総合入院体制加算、「特定行為研修修了看護師」配置の要件化へ―中医協総会(1)
2019.11.8.(金)
【総合入院体制加算】における医療従事者の負担軽減・処遇改善計画の1項目として、「特定行為研修を修了した看護師の配置」などを追加してはどうか―。
【医師事務作業補助体制加算】について、「緊急入院患者数」や「全身麻酔手術件数」などの基準値を見直し、より多くの、幅広い医療機関が届け出可能な環境を整備してはどうか―。
11月8日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。今後、具体的な施設基準等見直し案を詰めていきます。
医師事務作業補助体制加算、患者数の少ない中小病院では取得しにくい
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が本格化しています。11月8日の中医協総会では、「医療従事者の働き⽅」を支える診療報酬に関し▼タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進▼⼈員配置の合理化推進▼会議の合理化推進―を、また「ICTの利活用」(オンライン診療など)、「情報共有・連携」など非常に幅広い項目について議論を深めました。
本稿では「タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進」のうち、▼医師事務作業補助体制加算▼総合入院体制加算―の要件等見直し論議に焦点を合わせてみます。医師の働き方改革を診療報酬で下支えする方策の一環です。
「診療報酬で勤務医の負担軽減をどう進めていくか」は従前より重要テーマの1つとなっており、今から10年以上前の2008年度改定で【医師事務作業補助体制加算】が創設され、その後、算定可能病棟の拡大や点数の引き上げなどの充実・強化が図られてきています。
医師が、書類作成等に忙殺されている状況を是正・解消することを目指し、「医師の事務作業を補助する専従のスタッフ」を配置した場合に、スタッフの配置状況や業務時間に応じて、すべての入院患者につき、入院初日に920-188点を算定できるものですが、現在は「勤務医負担軽減計画を策定する」ことが施設基準に盛り込まれており、「勤務医の負担軽減に向けた総合的な体制を評価する」側面も併せ持っています。
医療現場から非常に高く評価されるとともに、2018年度改定の結果検証調査から「加算届け出医療機関では、未届け医療機関に比べて▼多くの項目で医師の負担軽減策を実施している▼勤務環境改善マネジメントシステム推進チームを設置し、勤務環境の現状分析を持している割合が高い―」ことが分かるなど、負担軽減に向けた効果も上がっています。
もっとも、医師事務作業補助者を複数配置し、医師の負担軽減に資する取り組みを行っていながら、【医師事務作業補助体制加算】の届け出ができない医療機関もあり、そこからは、次のような課題があると指摘されます
▽医師事務作業補助者配置のメリットが少ない
▽施設基準のうち「年間の緊急入院患者数に関する基準」と「全身麻酔による手術件数に関する基準」のクリアが難しい
「年間の緊急入院患者数に関する基準」は、▼15対1加算:800名以上▼20対1加算から40対1加算:400名以上▼50対1加算:100名以上▼75対1加算・100対1加算:50名以上―に、「全身麻酔による手術件数に関する基準」は、20対1加算から40対1加算において「400名以上」に設定されています。
緊急入院患者等が多ければ医師の負担が大きくなり、負担軽減のためには「より多くの医師事務作業補助者」を抱える必要があることを踏まえたものと考えられますが、反対側から見れば「急性期の大病院で取得しやすい基準になっている」ことも事実です。
診療側委員は、【医師事務作業補助体制加算】は勤務医の負担軽減に大きな効果があるもので「より多くの、幅広い医療機関で算定が可能となるように施設基準等を見直すべき」と訴えています。例えば、「年間の緊急入院患者数に関する基準」と「全身麻酔による手術件数に関する基準」について猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は、「実数であれば当然、大病院に有利である。例えば『病棟当たりの患者数』に基準を見直してはどうか。また、回復期・慢性期入院医療を提供する医療機関でも取得が進むような要件設定も考慮すべきではないか」と具体的な提案を行いました。
