地域包括ケアシステムの深化、制度の持続可能性確保を目的に介護保険制度を改正―厚労省・坂口審議官
2017.1.20.(金)
厚生労働省は19、20に2日間にわたって全国厚生労働関係部局長会議を開催。厚生労働行政の重要事項を、都道府県の保健福祉担当者に詳しく説明しています(厚労省のサイトはこちら)。
老健局の重要事項については、厚生労働省大臣官房の坂口卓審議官(老健、障害保健福祉担当)(医政局、保険局併任)が次期介護保険制度改革を中心に説明しました。
この4月(2017年4月)から全市町村で要支援者の訪問介護などを総合事業に移管
介護保険制度改革について、メディ・ウォッチでもお伝えしているとおり、社会保障審議会・介護保険部会で議論され(関連記事はこちら)、昨年末の予算案編成過程で塩崎恭久厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣との折衝において詳細が固まっています(関連記事はこちら)。今後、与党(自由民主党、公明党)との調整、パブリックコメントなどを経て、今通常国会に改正法案が提出されます。
改革の柱は、「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」の2本と言えます。
前者の地域包括ケアシステムについては、まず「保険者機能の強化」があげられます。介護保険は地域住民に最も身近な自治体である市町村が保険者となっており、「地域の課題を分析し、自立支援・重度化予防に向けた取り組み」を行うことが求められます。坂口審議官は具体的に、▼データに基づく地域課題の分析▼地域マネジメントに係る取組内容・目標の介護保険事業計画への記載▼実際の保険者機能の発揮・向上▼取組の評価―というPDCAサイクルを回すことが重要と強調。さらに取組内容などに応じて「経済的なインセンティブ」を付与するための法改正を行い、第7期介護保険事業計画、つまり2018年度から実施する方針を明確にしました。
ただし市町村の規模などによっては、こうした取り組みの実施にハードルもあります。そのため都道府県の担当者に対し「データ分析のノウハウや、医師会など関係団体との連携について市町村を支援してほしい」と要望しています。
また2014年度の前回介護保険制度改革では、要支援者への訪問・通所介護を市町村の総合事業に移管することとしており、2017年度からは全市町村で実施(移行に向けた経過措置が終了)することになっています。このため坂口審議官は「都道府県は全市町村での円滑な移行に向けて、助言・指導を行ってほしい」と要望するとともに、総合事業の検証手法を開発し、第7期・第8期の介護保険事業計画の中で定期的に総合事業の実施状況を検証していく方針も明らかにしています。
このほか、▼適切なケアマネジメントの推進に向けた「ケアマネジメント手法の標準化」(アセスメントの際の確認方法など)に2017年度から取り組む▼介護療養からの新たな転換先となる住まい・医療・介護の機能を併せ持った「新介護保険施設」の創設▼認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の実践―などに積極的に取り組む考えも強調しました。
3割負担対象は約12万人だが、高額介護サービス費があるため実際の負担増は少ない
介護保険制度改革のもう一つの柱である「持続可能性の確保」については、(1)利用者負担の見直し(2)高額介護サービス費の見直し(3)費用負担の見直し―などが行われます。
(1)の利用者負担については、世代間・世代内の負担の公平性を確保することが目的で、特に所得の高い高齢者において「3割負担」を導入するものです。具体的な基準は今後政令で定められますが、坂口審議官は「年金収入+その他所得ベースで340万円以上」(年金収入だけの場合は344万円以上)という目安を紹介しました。なお、介護保険の受給者は現在496万人ですが、このうち3割負担が導入されるのは12万人程度で、全体の約3%にとどまります。また月額上限を定める高額介護サービス費があるため「直ちに、実際に負担増になる人は少ない」と坂口審議官は説明しています。
