「耳の聞こえにくさ」に早期かつ適切に対応することが転倒等の傷害予防のために重要—都健康長寿医療センター研究所
2023.10.24.(火)
「聴覚情報の制限→運動の変化」が加齢性難聴者の転倒リスクを高めていると考えられ、「耳の聞こえにくさ」への早期かつ適切な対応(医療機関受診の勧奨、補聴器装着の勧奨など)が転倒などの傷害予防の観点から重要である—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が10月18日、こうした研究成果を発表しました(研究所のサイトはこちら)。
聴覚情報の制限→運動の変化」が加齢性難聴者の転倒リスクを高める可能性
加齢性難聴は、転倒発生のリスクを高めることが数多くの疫学研究から報告されています。高齢者が転倒した場合、「骨折などの障害が発生する」→「要介護状態に陥りやすくなる」という経過をたどりやすくなります。
この点、「なぜ難聴によって転倒が多く引き起こされるのか」といった背景メカニズムは明らかにされてきませんでした。
そこで研究所の桜井良太研究員をはじめとする研究グループが、「若年者を対象に『疑似的に難聴環境』を作り出し、転倒が起こりやすい動作である障害物跨ぎ越し時の動作」を調査し、「加齢性難聴が転倒リスクを引き上げる背景」を検討しました(あわせて「視覚」にも着目)。
具体的には、次の4つのグループを設け、「6.5m先の障害物(15cm)に近づいて跨ぎ越す」際の歩き方や足が障害物を超えるときの足上げの高さ(以後クリアランスとする)を測定しています。
(1) 聴覚制限なし、視覚制限なし(「穴の開いたイヤーマフを用いて聴覚を制限せず、「足元が見えるフレームを持ち視覚を制限しない」グループ」
(2) 聴覚制限なし、視覚制限あり(「穴の開いたイヤーマフを用いて聴覚を制限しない」が、「足元が見えなくなるフレームを持ち視覚を制限」したグループ)
(3) 聴覚制限あり、視覚制限なし(「イヤーマフを用いて聴覚を制限」し、「足元が見えるフレームを持ち視覚を制限しない」グループ」
(4) 聴覚制限あり、視覚制限あり(「イヤーマフを用いて聴覚を制限」し、「足元が見えなくなるフレームを持ち視覚を制限」したグループ)
実験からは次のような結果が得られました。
▽足元の視覚情報が制限された場合は、先導脚のクリアランスが統計学的に有意に高くなる
▽聴覚情報が制限された場合は、先導脚のクリアランスのばらつきが統計学的に有意に大きくなる
▽障害物接近時の歩行動作では、「足元の視覚情報」と「聴覚情報」の両者が制限された場合に、統計学的に有意に障害物接近時の歩行(歩幅)のばらつき(変動係数)が大きくなる
「運動の変動性増加」は転倒リスクを高める一因となり、「聴覚情報制限によって障害物回避が困難になる」例も確認されています。
こうした結果から、▼聴覚情報の遮断により、一連の障害物回避動作のばらつきが大きくなる▼その傾向は「足元が見えない状況下」で顕著に現れる—ことが明らかにされ、研究グループでは「聴覚情報には運動を安定させる(動作のばらつきを統制する)働きがある」可能性があると推測。
あわせて「聴覚情報の制限→運動の変化」が加齢性難聴者の転倒リスクを高めていると考えれば、「耳の聞こえにくさ」に対する早期かつ適切な対応が「傷害予防」の観点から重要であると結論付けています。高齢者のアセスメントにおいて「聴覚の確認」をしっかりと行い、
「耳の聞こえにくさ」が判明した場合には、早期かつ適切に適切な対応(医療機関受診の勧奨、補聴器装着の勧奨など)をとることが重要です。
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