また支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)も「勤務医の負担軽減を進める」点には異を唱えず、「診療報酬の届け出・算定で求められる基準」と「医療現場」とのミスマッチを解消する方向で施設基準等を見直してはどうかとの考えを示しています。
例えば、医療現場からは「勤務医の負担軽減に向けて、『医師事務作業補助者の外来への配置』が効果的ではないか」との声が多数上がっています。
【医師事務作業補助体制加算】は、入院医療の加算(入院基本料等加算)ですが、診療報酬点数では、▼医師事務作業補助者は、医師の業務状況等を勘案して配置することとし、病棟業務以外にも、「外来における業務」や、医師の指示の下で「文書作成業務専門の部屋等における業務」も可能▼【医師事務作業補助体制加算1】では、医師事務作業補助者の延べ勤務時間数の8割以上の時間が「病棟」「外来」で行われていること―とされ、「医療機関の外来」業務補助も実施可能です。幸野委員の指摘を踏まえれば、この点をより明確化したり、「より外来業務に携わりやすくなる」ような工夫を検討していく可能性があります。
総合入院体制加算、院内助産所開設なども負担軽減項目への追加を検討
【総合入院体制加算】は、総合的かつ専門的な急性期医療を提供する一般病院を評価する診療報酬項目です。一時、「特定機能病院並みの医療提供を行う一般病院」を評価するものとも説明され、高い点数(120-240点、すべての入院患者について入院期間中、毎日算定可能)を設定するともに、▼人工心肺を用いた手術▼悪性腫瘍手術▼腹腔鏡下手術▼放射線治療(体外照射法)▼化学療法▼分娩件数―のそれぞれに厳しい診療実績要件が設けられています。
さらに現在では、【総合入院体制加算】を届け出るために、▼医療従事者の負担軽減・処遇の改善に関し、勤務状況を把握し、その改善の必要性等を提言する責任者の配置▼「医療従事者の負担軽減・処遇改善に資する計画」の作成―などが求められるなど、「医師にとどまらず、医療従事者全体の負担軽減・処遇改善を評価する」側面も併せ持った加算となっています。
この「医療従事者の負担軽減・処遇改善に資する計画」には、▼外来診療時間の短縮、地域の他医療機関との連携などの「外来縮小」の取り組み(許可病床400床以上の病院では必須項目)▼院内保育所の設置(夜間帯や病児保育実施が望ましい)▼医師事務作業補助者配置による病院勤務医の事務負担軽減▼病院勤務医の時間外・休日・深夜の対応についての負担軽減・処遇改善▼看護補助者配置による看護職員負担軽減―のうち2項目以上を盛り込むことが必要です。
この点、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、これら負担軽減・処遇改善計画に盛り込むべき項目について、さらに▼医師と看護職員との業務分担▼特定行為研修を修了した看護師の配置▼院内助産等の開設―などを追加してはどうか、との考えを提示しました。
医療現場から「医師等の負担軽減に向けて、特に効果が高い」との声が上がっている項目を追加することで、より実効的な負担軽減・処遇改善が実現できると期待され、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)もこの提案に強く賛成しています。また、医療現場のニーズにマッチした項目を追加する方向は、支払側の幸野委員との見解にも沿うものと言えるでしょう。
このうち「特定行為研修を修了した看護師」は、医師または歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38の診療上の補助(特定行為)を実施することが認められます。今年(2019年)3月時点で1685名が研修を修了していますが、厚労省の「2025年度までに10万人を養成する」との目標達成までには、まだまだ遠い道程があります。
特定行為研修をより受けやすくするために、厚労省は▼「在宅・慢性期領域」「外科術後病棟管理領域」「術中麻酔管理領域」「救急領域」における研修のパッケージ化▼研修時間等の精査(一部で短縮)―などを実施(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
また、日本看護協会では「特定行為研修を織り込んだ、新たな新認定看護師制度」を2020年度からスタートさせます。
