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がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている—国がん他

2025.1.24.(金)

がん細胞では「ミトコンドリア」(細胞内の小器官)が異常を起こす→この異常なミトコンドリアが、がん細胞から周辺の免疫細胞に移る→免疫細胞の働きを阻害する→がん治療(免疫チェックポイント阻害剤)の効果が弱まる—。

国立がん研究センター・岡山大学・千葉県がんセンター・千葉大学・山梨大学・近畿大学・埼玉医科大学・信州大学・東京大学の共同研究チームが1月23日に、こうした研究結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)。

今後、「ミトコンドリアをターゲットにした新しいがん治療法の開発」や、「ミトコンドリアを、がん免疫療法の効果を判断するためのマーカーとしての活用」につなげられると期待されます。

「ミトコンドリアをターゲットにした新しいがん治療法の開発」などに期待

我が国の死因第1位であるがんですが、医学・医療の進歩により徐々に死亡率は低下しています(女性では老衰が1位となっている、関連記事はこちら)。

医学・医療の進展による新たながん治療法の1つとして、オプジーボやキイトルーダなどの「免疫チェックポイント阻害薬」が以前より注目されています。

この治療法は、「薬剤が、がん細胞の周りにいる免疫細胞、特にTリンパ球と呼ばれる細胞(TIL)に働きかけ、活性化したTILが、がん細胞を攻撃する」ことで効果を発揮します。

非常に注目を集める免疫チェックポイント阻害剤ですが、「半数以上のケースで効果がない」のが実際です。

この点、がん細胞ではミトコンドリア(細胞の中でエネルギーを作る小さな器官)に異常があり、「TILでもミトコンドリアが損傷を受け、その結果、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)が効きにくくなる」ことが知られています。

今般、共同研究チームは「TILのミトコンドリアの損傷原因」を解明するために、ミトコンドリアが持つ独自のDNA(mtDNA)の配列を調査。そこでは、約40%の症例で「がん細胞と同じ変異」が見つかりました。

がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている1



さらに「ミトコンドリアが、がん細胞からTILへ移動している」ことを疑い、がん細胞のミトコンドリアを赤、TILのミトコンドリアを緑に色付けして観察したところ、「がん細胞からTILにミトコンドリアが移動し、入れ替わるものがある」ことが明らかになりました。

がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている2



この結果、がん細胞のmtDNA変異がTILにも現れるようになりました。その原因として活性酸素(ROS)が関与していると考えられ、「ROSを取り除く薬剤」を使用すると、ミトコンドリアの入れ替わりが抑制されました。

また、変異したTILでは「エネルギーを作る機能の低下」「働きの弱まり」が認められ、T細胞のミトコンドリアが損傷したマウスでは「がん免疫療法が効きにくくなる。特に一度免疫チェックポイント阻害薬で治療した後に、腫瘍が再び生じやすくなる」ことが示されました。

がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている3



さらに、腫瘍でmtDNA変異が見つかる症例では「がん免疫療法の効果が長続きせず、生存率も悪化する」ことも明らかになりました。

がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている4



こうした研究結果から「がん細胞が異常なミトコンドリアをTILに送り込み、乗っ取ってしまう」ことでTILの働きを妨げられ、免疫システムから逃れようとしていることが明らかになりました。これらが、「がん免疫療法」(免疫チェックポイント阻害剤)の効果を弱める一因となっていると考えられます。

がん細胞の「異常なミトコンドリア」が周辺の免疫細胞に移行し、免疫細胞の働きを阻害して生き残りをはかっている5



このように「がん細胞が生き残るための仕組み」が新たに解明され、今後、「ミトコンドリアをターゲットにした新しい治療法の開発」や、「ミトコンドリアを、がん免疫療法の効果を判断するためのマーカーとしての活用」につなげられると期待されます。



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