県)
新たながん治療法の開発研究が着々と進んでおり、今後の効果発表に期待が集まります。
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