さらに、特定機能病院では「自院に勤務する看護師が、より小さな負担が特定行為研修を受けられるよう、自院自ら特定行為研修実施施設に名乗りを上げる」動きを加速化させており、日本病院会では、こうした取り組みを行う加盟病院のサポートも始めています。
医師からのタスク・シフティング先として注目される「特定行為研修を修了した看護師」の配置が、【総合入院体制加算】の中で評価されることとなれば、さらに養成が進み(病院側も、看護師側も積極的に研修受講に乗り出す)、医師の業務負担軽減・医療の質向上につながる「正のスパイラル」が動き始めそうです(関連記事はこちら)。
【関連記事】
在宅療養支援病院、往診担当医師は「オンコール体制」でも良い―中医協総会
【機能強化加算】、個々の患者に「かかりつけ医機能」について詳しく説明せよと支払側要望―中医協総会(2)
「紹介状なし患者からの特別負担」徴収義務、400床未満の地域医療支援病院へも拡大―中医協総会(1)
【療養・就労両立支援指導料】の対象を脳卒中や肝疾患にも広げ、より算定しやすく見直し―中医協総会(2)
救急医療管理加算、2020年度改定で算定要件の明確化・厳格化を検討―中医協総会(1)
「頭蓋内損傷リスクが低い小児、CT推奨しない」等のガイドライン遵守を診療報酬で評価すべきか―中医協総会
小児抗菌薬適正使用支援加算、算定対象を3歳以上にも広める一方で算定要件厳格化を模索―中医協総会(2)
急性期一般1の「重症患者30%以上」等の施設基準、中医協の支払側委員は「低すぎる」と強調
「医師働き方改革」に向けたマネジメントコスト、診療報酬で評価すべきか否かで激論―中医協総会(1)
慢性腎疾患患者への「腎移植の選択肢もある」などの情報提供を促進せよ―中医協総会(2)
緩和ケア病棟入院料を厳格化、「緩和ケアチームによる外来・在宅医療への関与」求めてはどうか―中医協総会(1)
薬局業務の「対物」から「対人」への移行促すため、14日以内の調剤料を引き下げてはどうか―中医協総会(2)
「働き方改革」への診療報酬でのサポート、人員配置要件緩和を進める方向は固まるが・・・―中医協総会(1)
リンパ浮腫指導管理料等、2020年度改定に向け「算定対象の拡大」を検討―中医協総会(2)
入院患者のポリファーマシー対策、減薬の成果だけでなく、減薬に向けた取り組みも評価してはどうか―中医協総会(1)
かかりつけ医機能を評価する【機能強化加算】、要件を厳格化すべきか―中医協総会
小規模な急性期一般1で認知症患者が多い背景、回復期リハの実績評価の妥当性など検討を―中医協・基本小委
2020年度診療報酬改定に向けた議論整理、地域医療構想の実現・働き方改革・オンライン診療などで意見対立―中医協総会
スタッフの8割以上が理学療法士の訪問看護ステーション、健全な姿なのか―中医協総会
2040年にかけて人口が70%減少する地域も、医療提供体制の再構築に向け診療報酬で何ができるのか―中医協総会
CT・MRIの共同利用、医療被曝防止に向けたガイドライン活用などを診療報酬でどう進めるか―中医協総会(2)
ポリファーマシー対策を診療報酬でどう進めるか、フォーミュラリの報酬評価には慎重意見―中医協総会(1)
新規の医療技術、安全性・有効性のエビデンス構築を診療報酬で促し、適切な評価につなげよ―中医協総会(2)
オンライン診療、「有効性・安全性のエビデンス」に基づき算定要件などを議論―中医協総会(1)
医師の働き方改革、入院基本料や加算の引き上げなどで対応すべきか―中医協総会(2)
がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を6月から保険収載―中医協総会(1)
外来医療の機能分化に向け、「紹介状なし患者の定額負担」「かかりつけ医機能の評価」など議論―中医協総会(2)
画期的な白血病治療薬「キムリア」を保険収載、薬価は3349万円―中医協総会(1)
高齢者へのフレイル・認知症・ポリファーマシ―対策、診療報酬でどうサポートすべきか―中医協総会(3)
診療報酬で生活習慣病の重症化予防、治療と仕事の両立をどう進めていくか―中医協総会(2)
遺伝子パネル検査の保険収載に向けた検討進む、C-CATへのデータ提出等を検査料の算定要件に―中医協総会(1)
「院内助産」「外来での妊産婦対応」を診療報酬でどう支援していくべきか―中医協総会(2)
