大規模病院の地域包括ケア病棟でも「自宅等からの緊急患者」等の受け入れを―中医協総会(1)
2019.11.29.(金)
地域包括ケア病棟の中には「post acute機能に偏りすぎている」ものがある。3機能(post acute対応、sub acute対応、在宅復帰支援)をバランスよく果たしてもらうために、例えば「sub acute受け入れ」(自宅等からの患者受け入れなど)を要件化することや、「自院の急性期病棟から地域包括ケア病棟への転棟においては、DPC点数を継続算定する」ルールの導入などを行ってはどうか―。
11月29日開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。
目次
地域包括ケア病棟の3機能をバランスよく果たさなければならない
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論がさらに盛り上がりを見せています。11月29日に開催された中医協総会では、入院医療その3として▼地域包括ケア病棟▼回復期リハビリテーション病棟▼入退院支援加算―を議題としました。本稿では「地域包括ケア病棟」に焦点を合わせます。
地域包括ケア病棟入院料(病室単位の入院医療管理料を含む)は、2014年度の診療報酬改定で(1)急性期後患者の受け入れ(いわゆるpost acute)機能(2)在宅等で療養する患者が急変した場合等の受け入れ(いわゆるsub acute)機能(3)在宅復帰支援機能―の3つの機能を併せ持つ病棟・病室を評価する特定入院料として新設されました。
しかし、大規模病院の地域包括ケア病棟については「(1)のpost acute機能に偏りすぎている」との批判があります。急性期大病院の中には、「自院の急性期病棟で一定の治療を終えた患者(重症度、医療・看護必要度を満たさなくなった患者)を地域包括ケア病棟へ転棟させることで、急性期病棟の重症度、医療・看護必要度を維持し、急性期一般1を確保する」という運用が行われており、「この部分に偏りすぎている」と指摘されるのです。
そこで2016年度の前々回改定では「大病院においては地域包括ケア病棟の新設は1病棟まで」との制限を導入し、2018年度の前回診療報酬改定で「(2)のsub acute機能を十分に果たしている中小規模(200床未満)病院の地域包括ケア病棟の評価を引き上げる」「sub acute患者を受け入れた場合の初期加算の点数を引き上げる」などの見直しが行われました。
ただし、▼地域包括ケア病棟の活用方法としては「自院の急性期病棟からの転棟先」が63.8%と最も多い▼地域包括ケア病棟入棟患者の100%が「自院の急性期病棟からの転棟患者」という病棟が相当程度ある―など、「(1)のpost acute機能に偏りすぎている」病棟は依然として少なくありません。
このため2020年度の次期改定においても、「地域包括ケア病棟に3機能をバランスよく果たしてもらう」ための見直しが検討されます。厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は、この点について(A)「入棟元が自院の一般病床」の患者割合が特に高い地域包括ケア病棟への対応(B)DPC病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した場合の取り扱い―の2点についての検討を中医協に要請しました。
まず(A)については、例えば▼sub acute機能に関する要件(自宅等から入院した患者の受け入れ、自宅等からの緊急入院患者の受け入れなど)を地域包括ケア病棟全体に盛り込む▼「入棟元が自院の一般病床」の患者割合が特に高い地域包括ケア病棟についてペナルティを設ける(低い点数を設定するなど)―ことなどが考えられるでしょう。
支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は前者の要件設定を推奨するとともに、入院料1・3(sub acute機能を十分に果たす中小規模病院の地域包括ケア病棟)の要件厳格化(自宅等から入院した患者割合を現在の1割以上から2割以上へ、自宅等からの緊急患者受け入れ数を現在の「3か月で3人」以上から「同5人以上」へ引き上げるなど)も検討すべきと提案しました。診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)も「地域包括ケア病棟の趣旨・役割を考えれば、自宅等の地域患者に関する受け入れ要件の設定をしてもよいのではないか。自院からの転棟患者受け入れに一定の制限を求めることもあり得る」との考えを示しています。
こうした方向に特段の反対意見は出ておらず、すべての地域包括ケア病棟において一定の「sub acute機能」要件が盛り込まれることになりそうです。なお、sub acute機能について現在は「在宅医療提供」実績が求められていますが、この点の見直しも議論されており後述いたします。
なお、例えば「自宅等からの緊急患者受け入れ」などについては、「実数」で実績要件が設けられており、「規模が小さい病院にとって厳しい」要件になっているため、「規模に左右されないような配慮」も検討される見込みです。
「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟」、DPC点数算定を継続すべきか
また(B)は、「同一医療機関におけるDPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟」ルールが、大規模急性期病院において「(1)のpost acute機能に偏りすぎている」地域包括ケア病棟を生み出しているのではないかという問題意識に立つものです。
「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟タイミング」と「DPC点数と地域包括ケア病棟入院料の点数」との関係を見ると、「DPC点数<地域包括ケア病棟入院医療管理料」となったタイミングで、「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟が集中」していることが分かりました(しかもこういったケースが多い)。逆に「DPC点数>地域包括ケア病棟入院医療管理料」となっている診断群分類では、こうした集中は生じず「平均在院日数の時点での転棟が多くなる」ことも明らかになっています。
