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2016年度、「特養ホームの新規入所者制限」で地域密着へ利用者・費用ともに急速にシフト―厚労省

2018.8.27.(月)

 2016年度の介護費用は9兆6611億円、サービスの区分別に伸び率を見ると▼居宅:5.0%減▼地域密着:34.9%増▼施設:0.3%増—という状況。サービス受給者数の伸び率(1年度累計数)を同じく区分別に見ると、▼居宅:0.4%増▼地域密着:87.8%増▼施設:1.3%増—となっている。2015年度の介護保険法改正によって、「特別養護老人ホームの新規入所者を原則として要介護3以上とする」との制限により、施設から地域密着へのシフトが進んだものと伺える―。

 このような状況が、厚生労働省が8月24日に公表した2016年度の「介護保険事業状況報告(年報)」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら(概要)こちら(全国計)

介護費は前年度比1.8%増、医療費の「0.4%減」に比べて、伸び率の大きさ目立つ

 高齢化が進展する中では、社会保障費の中でも「介護費の増加」がとくに大きくなります(もちろん、医療や年金の費用も増加しますが、医療分野ではさまざまな適正化方策が図られ、年金制度ではマクロ経済スライド(現役世代の負担が過重にならないように、年金額の伸びを抑えることでバランスをとる仕組み)が導入されている)。

このため、介護保険においては「給付の重点化(重度者に手厚い給付を行う)」や「軽度者における他制度の活用(要支援者に対する訪問・通所介護を介護保険給付から市町村の実施する地域支援事業への移管)」などが行われており、今後も、その動向に注目が集まっています。

 2016年度の介護費用について見てみると、9兆6611億円(前年度に比べて、1741億円・1.8%増加)、利用者負担を除いた給付費は8兆6717億円(同1255億円・1.5%増加)となりました。高額介護サービス費、高額医療合算介護サービス費、特定入所者介護サービス費を含む介護費用は9兆9903億円(同1577億円・1.6%増)となっています。

 また介護保険制度がスタートした2000年度には、介護費は3兆6273億円であったことから、16年間で2.7倍に増加している計算です。

 なお、2016年度の医療費(国民医療費の98%に相当する概算医療費)は、前年度に比べて0.4%減少しました。これと比較すると「介護費の伸びは大きい」ことが伺えますが、2016年度医療費には「2015年度にハーボニーなどの超額高額薬剤が出現し、医療費が大幅に伸びた反動」と言う要素もあり、単純な比較は難しいかもしれません。2016年度介護費の伸び率「1.8%増」は、従前の「4%程度」に比べれば小さくなっており、徐々に前述した「介護費適正化」の取り組みの成果が表れてきているとも思われます。今後も注意深くウォッチしていくことが必要でしょう。

地域密着型サービスの費用は前年度比34.9%増

 介護保険給付費の内訳を見ると、居宅介護(予防)サービスが4兆4514億円(前年度比2360億円・5.0%減)、地域密着型介護(予防)サービスが1兆3636億円(同3531億円・34.9%増)、施設介護サービスが2兆8556億円(同73億円・0.3%増)という状況です。

 地域密着型介護(予防)サービスの大幅増は「施設サービスからの移管」によるところが大きそうです。2015年の介護保険制度改正(地域医療介護総合確保推進法)では「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の新規入所者は要介護3以上であること」が求められるようになり、要介護1・2で一定の施設入所が必要な方には、例えば「小規模多機能型居宅介護」サービスなどの活用が進められるようになったと考えられます(後述するように要介護1・2の利用者が特に大きく増加している点が、これを裏付けている)。さらに、地域包括ケアシステムの切り札とも評された「定期巡回随時対応型居宅看護介護」の利用も進んでいると考えられます。

一方、居宅介護(予防)サービスの減少は、上述した「要支援者に対する訪問・通所介護サービスの、地域支援事業への移行」が進んでいることによると考えられます。

 我が国の経済と財政を立て直すための基本方針となる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2016」では、「介護費の地域差縮小」を重要項目の1つに掲げており(関連記事はこちらとこちら)、サービス提供体制などを含めた「見える化」がさらに進められます。

要介護認定率、最低は埼玉の14.4%、最高は和歌山の22.2%、依然として格差大

 介護費が増加する要因は、大きく(1)利用者の増加(2)1人当たり介護費用の増加―の2点に分解できます。

 (1)の利用者数は、さらに「高齢者数」と「要介護認定の状況」に分解して考えることができます。前者の「高齢者数」増加を抑えることはできないことから、後者の「要介護認定」の状況を見てみましょう。

