医療機関による「かかりつけ医機能」説明、患者だけでなく医療機関にもメリット大―中医協総会(3)
2019.12.12.(木)
かかりつけ医機能を評価する【機能強化加算】について、院内スタッフが文書を用いて「かかりつけ医機能や費用負担」に関する説明を行うことを要件化してはどうか―。
また、同じくかかりつけ医機能を評価する【地域包括診療料】等について、とりわけ「ハードルが高い」とされる「外来から在宅への移行実績などの要件を緩和してはどうか―。
12月11日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました。これまでの経緯を踏まえると「支払側委員がかなり譲歩している」状況ですが、診療側委員は首を縦に振らず、状況はまだ混沌としています。
目次
説明なく機能強化加算を算定されれば、患者は当該医療機関を忌避してしまう
2020年度の次期診療報酬改定に向けて改定論議は佳境に入りつつある中、12月11日の中医協総会では、▼オンライン診療料等▼情報共有・連携の推進▼外来医療―など幅広いテーマについて議論を行いました。Gem Medでは、すでに「紹介状なしの大病院外来受診」と「オンライン診療料等」についてご紹介しており、本稿では「かかりつけ医機能」に焦点を合わせてみます。
かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目にはさまざまあり、例えば2014年度診療報酬改定では【地域包括診療料】【地域包括診療加算】が、2016年度改定では【認知症地域包括診療料】【認知症地域包括診療加算】が、2018年度改定では【機能強化加算】が新設されるなどしています。
このうち【機能強化加算】は、「かかりつけ医機能を持つ医療機関では、初診時に患者自身の状態や既往歴、家族構成、服用している医薬品などの把握等に相当の手間がかかっている」点を診療報酬で下支えするものです。▼地域包括診療加算▼地域包括診療料▼小児かかりつけ診療料▼在宅時医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に限る)▼施設入居時等医学総合管理料(同)―を届け出ている診療所・200床未満の病院において、すべての初診患者に「80点」を上乗せ請求できるものです。
この点、支払側委員は「真にかかりつけ医機能を評価するものと言えるのだろうか」との疑問を提示し、今春には「算定対象を生活習慣病患者等に限定すべき」と提案しました。しかし、【機能強化加算】は全患者に算定可能な「体制加算」であることから算定対象患者の限定はできないため、10月30日の中医協総会では「かかりつけ医機能や費用について、院内掲示や患者への説明を強化する形で算定対象医療機関を限定せよ」と提案変更。厚生労働省の調査(2018年度改定の結果検証調査)で「【機能強化加算】を算定する患者に対する『かかりつけ医機能に関する説明』は34.9%で、28.2%の患者では説明を受けておらず、25.4%の患者では説明を受けたかどうかが分からない、または覚えていない」という結果が出た点を踏まえたものと言えます。
これに対し診療側委員は「【機能強化加算】についてのみ院内掲示・説明を求める背景が理解できない」「かかりつけ医機能の説明等は非常に重要だが、その説明時間が、本来の診療や指導管理等に費やすべき時間を奪ってしまう」と強く反論しています。
こうした状況を踏まえて厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、▼かかりつけ医機能や、患者が得られるメリットなどの説明を【機能強化加算】の要件に加えてはどうか▼説明にあたっては「書面」を渡すことを求めるが、必ずしも医師からの説明でなくともよいこととしてはどうか―との考えを示しました。
支払側はこの提案を「是」としていますが、吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「本当は医師からの説明を求めたい」と述べており、またこれまでの提案・要望を見てみると、「相当譲歩している」ことが伺えます。さらに「説明時間が診療時間を食べてしまうのでは」という懸念に対しては、「診療までの待ち時間を工夫して、院内スタッフから説明を行ってはどうか」との提案も行いました。
