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転移のない小児・AYAの高悪性度骨肉腫、術前のMAP療法の効果が乏しい場合でも、術後のMAP療法継続が推奨される—国がん他

2025.4.8.(火)

転移のない小児・AYA世代に発生した高悪性度骨肉腫のうち、術前化学療法におけるMAP療法(メトトレキサート大量療法+ドキソルビシン+シスプラチン)の効果が乏しい患者について、▼術後もMAP療法を継続した場合▼術後はMAPIF療法(メトトレキサート大量療法+ドキソルビシン+シスプラチン+イホスファミド)を行った場合—を比較すると、前者(術後もMAP療法を継続)のほうが有効性・安全性ともに上回っていることが分かった—。

国立がん研究センター・北海道がんセンター・岡山大学病院・日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の共同研究チームが4月7日に、こうした研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。「従来の抗がん剤治療の工夫」では、高悪性度骨肉腫の治療成績を向上させることは困難であり、「他のがん種で試みられている循環腫瘍DNAの検出を用いた微小残存病変の有無による治療変更」「作用機序の異なる新規薬剤の開発」が期待されます。

「骨肉腫」は小児やAYA世代(一般的に15-39歳)に多い希少がん

「骨肉腫」は小児やAYA世代(一般的に15-39歳)に好発する、国内では年間約200名に発生する希少がんです。

多くのケースが「転移しやすい高悪性度」であり、手術療法に加えて化学療法が必要となります。化学療法については、1980年代からMAP療法(▼メトトレキサート大量療法(HD-MTX)▼ドキソルビシン(DOX)▼シスプラチン(CDDP)—の3剤を併用する療法)が用いられ、5年生存率は70%台まで向上していますが、現在では頭打ちとなっています。

このため、より効果的な化学療法の確立が求められており、新たに「術前化学療法で効果が乏しかった患者に対し術後の化学療法を変更する方法」、具体的には、「標準治療であるMAP療法に加えて『IF』(イホスファミド)や『IE』(IF(イホスファミド)とエトポシドの併用)を追加する療法」に注目が集まっています。

ただし、海外の臨床試験(2005から2011年)では「IE」(イホスファミドとエトポシドの併用)の上乗せ効果は認められませんでしたが、本邦の臨床試験(1993年から2001年)では「IF」(イホスファミド)大量投与の有効性が示唆されており、「MAP療法+α」の有効性・安全性に関する検証が求められていました。

そこで、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)は2010年から2020年8月まで、次のような臨床試験を実施しました。

【対象患者】
▽4-50歳の頭頸部・脊椎を除く骨から発生した転移のない高悪性度骨肉腫の患者(287名)

【手法】
▽MAP療法(メトトレキサート大量療法+ドキソルビシン+シスプラチン)を行った後に腫瘍を切除した患者(177名)を選別

▽顕微鏡の観察で「MAP療法の効果が乏しい」と判定された患者(103名)に対し、術後化学療法として次のいずれが優れているかを検証(患者はA・Bのいずれかにランダムに振り分けられた)
(A)MAP療法の継続:51名
(B)MAPIF療法(メトトレキサート大量療法ドキソルビシン+シスプラチン+イホスファミド大量投与):52名

MAPIF療法では、「累積総投与量体表面積1平米当たり90g」(3g/m2×5日間を6コース)のイホスファミドが投与され、ドキソルビシンとメトトレキサートは累積総投与量として各々57%と80%に減量されています。

MAP療法・MAPIF療法の比較試験概要



この研究からは、次のような結果が得られました。
【主たる評価項目】(有効性):無病生存期間(ランダムに振り分けられてから疾患の悪化や2次発がんが生じずに患者が生存している期間)
→A群に対するB群のハザード比(死亡あるいは増悪のリスクが何倍かを示す数値)は1.05(95%信頼区間0.55-1.98)で、B群(MAPIF療法)の優越性を示すことはできなかった(時計学的に「B群>A群」となる場合に有効と判断できる、以下同)

MAP療法のほうが、MAPIF療法に比べて無病生存期間が長い



【副次的評価項目1】(有効性):全生存期間(ランダムに振り分けられてから患者が生存している期間)
→A群に対するB群のハザード比は1.48(95%信頼区間0.68-3.22)で、B群のほうが生存期間が短い傾向であった

MAP療法のほうが、MAPIF療法に比べて全生存期間が長い



【副次的評価項目2】(安全性):有害事象発生割合
→B群では副作用により9名が途中で治療を中止したが、A群では副作用によって中止した患者はゼロ人であったなど、B群で副作用が多く見られた



こうした結果から、JCOGでは、転移のない小児・AYA世代に発生した高悪性度骨肉腫に対する抗がん剤治療は、「術前化学療法におけるMAP療法(メトトレキサート大量療法+ドキソルビシン+シスプラチン)の効果が乏しい場合でも、術後もMAP療法(メトトレキサート大量療法+ドキソルビシン+シスプラチン)の継続が推奨される」と結論付けています。

さらにJCOGでは、今般の研究結果および上述した海外の臨床研究結果から「従来の抗がん剤治療の工夫」では、高悪性度骨肉腫の治療成績を向上させることは困難であるとし、「他のがん種で試みられている循環腫瘍DNAの検出を用いた微小残存病変の有無による治療変更」「作用機序の異なる新規薬剤の開発」が不可欠と指摘しています。

なお、少子化が進行し、症例確保が難しくなっている日本国内では「より効率的な治療開発」も必要であるとコメントしています。



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