既存製品よりも費用が安く済み、効果の高い製品の価格は引き上げるべきか―費用対効果評価合同部会
2017.10.30.(月)
医薬品や医療機器の費用対効果評価の結果、「極めて費用対効果が良い(優れている)」と評価された製品について、価格の引き上げを行うべきか、現行価格維持にとどめるべきか—。
こういった点について中央社会保険医療協議会の意見は割れています。10月25日に開催された、中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会でも賛否両論が出ており、今後の意見調整に注目が集まります。
厚労省は「費用削減の範囲内で価格引き上げを行ってはどうか」との考え
医薬品・医療機器の価格設定において「費用対効果評価」が導入されます。2018年度には13品目について試行的な価格調整が行われ、引き続き制度化(本格導入)されることになっています。
その際、「費用対効果が良くない」製品については一定の価格引き下げを行うことに異論は出ていませんが、「費用対効果が極めて良い(優れている)」と評価された製品の価格をどう考えるかが大きな論点となっています(関連記事はこちらとこちら)。
10月25日の合同部会では、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)が「これまでの薬価・材料価格制度では費用対効果評価の観点がなく、高額な医薬品などの保険収載が医療保険財政に大きな影響を及ぼすことを踏まえて、費用対効果評価制度が導入されたと理解している。すると、保険収載時の薬価が妥当か否かを見るもので、価格の引き上げと言う選択肢は『有り得ない』のではないか」と指摘。診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)らも「基本的には価格調整(価格引き下げ)の観点で議論してきた」として、価格引き上げには慎重であるべきとの見解を示しました。
一方、支払側の宮近清文委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)は、「単なる改善ではなく、極めて画期的な、イノベーションに優れた製品についてはインセンティブを付与し、メーカーのモチベーションを上げる仕組みがあってもよいのではないか。結果として将来の医療費が削減される可能性もある」と述べ、価格引き上げの選択肢も十分ありうるとの見解を示しています。
このように中医協委員の意見は割れており、費用対効果評価の結果活用方法にはまだ方向が固まっていません。今後、さらなる意見調整が行われます。この点について厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、▼あくまで技術評価であり、価格引き下げだけを考えているわけではない(優れた製品は相応の価格設定を行う)▼価格引き上げの対象は「費用が減少し、効果が増大する、または維持するもの」で、かつ「既存製品に比べて、まったく異なるあるいは「一般的な改良の範囲」を超えた製品(基本構造や作用原理が異なるなど)」に限定される(技術的にはICER:増分費用効果が計算できないもののみ)▼「削減される費用」の範囲内において価格引き上げを行う(医療費縮減の方向でしか価格引き上げを行わない)―という厚労省のスタンスを丁寧に説明しています。
ICER500万円以下と算出された製品は、費用対効果が良く、価格引き下げせず
なお、これまでに固まっている費用対効果評価の「試行導入」の大枠を整理すると、次のようになります。
(1)メーカーが費用と効果に関するデータを用いて増分費用効果比(ICER)を算出する
↓
(2)専門家で構成される再分析チームでメーカーの算出したICERを検証する
↓
(3)ICERをもとに費用対効果の良し悪しを見る(過去の学術研究、イギリスの状況を踏まえて、「ICERが500万円以下」と算出された製品(費用対効果が良い)は価格調整を行わず、「ICERが500万円以上」と算出された製品(費用対効果が悪い)は価格引き下げを行うが、引き下げ幅には上限を設ける(ICER1000万円以上であれば、引き下げ幅は同じとする)
(4)倫理的・社会的影響の観点で検証し、最終的に「費用対効果」を評価する。倫理的・社会的影響の観点は、▽感染症対策といった公衆衛生的観点での有用性▽公的医療の立場からの分析には含まれない追加的な費用(ガイドラインで認められたもののみ)▽重篤な疾患でQOLは大きく向上しないが生存期間が延長する治療▽代替治療が十分に存在しない疾患の治療―の4項目とし、1項目あたり「ICERの値を5%割り引く」価格調整係数を設定する
※価格調整の対象を、「加算」(画期性加算や有用性加算など)の範囲にとどめるか、薬価や材料価格全体とするかは、今後、議論を行う
例えばICERが510万円と算出された場合には、(3)に基づいて一定の価格引き下げが行われますが、(4)の倫理的・社会的影響の観点に照らし「代替性が十分に存在しない疾患に、新たな治療法をもたらすもの」と判断されれば、ICERが5%割引されて484万となり、価格引き上げは行われない、といった仕組みになる模様です。なお、こうした判断の透明性を確保するために、可能な範囲での情報公開が必要と今村聡委員(日本医師会副会長)は強く求めています。
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