2020年度改定論議スタート、小児疾患の特性踏まえた診療報酬体系になっているか―中医協総会(1)
2020年度診療報酬改定に向け、「医師働き方改革」等のテーマ別や患者の年代別に課題を議論―中医協総会
中医協・基本小委、支払側が「看護必要度や地域包括ケア病棟などの厳格化」を強く要望
2020年度診療報酬改定に向け、「看護必要度」「地域包括ケア病棟」などの課題を整理―入院医療分科会
ICU、看護必要度とSOFAスコアを組み合わせた「新たな患者評価指標」を検討せよ―入院医療分科会(2)
A項目1点・B項目3点のみ患者、療養病棟で該当患者割合が高いが、急性期の評価指標に相応しいか―入院医療分科会(1)
病院病棟への「介護福祉士配置とその評価」を正面から検討すべき時期に来ている―入院医療分科会(3)
ICUの「重症患者」受け入れ状況、どのように測定・評価すべきか―入院医療分科会(2)
DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
診療データ提出を小規模病院にも義務化し、急性期病棟にも要介護情報等提出を求めてはどうか―入院医療分科会(3)
資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
点数が「DPC<地域包括ケア」時点にDPC病棟からの転棟が集中、健全なのか―入院医療分科会(1)
療養病棟に入院する医療区分3の患者、退院患者の8割弱が「死亡」退院―入院医療分科会(2)
入退院支援加算1の「病棟への入退院支援スタッフ配置」要件、緩和すべきか―入院医療分科会(1)
介護医療院の整備など進め、患者・家族の「退院後の介護不安」解消を図るべき―入院医療分科会(2)
急性期一般1では小規模病院ほど認知症入院患者が多いが、看護必要度への影響は―入院医療分科会(1)
看護必要度IとIIとで重症患者割合に大きな乖離、要因を詳しく分析せよ―中医協・基本小委
自院の急性期患者の転棟先として、地域包括ケア病棟を選択することは「問題」なのか―入院医療分科会(2)
7対1から急性期2・3への移行は3%強にとどまる、看護必要度IIの採用は2割弱―入院医療分科会(1)
2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
DPC対象病院の要件を見直すべきか、入院日数やDPC病床割合などに着目して検討―入院医療分科会(1)
2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
2020年度の次期診療報酬改定に向け、急性期一般入院料や看護必要度などを調査―入院医療分科会
妊産婦の診療に積極的な医師、適切な要件下で診療報酬での評価に期待―妊産婦保健医療検討会
2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「効率化・合理化の視点」「働き方改革の推進」「費用対効果評価」なども重要視点―社保審・医療保険部会
「医師の働き方改革」を診療報酬でどうサポートするか、基本方針策定段階でも激論―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、病院薬剤師の評価求める声多数―社保審・医療部会
看護師の特定行為研修、新たに「救急領域」をパッケージ研修に追加―看護師特定行為・研修部会
倉敷中央病院など21機関を「看護師に特定行為研修を実施する機関」に追加、40都道府県で134機関が指定済―厚労省
相澤病院など26機関を「看護師に特定行為研修を実施する機関」に追加、39都道府県で113機関が指定済―厚労省
看護師に特定行為研修を実施する機関、34都道府県・69機関に―厚労省
看護師特定行為研修、▼在宅・慢性期▼外科術後病棟管理▼術中麻酔―の3領域でパッケージ化―看護師特定行為・研修部会
看護師の特定行為研修、「在宅」や「周術期管理」等のパッケージ化を進め、より分かりやすく―看護師特定行為・研修部会
医師の働き方改革に向け、特定行為研修修了看護師の拡充や、症例の集約など進めよ―外保連
日病が「特定行為研修を修了した看護師」の育成拡大をサポート―日病・相澤会長(2)
特定行為研修を包含した新認定看護師を2020年度から養成、「特定認定看護師」を名乗ることも可能―日看協
医師から他職種へのタスク・シフティング、「業務縮減効果大きく、実現しやすい」業務から検討―医師働き方改革タスクシフト推進検討会