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勤務医の時間外労働の上限、健康確保策を講じた上で「一般則の特例」を設けてはどうか―医師働き方改革検討会

2018.12.6.(木)

 勤務医の「時間外労働の上限」について、医療の不確実性や公共性などを勘案したとき、「いきなり一般則(月45時間・年間360時間、臨時の場合には年間720時間以内)と同水準にする」ことは難しい。まず、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」(2-6か月の平均で月80時間以内、休日労働を含める)を勘案した「目指すべき水準」を2024年度から設定して、極めて長時間の労働を行っている勤務医の労働時間短縮を目指す。ただし、この「目指すべき水準」を全医療機関に適用した場合、地域医療提供に影響が出る恐れもあるため、対象医療機関を限定した「特例」を設けることとしてはどうか―。

2024年度から、まず「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」を勘案した時間外労働上限の「目指すべき水準」を定め、そこに過重労働者がシフトしていくように進める

2024年度から、まず「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」を勘案した時間外労働上限の「目指すべき水準」を定め、そこに過重労働者がシフトしていくように進める

 
 12月5日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)で、厚生労働省はこういった提案を行いました。

厚労省案に理解を示す意見がある一方で、労働者代表委員からは強い反対意見も出ています。岩村正彦座長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)も「共通認識はそれなりにできつつあるが、議論の集約には至っていない」とコメントしており、引き続き議論が行われます。

12月5日に開催された、「第13回 医師の働き方改革に関する検討会」

12月5日に開催された、「第13回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

医師の時間外労働上限の「特例」を設け、健康確保策の実施を求める

 我が国の良質・高水準の医療提供体制は、勤務医の過重な労働によって支えられている、と指摘されます。厚労省の調査によれば、次のように多くの勤務医が長時間労働を行っている状況が明らかになっています。
▼40.5%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」である年間960時間を超える労働を行っている
▼10.5%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の2倍となる年間1920時間を超えて、労働を行っている
▼1.8%の勤務医は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」の3倍となる年間2880時間を超えて、労働を行っている

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

勤務医の4割は年間960時間超の、10.5%は1920時間超の、1.8%は2880時間超の過重労働をしている

 
こうした過重な労働は、医師の健康を害するとともに、医療安全にも支障を来してしまいます。

そこで、「勤務医の労働時間」短縮が重要なテーマとなっており、例えば「他職種への業務移管(タスク・シフティング)を進めていく」「宿日直に関する許可基準を現代の医療にマッチしたものに改める」「労働と研鑽の切り分けを明確にし、適切に運用していく」などの議論が進められています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。
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さらに安倍晋三内閣は、「働き方改革」を最重要政策の1つに掲げ、勤務医も「罰則付きの時間外労働の上限規制」の対象とすることとし、ただし「医師・医療の特殊性」(応召義務など)を踏まえた規制のあり方について、検討することを指示。検討会で、上述の「医師の労働時間短縮策」と併せて、勤務医における「時間外労働上限」について議論しているのです。

12月5日の検討会では、厚労省から、勤務医の「時間外労働上限」についての考え方が提案されました。なお、これらと同時に、「タスク・シフティング」など医師の労働環境改善を進めていくことは述べるまでもありません。

まず、当然のことながら、医師も1人の人間・労働者であり、将来的には、一般則と同水準の「時間外労働上限」を目指すべきとされました。

ただし、医療には▼不確実性(患者は個別性が高く予見不可能な状態変化も少なくない)▼公共性▼高度の専門性▼技術革新と水準の向上―という特殊性があるため、いきなり一般則を適用することは難しいことから、まず2024年度から次のような時間外労働上限の特例(達成を目指す水準)を設定し、運用することが提案されました。

(1-1)「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」も考慮した「年間の時間外労働上限」(上限を超過した労働を課した場合、事業主には罰則が科される)と「月間の時間外労働上限」(後述1-3)を設定する

(1-2)(1-1)の「年間の時間外労働上限」は一般則を超えるため、医師の健康を確保するために▼連続勤務時間制限▼勤務間インターバル確保―などの追加的健康確保措置(その1)に努めることを各医療機関に求める(努力義務)

(1-3)一時的に多忙となることも考えられる、その場合「月間の時間外労働上限」を超過した労働も例外的に認めるが、医師の健康を確保するため、▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などの追加的健康確保措置(その2)を行うことを条件とする

 冒頭に述べた、極めて長時間の労働を行っている医師(例えば、上述した年間2000時間を超えて労働するような医師)について、まず(1-1)の上限に収まるような労働体制とすることを目指すものです。

2024年度から、まず「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」を勘案した時間外労働上限の「目指すべき水準」を定め、そこに過重労働者がシフトしていくように進める

2024年度から、まず「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」を勘案した時間外労働上限の「目指すべき水準」を定め、そこに過重労働者がシフトしていくように進める

