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「節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫」(nTFHL)の遺伝子異常の全体像を明らかにして、タイプ別の予後予測スコアを構築—国がん他

2025.5.30.(金)

「節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫」(nTFHL)について、▼遺伝⼦異常の全体像の明確化▼臨床的および遺伝学的に異なる4つの分⼦亜型の同定—するとともに、タイプ別の「有効な予後予測スコア」を構築できた—。

国立がん研究センターと北海道大学病院、慶應義塾大学の共同研究チームが5月26日に、こうした研究成果を明らかにしました(国がんのサイトはこちら)。

更なる研究によって「nTFHLにおける個別化医療の推進や新規治療の開発」につながることに期待が集まります。

日本人の大腸がん罹患が今や世界的に見ても多くなっている

「節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫」(nTFHL:nodal T follicular helper cell lymphoma)は、T濾胞ヘルパー(TFH)形質を有する末梢性T細胞リンパ腫の1つです。

病理学的には、PD1やICOSなどの「T濾胞ヘルパー(TFH)関連マーカーの発現」という特徴があり、▼⾎管免疫芽球型(nTFHL-AI)▼⾮特定型(nTFHL-NOS)▼濾胞型(nTFHL-F)—の3病型に再分類されます。

これまでの遺伝⼦解析研究により、「⾎管免疫芽球型(nTFHL-AI)では、疾患に特異的な変異であるRHOA G17Vやエピゲノム修飾因⼦であるTET2、IDH2等の変異、T細胞受容体シグナル経路を活性化するPLCG1等の変異を⾼頻度に認める」との報告がありますが、「nTFHL全体」や「3つの病型における遺伝⼦異常の全体像」、「病型間での異常パターンの違」いについては⼗分に検討されていません。

またnTFHLの予後は⼀般に不良ですが、⼀部に「緩徐に進⾏する症例」があることが知られており、臨床的には「不均⼀な疾患」です。このため個々の患者の病態や予後リスクを正確に把握し、治療内容を調整するなどのきめ細やかな治療選択が必要とされています。

これまでに国際予後指標(IPI:international prognosticindex)などの「臨床因⼦に基づいた予後予測モデル」が提唱されていますが、さらに「遺伝⼦異常情報を組み合わせることで予後の予測性能が改善するか」は検証がされていません。

そこで共同研究チームでは、「nTFHLの遺伝⼦異常の全体像」を明らかにするとともに、「臨床病理学的特徴の異なる4つの亜型からなる分⼦分類」を作成し、これらの遺伝⼦異常が予後に与える影響について検証を⾏いました。

具体的には、173例のnTFHLの検体(北大病院を含む北⽇本⾎液研究会、久留⽶⼤学より)について、これまでの遺伝⼦解析研究の結果を参考にして、T/NK細胞腫瘍における242個のドライバー遺伝⼦を対象とした標的シーケンス(平均シーケンス深度:800×)を施⾏し、遺伝⼦変異と、TP53およびCDKN2Aを標的にするコピー数異常を解析しました。その結果、次のような状況が明らかになりました。

▽標的シーケンスのデータを⽤いて、変異に着⽬した解析を⾏ったところ、nTFHLでは4個の新規遺伝⼦(TET3、HLA-C、KLF2、NRAS)を含む35個のドライバー遺伝⼦が同定された

▽なかでもTET2の変異がもっとも⾼頻度(67%)に検出され、ほかにRHOA(46%)、IDH2(23%)、DNMT3A(18%)、PLCG1(9%)、TP53(8%)、HLA-A(5%)、HLA-B(5%)の変異が「5%以上の症例」で検出された

▽コピー数解析を⾏うとCDKN2Aの限局的な⽋失が6%に認められた

▽TP53およびCDKN2Aの⽋失情報を変異の情報に併せて、合計36個の遺伝⼦について計算すると、145症例(全体84%)で、少なくとも1つのドライバー異常を有していた

協働研究チームでは、これらの結果から「nTFHLにおける遺伝的背景の多様性が⽰された」と分析しています。

節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫の遺伝子異常の全体像



また、「こうした遺伝⼦異常によってnTFHLを分類できるか」を検証しました(⾼頻度に認められたドライバー変異とコピー数異常を⽤いて階層的クラスタリングを実施して、遺伝学的に異なる4つのプロトタイプ亜型を同定→プロトタイプ亜型の特徴を参考に、より簡便で臨床的に使いやすい分類法とするために、TET2、RHOA、IDH2、TP53、CDKN2A異常に基づく4つの分⼦亜型[TR-I(+)、TR-I(-)、AC53、NSD]からなる分⼦分類を作成)。

節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫の分類アルゴリズム



その結果、これら4つの分⼦亜型は「臨床的に明確な特徴」を⽰し、例えば次のような点を明らかにできました。

▽TR-I(+)は進⾏期の病期と関連し、⾎管免疫芽球型(nTFHL-AI)の典型的な臨床的特徴と⼀致していた

▽AC53は男性に多く、節外病変を有する症例が⽬⽴った

▽NSDは、⼤部分が⾮特定型(nTFHL-NOS)であり、若年者、限局期例が多く、performance statusやIPIも他の分子亜型と⽐較して有意に良好であった

▽各分⼦亜型における機能的経路に着⽬すると、▼TR-I(+/-)はTFH関連遺伝⼦の頻度が⾼い▼AC53ではDNA修復に関連する遺伝⼦異常の頻度が⾼い—という特徴が認められた

▽AC53は極めて予後不良である⼀⽅、NSDは予後良好で、とくに「ドライバー異常を有さないNSD」症例では極めて良好な予後を⽰した

節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫の予後



さらに共同研究チームでは、これらの知⾒に基づいて、▼TP53またはCDKN2Aの異常の有無▼ドライバー異常の有無▼臨床因⼦である国際予後指標(IPI)⾼リスク—の3項⽬からなる、新しい臨床遺伝学的予後予測モデル【mTFHL-PI】(molecular TFHL-prognostic index)を作成し、0点「低リスク」、1点「中等度リスク」、2点以上「⾼リスク」に分類することで、「nTFHLの予後が有効に層別化される」ことを示しています。

節性T濾胞ヘルパーT細胞リンパ腫のタイプ別予後予測



今回の研究により、「nTFHLにおける遺伝⼦異常の全体像の明確化」と「臨床的および遺伝学的に異なる4つの分⼦亜型の同定」、さらに「臨床因⼦と遺伝⼦異常情報との統合によって、より有効な予後予測スコアの構築」が実現できました。

更なる研究によって、今後「nTFHLにおける個別化医療の推進や新規治療の開発」が実現されることに期待が集まります。



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