「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカー」測定で、より早期・高精度のアルツハイマー病鑑別診断の可能性—都健康長寿医療センター研究所
2024.4.17.(水)
「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカー」の測定により、認知症患者の脳内で起きている病気の状態(病理学的変化)を高精度に予測できる可能性がある—。
この検査が実装されれば、より早期に「アルツハイマー病であるのか、違う疾患であるのか」の鑑別が行えるようになれば、治療法の選択などがより適切に行えるようになると期待される—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)らの研究グループが4月15日にプレスリリース「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーと脳内病理所見の関係」を公表し、こうした点を明らかにしました(研究所のサイトはこちら)。
早期のアルツハイマー病鑑別によって、治療法選択がより適切に実施できると期待
認知症患者は、2018年に500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況を迎えましたが、2025年には約700万人(同じく5人に1人)、2040年には約800-950万人(同じく約4-5人に1人)に達し、さらにその後も増加が続くと見込まれます。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、本年(2023年)には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。
認知症対策は、医療・介護・福祉の各施策が連携し、総合的に進めることが極めて重要であり、2024年度の介護報酬改定では「行動・心理症状(BPSD)発生防止にチームで計画的に取り組む介護保険施設などを新加算で評価する」などの対応が、2024年度の診療報酬改定では「かかりつけ医の認知症対応力向上」を目指すなどの対応が検討されています。また、新たな認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の保険適用も行われています。
認知症の中でも、最も多い「アルツハイマー病」は、脳内に「アミロイドβというタンパク質が以上に蓄積され、その後タウというタンパク質が以上に蓄積され」ることにより、物忘れなど認知機能が低下していく疾患と考えられています。上述のレカネマブなどは「アミロイドβの蓄積」に対する治療薬といえ、「早期診断」が非常に重要となります。
アルツハイマー病の診断には「アミロイドβ42」(アルツハイマー病患者では減少する)、「リン酸化タウ」(逆にアルツハイマー病患者では増加する)などの脳脊髄液バイオマーカーが有用ですが、近年、「近年脳脊髄液中のアミロイドβ42は他の疾患でも低下する」「リン酸化タウの増加は脳内のタウ蓄積よりもかなり早期に生じる」可能性が指摘されています。
そこで、研究所らの研究チームは「アミロイドβ・タウなど」と「脳内病理」との関係に着目。
具体的には、都健康長寿医療センターで、過去に「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカー検査」を実施し、その後、同院で病理解剖を行った127例を対象に両者の関係を検討。そこからは、次のような点が明らかになりました。
▽タウの蓄積が広がっていない症例の中でも、脳内のアミロイドβ病理の強さとともに脳脊髄液中のリン酸化タウが軽度増加している
▽脳内にアミロイドβ病理を認める症例の中でも、タウの蓄積が広がると脳脊髄液中のリン酸化タウはさらに増加している
▽脳脊髄液中のアミロイドβ42は、脳内のアミロイドβ病理の強さとともに減少しているものの、進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症など一部の疾患では脳内アミロイド β病理がないにも関わらずアミロイドβ42が減少することがある
研究チームは、これらの結果から「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーを測定した患者の脳内で起きている病気の状態(病理学的変化)を、臨床現場においてより高精度に予測できる」と指摘しています。より早期に「アルツハイマー病であるのか、違う疾患であるのか」の鑑別が行えるようになれば、治療法の選択などがより適切に行えるようになります。
今後の認知症対策推進に向けて、非常に重要な一歩と言えるでしょう。
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