 
 しかし、こうした時間外労働上限をすべての医療機関に課した場合、地域によっては医療提供体制が維持できなくなる恐れもあります。そこで、地域医療を確保するために、対象医療機関を限定した上で、次のような「時間外労働上限の特例」の特例(経過措置)を設定することも提案されました。

(2-1)対象医療機関を限定・特定した上で、(1-1)の水準を超える時間外労働(年間・月間)を可能とする

(2-2)ただし、特例を超える労働となるため、▼連続勤務時間制限▼勤務間インターバル確保―などの追加的健康確保措置(その1)を対象医療機関には義務化する

(2-3)併せて、(1-3)と同様に、「月間の時間外労働上限」を超過した労働は、▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などの追加的健康確保措置(その2)を行うことを条件とする

地域医療の確保のため、医師健康確保措置を条件に「時間外労働上限」を緩和した基準を設定する。ただし、対象医療機関は限定・特定する

地域医療の確保のため、医師健康確保措置を条件に「時間外労働上限」を緩和した基準を設定する。ただし、対象医療機関は限定・特定する

 
 ところで、「将来にわたる我が国の医療水準の維持・向上」のためには、主に若手医師においては、短期間に集中的に多くの症例を経験するなどし、その技術を向上させることが必要不可欠となります。このため、厚労省は「医療機関を限定・特定する」「本人の申し出に基づく」場合には、次のように(1-1)を超える時間外労働を可能とする仕組みも整備してはどうかと提案しました。

(3-1)対象医療機関を限定・特定し、本人の申し出に基づく場合に限り、(1-1)の水準を超える時間外労働(年間・月間)を可能とする

(3-2)ただし、特例を超える労働となるため、▼連続勤務時間制限▼勤務間インターバル確保―などの追加的健康確保措置(その1)を対象医療機関には義務化する

(3-3)併せて、(1-3)(2-3)と同様に、「月間の時間外労働上限」を超過した労働は、▼医師による面接指導▼面接結果を踏まえた就業上の措置(ドクターストップ)—などの追加的健康確保措置(その2)を行うことを条件とする

若手医師が集中的に多くの業務を行うことを可能とするよう、「対象医療機関の限定・特定」「本人の申し出」を条件に、また医師健康確保措置を義務化した、時間外労働の上限を緩和する

若手医師が集中的に多くの業務を行うことを可能とするよう、「対象医療機関の限定・特定」「本人の申し出」を条件に、また医師健康確保措置を義務化した、時間外労働の上限を緩和する

 

厚労省案には賛否両論、さらに議論を継続

具体的な「時間数」こそ示されていないものの、検討会では多くの委員からこの厚労省案に賛同する声が出されました。ただし、黒澤一構成員(東北大学環境・安全推進センター教授)や三島千明構成員(青葉アーバンクリニック総合診療医)らは、医師の健康確保のために努力義務や義務として課す「追加的健康確保措置」の実効性確保が極めて重要であると強調しています。

「追加的健康確保措置」の内容については、今後、より具体的な検討が行われますが、例えば「勤務間インターバル」や「連続勤務時間制限」は、我が国における睡眠医学の権威である順天堂大学医学部公衆衛生学講座の谷川武教授による「医師の健康を確保するためには、『労働時間の短縮』よりも『6時間以上の連続した睡眠時間の確保』が重要である」といった提言を踏まえた例示です(関連記事はこちら)。

また、同時並行的に行う医師の労働環境改善に関して岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は、「タスク・シフティングが重要だが、具体的に何が可能なのかを示した議論が必要ではないか。現在、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)で、▼看護師▼薬剤師▼救急救命士▼臨床工学技士―の団体と連携し、どういった業務を移管できるのか調査している。結果を近く提示したい」とコメントしました。タスク・シフティング等を進めながら、上記(1)-(3)の「上限」についても見直しを行っていくことが考えられます。

 
一方、労働者を代表する立場で参画する村上陽子構成員(日本労働組合総連合会総合労働局長)や森本正宏構成員(全日本自治団体労働組合総合労働局長)は、(1)-(3)の厚労省案に「違和感を覚える」と反論しています。両構成員は、例えば(1-1)について「いわゆる過労死と判定される水準に上限を置くこと」、さらに「過労死と判定される水準を超える(2-1)の上限を、労働環境改善などを進めていかなければならない時点で設けること」などに強く不満を示しました。

委員間で意見の隔たりは大きく、さらなる議論が必要となるでしょう。岩村座長も共通認識はそれなりにできつつあるが、議論の集約には至っていない」とコメントしています。

 
なお、厚労省は、11月19日の検討会で議論された「労働と研鑽の切り分け」、11月9日の検討会で確認された「睡眠時間確保の重要性」について、近く通知を発出し、各医療機関等に周知する考えを示しています。なお、「勤務時間後に医療機関内に残り、研鑽を行う場合の手続き」(上司の許可を得るなど)については、「医療現場での実効性確保」を求める声も出ており、さらなる議論も続けられます。

 
 
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