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特養ホーム、加算取得に向けた体制整備により、利用者のQOLが上がり経営も好転―福祉医療機構

2019.3.5.(火)

 特別養護老人ホームの経営で、黒字と赤字とを分ける最初のポイントは、「施設内の体制整備と各種加算の取得」→「利用者のQOL向上」→「利用率の向上」という好循環を生み出せるかどうかにあると考えられる。さらに、その先には「大規模化」を目指すことも経営上、重要である―。

 福祉医療機構(WAM)が3月1日に公表した、2017年度の「特別養護老人ホームの経営状況について」から、こういった点が明らかになりました(WAMのサイトはこちら)。

特養ホームにおいても、施設の大規模化が重要ポイント

 2015年度の前回介護報酬改定の改定率は、全体でマイナス2.27%となったため、特養ホームの経営状況も厳しさを増しています。そうした中でWAMでは、貸付先から提出されたデータに基づいて、開設から1年以上が経過している特養ホーム3681施設(従来型1487施設、個室ユニット型2194施設)の経営状況を分析しました。

 まず赤字施設の割合を見ると、従来型では33.9%(前年度に比べて1.3ポイント減)、ユ個室ユニット型では31.7%(同じく0.7ポイント増)となり、およそ3分の1程度の特養ホームでは赤字経営となっている状況が伺えます。
2017年度特養ホームの経営状況(WAM)1 190301
 
施設の規模別に赤字施設の割合を見てみると、従来型では▼29人以下:38.7%▼30-49人:38.9%▼50-79人:37.4%▼80-99人:32.1%▼100人以上:25.1%―、個室ユニット型では▼29人以下:44.0%▼30-49人:23.8%▼50-79人:30.8%▼80-99人:24.6%▼100人以上:19.5%―となっており、「小規模施設で経営状況が厳しく、大規模施設で比較的経営状況が良い」状況が伺えます。

最大のコストとなる「人件費」の比率を見ると、従来型では▼29人以下:66.5%▼30-49人:66.0%▼50-79人:66.0%▼80-99人:65.0%▼100人以上:64.9%―、個室ユニット型では▼29人以下:64.9%▼30-49人:62.8%▼50-79人:62.9%▼80-99人:61.6%▼100人以上:60.9%―となっており、「大規模になるほど効率的な経営が可能となっている」ことが分かります。また利用者10人当たりの従事者数も、規模と比例しており、このことを裏付けていると言えるでしょう。

 
一方、従事者1人当たりの人件費を見ると、従来型では▼29人以下:3657円▼30-49人:3993円▼50-79人:4181円▼80-99人:4393円▼100人以上:4502円―、個室ユニット型では▼29人以下:3605円▼30-49人:3633円▼50-79人:3930円▼80-99人:4112円▼100人以上:4280円―となっており、規模が大きいほど「給与水準が高い」ことが分かります。
2017年度特養ホームの経営状況(WAM)2 190301
 
WAMでは、「小規模な施設ほど給与水準が低く、何らかの対応をとらなければ規模の大きな施設に待遇面で見劣りし、人材の確保も厳しい状況となる」と見ています。

介護保険制度の見直しについて議論を始めた2月25日の社会保障審議会・介護保険部会でも「事業所の大規模化」を重要検討テーマとすることを確認しています(関連記事はこちら)。「効率性の確保」「優れた人材の確保」など、特養ホームの経営にとってさまざまな面で「大規模化」を検討する時期に来ていると言えるでしょう。

加算取得の体制整備が、利用者のQOLを向上させ、利用率アップ・経営の好転につながる

 とは言え、一朝一夕に「大規模化」が実現できるわけではありません。

 そこで、赤字施設と黒字施設の違いをさらに詳しく見てみると、従来型・個室ユニット型ともに、黒字施設では「入所利用率が高い」ことが分かりました。つまり、当然ではあるものの、赤字施設の経営改善に向けた第一歩は「施設全体の利用率向上」にあると再確認できます。地域のケアマネジャーや居宅介護サービス事業所はもとより、医療機関(病院、診療所)に定期的に赴き、自施設の認知度向上、利用者紹介の依頼などを行えるような関係を構築することから始めてはいかがでしょうか。
2017年度特養ホームの経営状況(WAM)3 190301
 
 急性期の病院はもちろん、慢性期の病院(医療療養)においても、昨今の診療報酬改定で「より多くの重症患者を入院させる」ことが至上命題となり、「状態の安定した患者の早期退院」が経営上の重要テーマとなっているのです。この点、特養ホームで「状態の安定した要介護3以上の高齢者」を積極的に受け入れる体制を整えれば、急性期病院にとっては「退院先の確保」に、特養ホームについては「入所者の確保」につながります(いわばwin-winの関係となる)。特養ホーム経営においては、診療報酬改定をはじめとする医療制度の動きについても概要を把握し、急性期も含めた病院との緊密な連携関係を構築することも重要なポイントとなります(関連記事はこちらこちら)。

 
 また、とくに個室ユニット型では、黒字施設において▼栄養マネジメント加算▼個別機能訓練加算▼口腔衛生管理体制加算▼日常生活継続支援加算―などの各種加算の取得割合が高く、さらに、これら加算の取得率が高い施設では「利用率も高い」ことも明らかになりました。
2017年度特養ホームの経営状況(WAM)4 190301
 
加算取得は、ダイレクトに収益が増加します。さらに、これにとどまらず、「利用者のQOLが向上し、利用者に選ばれる施設になる」ことにもつながっていることが今回の分析から分かります。つまり、「施設内のさまざまな体制等の整備」→「加算の取得による収益増」→「利用者のQOL向上」→「利用者の増加」→「収益の増加」→「さらなる人材確保」→「さらなる体制整備の充実」→「利用者のQOLのさらなる向上」→・・・という好循環が生まれるのです。

まず各種加算の取得要件を細かく確認するとともに、自施設の状況を洗い直し、加算算定に向けた工程表(ロードマップ)を作成することが期待されます。その上で「人材配置」(必要に応じた増員も)など施設内の体制を整備し、早期に加算を取得し、「利用者に選ばれる施設」を目指すべきでしょう。

 

 
 
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