対して診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)や今村聡委員(日本医師会副会長)、城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、▼「体制」の説明を要件とする診療報酬は存在せず、【機能強化加算】も院内掲示で十分である▼ほとんどの医療機関が明細書を発行してあり、疑問があればそれに答えている▼かかりつけ医機能の説明は、医療機関にかかる前に、言わば平時から「保険者が加入者に対して実施」すべき―とやはり反対姿勢を崩していません。
両者の意見の隔たりは依然として大きなものがありますが、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)が「かかりつけ医機能の推進をはじめとする外来医療の機能分化が非常に重要な点で診療側も支払側も一致しており、【機能強化加算】もこれを支えるものと言える。しかし、患者に『【機能強化加算】とは何か、どのようなメリットが得られるのか』が十分に説明されなければ、患者は『あの医療機関はなぜか高い』としか感じず、別の『安い医療機関』を選択するようになってしまう。これはでかかりつけ医機能の推進に逆行してしまう。十分な説明は、かかりつけ医機能を果たす医療機関のメリットにもなる」と強調している点に注目すべきと考えます。
確かに、一般国民にとっては「同じ初診であっても、ある医療機関(かかりつけ医機能を持ち【機能強化加算】を取得する医療機関)では自己負担が高く(機能強化加算の80点×0.3×10=240点)、別の医療機関(かかりつけ医機能を持たない)では自己負担が安いのはなぜか」を理解することは難しく、医療機関で一定の説明が行われ「かかりつけ医機能を持つ医療機関にかかれば、自分や家族にとっても大きなメリットがある」と納得できれば、当該医療機関を選択する大きなインセンティブになると考えられます。もちろん、診療側委員の提案するように、こうした説明は保険者や国も、さまざまな機会を通じて行うことが求められますが、併せて医療機関自身による説明も重要と考えられます。
今後、どのように調整が進むのか注視していく必要があるでしょう。
地域包括診療料など、時間外対応や24時間薬局との連携などの要件緩和を模索
また、2014年度改定で新設された【地域包括診療料】や【地域包括診療加算】については、順次、施設基準等の緩和が進められてきていますが、依然として「ハードルが高い」との声が現場から数多く出ています。
森光医療課長は、かかりつけ医機能の推進には「さらなる施設基準等の緩和」が必要と考え、現場が「特に高いハードル」と感じている項目を中心に緩和を検討する考えを提示しました。例えば、次のような項目が対象になりそうです。
▽時間外、緊急時等の対応体制(【時間外加算1・2】の届け出など)
▽他の医療機関等との連携(院外処方を行う場合の、24時間対応薬局との連携)
▽在宅医療提供体制(在宅医療提供および、当該患者に対する24時間の往診等の体制)
▽外来から訪問診療への移行実績(「直近1年間に、当該医療機関での継続的な外来診療を経て、【往診料】【在宅患者訪問診療料】算定患者合計が10名以上」など)
この提案に対し、診療側の今村委員は「小規模医療機関では患者の絶対数が少なく、外来から訪問診療への移行実績などを満たすことが難しい」ことなどを訴え、森光医療課長の見直し提案の方向に賛意を示しました。
一方、支払側の幸野委員は「緊急時等の在宅対応など、かかりつけ医機能の本質である部分の要件緩和は認められない」と釘を刺しています。
今後、「かかりつけ医機能の確保」と「かかりつけ医機能を持つ医療機関の拡大」とを両睨みしながら、新要件(要件の緩和)を詰めていくことになるでしょう。
女性特有の月経困難症などを継続的・定期的に医学管理する新点数を創設
なお、女性特有の疾患である「月経障害」「月経困難症」「子宮内膜症」などについて、多くの女性が「症状はあるが、それほど重大な病気ではない」と考え、医療機関受診を先延ばしにしている実態があることが再確認されました。
しかし、こうした先延ばし(放置)が「月経困難症」→「子宮内膜症」→「子宮内膜がんなどの続発性疾患」へと進んでいくことも分かっており▼早期発見▼早期治療▼重症化予防―が非常に重要となります。
森光医療課長は、こうした状況を踏まえ「月経困難症や子宮内膜症等の継続的・定期的な医学管理を行った場合の評価」を新設する考えを提示しました。例えば、運動器疾患を有する6歳未満の小児に、専門医師が計画的な医学管理を継続して行い、療養上必要な指導を行うことを評価する【小児運動器疾患指導管理料】(250点、6か月に1回まで算定可能)などを参考に、新点数を構築していくことになります。
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