後期高齢者健診で用いる「後期高齢者の質問票」、うち12項目で簡便に「フレイル」ハイリスク者を抽出可能—都健康長寿医療センター研究所
2023.8.18.(金)
自治体の後期高齢者健診で用いられる「後期高齢者の質問票」のうち、12項目の合計得点で「フレイル」のハイリスク者抽出が可能となる。抽出したフレイルハイリスク者に適切な支援を行うことで、要支援・要介護状態に陥ることを防止できる—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が先頃公表した研究成果から、こうした点が明らかになりましたました(研究所のサイトはこちら)。
フレイルは適切な支援で「自立」に戻ることが可能だが、放置すれば要介護状態に
自治体が実施する後期高齢者を対象とする健康診査(健診)では、2020年度より、順次、高齢者の健康状態を総合的に評価することを目的とした15項目の「後期高齢者の質問票」を用いて生活習慣把握がなされてきています。
研究所「福祉と生活ケア研究チーム」(医療と介護システム研究)・石崎達郎研究部長の研究グループは、「15項目の質問票を点数化して『健康課題を抱えるハイリスク者』を選別することができないか」と考え、「SONIC研究」(研究所、大阪大学、慶応義塾大学らによる共同研究)で収集したデータ(分析者数1576名、平均年齢85.7歳、女性52.9%)を解析。そこから、15項目のうち次の12項目(フレイル関連12項目)の合計点を「フレイルの指標」として活用可能なことが分かりました。
【運動機能】
▽以前に比べて歩く速度が遅くなっているか(問7)
▽この1年間に転んだことがあるか(問8)
▽ウォーキング等の運動を週1回以上しているか(問9)
▽週に1回以上外出するか(問13)
【栄養状態】
▽1日3食きちんと食べているか(問3)
▽6か月間で2―3kg以上体重が減少したか(問6)
【口腔機能】
▽半年前に比べてかたいものが食べにくくなったか(問4)
▽お茶や汁物等でむせることがあるか(問5)
【認知機能】
▽周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われるか(問10)
▽今日が何月何日か分からないときがあるか(問11)
【社会的側面】
▽ふだんから家族や友人と付き合いがあるか(問14)
▽体調が悪いときに身近に相談できる人がいるか(問15)
さらに、この「フレイル関連12項目」がどの程度の確からしさでフレイルを識別できるのかを、461名の高齢者(平均年齢79.7歳、男性50.9%)で分析。次のような状況(有用である)が明らかになりました。
▽「フレイル判定」された高齢者グループ(中央値4点)では、「健常と判定されたグループ」(中央値1点)、「プレフレイルと判定されたグループ」(中央値2点)と中央値が有意に異なっていた(「フレイルの人は12項目得点が高い」と言える)
▽「フレイル関連12項目」の点数はJ-CHS基準(日本語版フレイル基準、国立長寿医療研究センターのサイトはこちら(2020年版)で判定されたフレイルを「中等度の確からしさ」で識別可能であり、点数が4点以上の場合にフレイルを識別できる
フレイルは「加齢に伴い抵抗力が弱まり、体力が低下した状態」や「自立喪失(介護が必要な状態や死亡)のリスクが高まっている状態」などと定義され、自立→フレイル→要介護状態と進んでいきます。しかし、適切な支援・介入により「フレイル→自立」と回復することも可能であり、早期に「フレイル」状態にある高齢者を鑑別・抽出し、適切な支援(栄養補給、筋力増強、外出、活動への参加を促すなど)を行うことが、「要介護者の増加防止」に向けて極めて重要です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
この点、「後期高齢者の質問票」は本年(2023年)4月末時点で、全国自治体の94.0%(1639区市町村)で使用されており、この質問票のうち「フレイル関連12項目」の点数から「フレイルのハイリスク者」を簡便に把握できることは、効果的なフレイル対策として極めて有用です。
研究所では「高齢者の健康政策の目玉である『後期高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施』において、区市町村が個別的支援を実施する際の対象者抽出や支援後の評価、さらに通いの場等の参加者を対象とするフレイル評価のツールとして活用可能である」とアドヴァイスしています(関連記事はこちら)。
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