医療事故調査、制度発足から1000件を超える報告、7割超で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2018.7.11.(水)
今年(2018年)6月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は31件。医療事故調査制度発足から、累計1028件の医療事故が報告され、うち7割超の728件で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードがますますアップしている―。
日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が7月9日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。もっとも、機構では「事故発生から報告までの期間が延びている」とのデータも発表しており、今後、時期を見て詳細な分析を行うことが必要でしょう(関連記事はこちら)。
目次
2018年6月の医療事故報告件数、外科で5件、消化器科・整形外科等で各3件
2015年10月から、すべての医療機関において、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付ける「医療事故調査制度」がスタートしました。この制度では、事故の原因を調査し、明らかにする中で、「再発防止策」を構築し、広く共有することを目的としています。
センターでは、これまでに重大な事故について詳細を分析し、(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析—という4つの再発防止策を公表しています。
医療事故調査制度の大きな流れを確認すると、▼医療事故発生を確認した管理者は速やかに、センターに事故発生の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などの提示までは不要) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—というものです(関連記事はこちら)。
我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)6月には、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1028件と、1000件の大台に乗りました。
2018年6月に新たに報告された事故の内訳は、病院からが29件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から965件(事故全体の93.9%)、診療所から63件(同6.1%)となっています。
2018年6月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科5件▼消化器科3件▼整形外科3件▼循環器内科3件▼心臓血管外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科176件(同17.1%)▼内科130件(同12.6%)▼消化器科89件(同8.7%)▼整形外科87件(同8.5%)―などという状況です。徐々に「さまざまな診療科で事故が報告されてきている」状況が伺えます。
センターへの相談件数は累計5302件、「遺族の制度への理解」が依然として重要課題
前述のとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、そのうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期される」ため報告の必要はありません。しかし、そうした患者であっても、例えば明らかな処置のミスなどがあり、通常の治療過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期されなかった」ものとして報告が必要となります。
医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じることもあるでしょうし、初めて事故報告をする際には「センターへどのように報告すればよいのか」との疑問も生じるでしょう。また、遺族が「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか」といった疑念を抱くこともあるでしょう。
これらの疑問・疑念を放置することは制度の信頼を揺るがすため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)6月には、新たに185件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は5302件にのぼっています。
2018年6月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から67件▼遺族などから110件▼その他・不明8件―となっています。
医療機関からの相談内容を見ると、もっとも多いのは「報告の手続き」に関するもので45件(医療機関からの相談の67.2%)。次いで「院内調査に関するもの」が17件(同じく25.4%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が11件(同じく16.4%)となりました。制度発足から3年近くが経過しており医療現場へ制度が浸透していること、また2年前(2016年6月)に医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)が行われたため、事務的な相談が大半を占める状況になっていると言えます(関連記事はこちらとこちら)。
一方、遺族などからの相談内容を見ると、依然「医療事故に該当するか否かの判断」が大半を占め、83件(遺族などからの相談の75.5%)となっています。またこうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、「医療現場と一般国民との医療事故調査制度に対する認識のズレ」が拡大していく点が気になります。医療現場が正しく報告し、センターで適切に制度を運用しても、一般国民から疑念の目で見られてしまっては、制度運用の礎となる「信頼感」が失われてしまう可能性もあるためです。さまざまな機会を通じて、これまで以上に、一般国民に医療事故調査制度を周知していくことが必要でしょう。
センターへの調査依頼は新たに6件、全69件中5件でセンター調査も完了
上述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行い、それを踏まえて自院の体制を点検し、再発防止策を構築することが重要です。
今年(2018年)6月に新たに院内調査が完了した事例は31件で、制度発足からの累計では728件となりました。これまでに報告された全1028件の医療事故のうち70.8%で院内調査が完了したことになり、7割の大台に乗りました。院内調査スピードが向上していることを再認識できます。
ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。
そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています。ここでは「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。
この点、今年(2018年)6月に、センターになされた調査依頼は4件ありました。すべて遺族からの調査依頼で、制度発足からの累計調査依頼件数は69件(遺族から54件・78.3%、医療機関から15件・21.7%)で、進捗状況を見ると、▼センター調査終了が5件▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が63件(前月より3件増)▼院内調査結果報告書検証準備産業中が1件—となり、順調にセンター調査が行われていることが伺えます。
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