 介護保険サービスを受けるには、まず市町村で「要介護・要支援状態である」と判定されることが必要です(要介護・要支援認定)。認定者の数は、2016年度末には632万人(前年度に比べて12万人・1.9%増)で、要介護度別の構成比は、▼要介護5:9.5%(同0.3ポイント減)▼要介護4:12.1%(同0.1ポイント増)▼要介護3:13.2%(同0.1ポイント増)▼要介護2:17.5%(同0.1ポイント増)▼要介護1:19.9%(同0.2ポイント増)▼要支援2:13.7%(同0.1ポイント減)▼要支援1:14.1%増(同0.2ポイント減)―となりました。前年度に比べて要介護1-4の「中間層」が増加しているように見えます。第1号被保険者(65歳以上、2016年度末時点で3440万人)のうち要介護・要支援と判定された人(619万人)の割合は18.0%となっています。

第1号被保険者に占める要介護・要支援者の割合(認定率)は、年々上昇している

第1号被保険者に占める要介護・要支援者の割合(認定率)は、年々上昇している

 
 ところで、制度開始時の2000年度には256万人が要介護・要支援と認定されており、第1号被保険者に占める割合(認定率)は11.0%でした。これが2016年度には18.0%に上昇していることになります。

 認定率の向上の背景には、「制度の浸透」と「要介護状態によりなりやすい後期高齢者の増加」の2点があると考えられます。前者については、「都道府県別のバラつき」がかねてから問題視されており、最低は埼玉県の14.4%に対し、最高は和歌山県の22.2%という状況で、また、認定率には「西高東低」の傾向があることが分かっています。「認定率が高い=悪」という単純な構図にはありませんが、介護予防や重度化防止に力を入れることで認定率の上昇は抑えられることを考えると、こうした格差を無視することもできません。

第1号被保険者に占める要介護・要支援認定者の割合(認定率)は、都道府県によって大きなバラつきがある

第1号被保険者に占める要介護・要支援認定者の割合(認定率)は、都道府県によって大きなバラつきがある

 
そこで厚労省は2018年度より「自立支援・重度化防止に実際に取り組み、成果も出す市町村により多くの補助金(保険者機能推進交付金、いわゆるインセンティブ交付金)を交付する」仕組みを新設しており、今後、認定率の格差がどう変化していくのか注目する必要があるでしょう。

1人当たり介護費、地域密着は前年度に比べて33.3%の大幅増

 介護費用を増加させるもう1つの要素が(2)の「1人当たり介護費用の増加」です。2016年度の「1人当たり介護給付費」(第1号被保険者、高額介護サービス等などを含む)は26万8000円で、前年度に比べて1000円・0.4%減少しました。内訳を見ると、▼居宅サービス:12万9000円(前年度比1万円・7.2%減)▼地域密着型サービス:4万円(同33.3%増)▼施設サービス:8万3000円(同1.2%減)―となりました。

介護費全体と同様の動きを示しており、「施設サービスから地域密着型サービスへの移行」「要支援者の訪問・通所介護の介護給付費からの移管」が大きく影響していると考えられます。

サービス受給者、地域密着は前年度に比べて87.8%増加

 要介護認定を受けても、すべての人が介護保険サービスを利用するわけではありません。実際にサービスを利用している人(受給者数)を見ると、2016年度の累計ではどれほどなのでしょう。

 2014年度の累計の受給者数(第2号被保険者を含む)を見ると、▼居宅介護(予防)サービス:4691万人(前年度比べて19万人・0.4%増)▼地域密着型(予防)サービス:924万人(同432万人・87.8%増)▼施設サービス:1108万人(同14万人・1.3%増)—となりました。

居宅サービスの受給者数は前年度に比べて、微増となった

居宅サービスの受給者数は前年度に比べて、微増となった

地域密着型サービスの受給者数は前年度に比べて大幅増、とくに新規に特養ホームに入所できなくなった要介護1・2の受給者数が急増している

地域密着型サービスの受給者数は前年度に比べて大幅増、とくに新規に特養ホームに入所できなくなった要介護1・2の受給者数が急増している

施設サービスの受給者数は、前年度に比べてわずかに増加した

施設サービスの受給者数は、前年度に比べてわずかに増加した

 
 ここでも「施設から地域密着への大幅シフト」が進んでいることがわかります。前述したとおり「要介護1・2」の受給者が急増しており、制度改正(特別養護老人ホームの新規入所制限)の効果・影響の大きさを伺うことができます。

 
 
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