「患者が回復し転棟が相応しいタイミング」と「点数の高低が入れ替わるタイミング」とがここまで一致するとは考えにくく、「DPCよりも地域包括ケア病棟の点数が高くなったタイミングで、患者の状態と関係なく転棟させている」という事態が生じている可能性があります。これが「自院の急性期病棟(DPC病棟)に入院していた患者を、地域包括ケア病棟で受け入れる」ことを促進している可能性もあると見られています(入院医療分科会における議論の記事はこちらとこちら)。
こうした「点数のみに着目した転棟」問題は、かつての【亜急性期入院医療管理料】(病室単位)においても生じており、2014年度の診療報酬改定では「DPCから地域包括ケア病室に転室した場合には、DPC点数の算定を継続すること」というルールが設けられました。ただし、地域包括ケア病棟においてはこのルールが導入されていないのです(転棟では地域包括ケア病棟入院料を算定)。
支払側の幸野委員は、上述の弊害を是正するために、「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟」においてもこのルールを適用する、つまり「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟でも、DPC点数を継続算定する」ことを求めています。一方、診療側の松本委員は森光医療課長に「具体案を示してほしい」と述べるにとどめています。
なお、このような見直しが行われた場合、「急性期一般1から地域包括ケア病棟への転棟」インセンティブが非常に小さくなると予想され、病棟の機能分化にどういった影響が出るのかという点も注視していく必要があるでしょう。
地域包括ケア病棟の在宅医療提供実績要件、現実的かつ合理的なものへ見直し
前述したように、「sub acute機能を十分に果たす中小規模病院の地域包括ケア病棟」(入院料1・3)については、自宅等患者の受け入れや在宅医療提供などの「実績要件」が設けられています(2018年度改定で導入)。
このうち「在宅医療提供」実績は、▼自院による【在宅患者訪問診療料】算定が3か月で20回以上▼自院による【在宅患者訪問看護・指導料】等算定が3か月で100回以上▼敷地内の訪問看護ステーションによる【訪問看護基本療養費】等算定が3か月で500回以上▼自院による【開放型病院共同指導料】算定が3か月で10回以上▼介護サービスの同一敷地内実施―の「いずれか2つを満たす」ことと規定されています。
ただし、例えば「訪問看護については、介護保険給付が優先され、医療保険の訪問看護実績を満たすことは多くの敷地内訪問看護ステーションにとって難しい」「開放型病院共同指導料(II)は地域包括ケア病棟では算定できない」などの問題があり、これらの実績を満たす病院は極めて少数にとどまっています(入院医療分科会における議論に関する記事はこちら)。
この点については「そもそもの要件設定に問題がある(クリアできない要件である)」との指摘もあり、診療側・支払側ともに「見直しが必要」という点で一致しています。この点、例えば「開放型病院共同指導料(II)を地域包括ケア病棟でも出来高算定できるようにする」など「要件に組み込まれた報酬の要件見直し」も考えられますが、影響予測が困難であり「地域包括ケア病棟の要件を見直す」ことになりそうです。
入棟患者にADL状況を説明し、リハビリの必要性を説明することが重要
地域包括ケア病棟入院料にはリハビリの報酬が包括評価されており、「リハビリが必要な患者には1日2単位(20分×2)以上のリハビリを提供すること」が求められていますが、厚労省の調査によれば「33%の患者に対して疾患別リハビリが提供されていない」ことが明らかとなりました。
この点、「回復期リハビリ病棟と異なり、地域包括ケア病棟には様々な状態の患者が入棟する」ため、リハビリが提供されていない患者が一定程度いることは当然とも思えます。しかし、入棟時ADL(移乗・平地歩行・階段・更衣)からは介助が必要で「リハビリ提供が期待されながら、実際にはリハビリが提供されていない患者」の医学的な状態を見ると、6割の患者は「安定している」ことから、本来はリハビリを提供すべきと考えられます。なお残りの4割は医学的な状態が「不安定である」(常時不安定が1割強、時々不安定が3割弱)ことからリハビリ提供は難しいかもしれません。
ここで「リハビリ実績を要件化する」(支払側の幸野委員提案)ことも考えられますが、「多様な患者が入棟している」状況を踏まえれば難しそうです。そこで診療側の松本委員は「入棟時のADL評価結果を患者や家族に説明し、リハビリが必要な患者には適切に説明する」ことなどを要件化してはどうかと提案しています。
地域包括ケア病棟、【入退院支援加算】の取得を推進・支援
上述したように、地域包括ケア病棟には「在宅復帰支援」機能が求められますが、24%では【入退院支援加算】の届け出がありません。
もちろん、「【入退院支援加算】の届け出をしていない」=「在宅復帰支援を行っていない」という構図にはありませんが、専従・専任の看護師・社会福祉士が「退院困難な患者を抽出し、適切に退院支援に向けた介入を行う」ことを評価する【入退院支援加算】は在宅復帰支援において、非常に重要な要素となります。
このため、2020年度改定においては、「地域包括ケア病棟において、入退院支援加算取得に向けた努力を求めていく」こととなりそうです。ただし、地域によって、あるいは施設の規模等によって、専従・専任の看護師・社会福祉士確保が困難なケースもあり、いきなりの「要件化」は厳しそうです。具体的な見直し内容は今後検討されますが、例えば「入退院支援加算の届け出が望ましい」などの要件を盛り込むとともに、取得支援を行っていくなどが考えられそうです。
なお、在宅復帰について支払側の幸野委員は▼在宅復帰率(70%以上)の引き上げ▼ACP(Advanced Care Planning)の要件化(人生の最終段階で受けたい・受けたくない医療・介護についての繰り返しの相談など)―を求めましたが、診療側の松本委員・猪口委員は「要件をクリアしなければ入院料を届け出られないので、大きく超えている状況は当然である。2018年度改定で在宅復帰先から老人保健施設等が削除されるなどの厳格化が行われている」「地域包括ケア病棟は在宅復帰を目指しており、ACPの要件化には違和感を覚える」と反対しています。
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