また(2)の高額介護サービス費については、所得が「一般」区分の世帯について月額上限が3万7200円から4万4400円(医療保険の高額療養費と同額)に引き上げられますが、経過的な激変緩和措置として「1割負担者のみの世帯では、年間上限額を3年間設定する」ことになっています。
(3)は、第2号被保険者の負担する保険料について、これまでに「加入する医療保険者の加入者数に応じた負担」(加入者割)から「加入する医療保険者の加入者数と負担能力に応じた負担」(総報酬割)に、段階的(2017年8月から2分の1総報酬割、19年度から4分の3総報酬割、20年度から全面総報酬割)に移行していくことになります。
なお福祉用具については「同一製品でも大きな価格差がある」ことが問題視されており、坂口審議官は、▼製品ごとに国が平均価格を把握して公表する▼福祉用具専門相談員に貸与製品の価格だけでなく、全国平均価格や他製品を示すよう義務づける▼製品ごとの貸与価格上限を設定する―といった対応をとることを説明しました。もっともこれらには準備(例えば全国の価格調査など)が必要なため、2018年度から実施されます。
このほか、介護離職ゼロに向けて「2017年度に臨時の介護報酬改定を行い、介護職員処遇改善加算に、新たなキャリアパス要件や月額3万7000円程度の処遇改善することなどを条件とした『新加算I』を創設する」ことが紹介されました。新キャリアパス要件(要件III)の詳細などは、今後、解釈通知やQ&Aなどで明らかにされます。
【関連記事】
介護保険制度改革案で意見まとめ、利用者負担や総報酬割は両論併記―社保審・介護保険部会
軽度者への生活援助サービス、総合事業への移行は時期尚早―社保審・介護保険部会(2)
介護保険、現役並み所得者での3割負担を厚労省が提案―社保審・介護保険部会(1)
在宅医療・介護連携、連携の手順を明確にし、都道府県による市町村支援を充実―社保審・介護保険部会
40-64歳が負担する介護保険の保険料、どこまで公平性を求めるべきか―介護保険部会(2)
能力に応じた利用者負担を求めるべきだが、具体的な手法をどう考えるべきか―介護保険部会(1)
全国平均より著しく高額な「福祉用具の貸与価格」を設定するには保険者の了承が必要に―介護保険部会(2)
「軽度者への生活援助」の地域支援事業への移行、要支援者の状況検証が先―介護保険部会(1)
要支援者への介護サービス、総合事業への移行による質低下は認められず―介護保険部会(2)
地域包括支援センター、「土日の開所」や「地域での相談会実施」など相談支援機能の拡充を―介護保険部会(1)
ケアプラン作成費に利用者負担を導入すべきか―介護保険部会
介護従事者の処遇改善に向け、来年度(2017年度)に臨時の介護報酬改定―介護保険部会(2)
要介護認定の「更新」有効期間、上限を現在の24か月から36か月に延長―介護保険部会(1)
介護保険の被保険者対象年齢、「40歳未満」への引き下げは時期尚早―介護保険部会
介護費用の分担、現役世代の頭割りを維持すべきか、負担能力も勘案していくべきか―介護保険部会(2)
所得の高い高齢者、介護保険の利用者負担を2割よりも高く設定すべきか―介護保険部会(1)
介護保険の福祉用具貸与・販売や住宅改修、標準価格を導入すべきか―介護保険部会(2)
軽度者への生活援助、保険給付のあり方などめぐり激論続く―介護保険部会(1)
介護人材不足に元気高齢者の協力やロボット活用を、2025年に向けた生産性向上を検討―介護保険部会
要支援者のケアマネジメント、地域包括支援センターの業務から外すべきか―介護保険部会
適切なケアマネジメントの推進に向け、「特定事業所集中減算」の是非も論点に―介護保険部会
「あるべきでない地域差」是正に向け、市町村へのインセンティブ付与などを検討―介護保険部会
在宅医療・介護連携の推進、市町村と医師会との連携が不可欠―社保審・介護保険部会
軽度の要介護者への生活援助サービス、介護保険から地域支援事業に移行すべきか―社保審・介護保険部会
介護療養病床など、医療・介護に「生活機能」を備えた新たな介護保険施設などヘの転換を了承―療養病床特別部会