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遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)、「未発症部位」切除も保険適用へ―中医協総会(1)

2019.12.13.(金)

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について、治療の有効性・安全性が確認され、国内ガイドライン等にも位置づけられたことなどを踏まえ、HBOCの症状である乳がんや卵巣・卵管がんを発症している患者について、遺伝子検査や遺伝カウンセリング、さらに未発症部位の切除などを公的医療保険の対象とする―。

12月13日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった方針が固められました。

言わば「傷病がまだ発生していない段階での治療」を公的医療保険の対象とするもので、極めて画期的な考え方として高く評価できるとともに、今後の「医療保険の在り方」論議に影響が出てくる可能性もあります。

12月13日に開催された、「第441回 中央社会保険医療協議会 総会」

未発症部位への侵襲的治療を保険適用し、がん発症を未然に防ぐ画期的な取り組み

健康保険法第52条では「療養の給付」等が保険給付に含まれることを規定し、また同法第63条では、療養の給付について「疾病または負傷に関する診察・薬剤または治療材料の支給・処置や手術その他の治療」が該当することを規定しています。つまり、病気やケガをしていない場合の治療等、例えばインフルエンザの予防接種や美容整形などは公的医療保険の対象となりません。限りある医療費財源(保険料や公費等)を、必要な人へ公平・公正に分配するためのルールと言えます。

ただし遺伝子解析技術や医学・医療等の進展により、「何もしなければ病気になる可能性が高く、しかも命にかかわる」遺伝子変異の存在が明らかになってきており、その1つに「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HBOC:Hereditary Brest and Ovarian Cancer Syndrome)があります。生殖細胞系列のBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子が変異することで、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが上昇(一般女性に比べて乳がんでは4-10倍程度、卵巣がんでは16-63倍程度)する疾患概念とされ、家族歴のある乳がん・卵巣がん患者の30%はBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子に変異を有することが分かっています。

BRCA遺伝子変異患者は乳がん等患者の3割程度おり、がん罹患率が非常に高くなる(中医協総会(1)1 191213)



当然、放置すれば生命予後にも大きな影響が出ますが、▼乳房の切除▼卵巣・卵管の切除―により、生命予後が飛躍的に高まることが分かっています。例えば、BRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子に変異を有する乳がん患者について、「病変のある乳房のみを切除した」場合と、「両側の乳房を切除した」場合とを比較すると、20年後の生存率には14ポイント程度の差が出てくるという研究結果があります。

HBOCにおいて、未発症部位の切除は生命予後を大きく向上させる(中医協総会(1)2 191213)



このため本邦学会でも「BRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子に変異を有する乳がん・卵巣がん患者について、予防的に乳房・卵巣・卵管を切除する(RRSO)ことが強く推奨される」とのガイドラインを策定しています。

HBOCに対する診療ガイドライン(中医協総会(1)3 191213)



また、HBOC診断を目的としたBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子変異検査が先般、薬事承認され、近く保険収載されると見られています。

こうした状況を踏まえて、厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の岡田就将室長は、「HBOCの症状である乳がんや卵巣・卵管がんを発症している患者について、▼BRCA遺伝子検査▼遺伝カウンセリング▼対側乳房切除や卵巣・卵管切除―を公的医療保険の対象としてはどうか」との提案を行いました。

例えば「右側の乳房」のみにがん病変がある患者において、がんが発症していない「左側の乳房」や「卵巣・卵管」を切除することを保険適用するものです。未発症部位への侵襲的治療の保険適用はこれまでに例がなく、「がん発症を未然に防ぐ」ために極めて画期的な対応を厚労省が英断したと言えるでしょう。

もっとも、「いずれがんになる可能性が高いので、健康な臓器を切除する」ことを一般的に認めるものではありません。岡田医療技術評価推進室長は、今般の対応について▼すでにがんが発症している▼放置すれば生命予後に重大な影響を与える▼有効性・安全性のエビデンスが確立している―という要素によって、「保険適用」と「保険外」との線引きをしていることを強調しています。

したがって、まったくがんが未発症の段階で「私はBRCA遺伝子に変異があるとわかったので、将来のために乳房等を切除したい」と望んだとしても、現時点では乳房等切除を公的医療保険で行うことはできません(全額自費の自由診療であれば可能)。数年前に米国の女優アンジェリーナ・ジョリー氏が自身の遺伝子情報をもとに「未発症の両側乳房を予防的に切除した」ことが大きく報じられましたが、今般の対応はそれを認めるものではありません。あくまで「がんが発症した患者」を対象に、「未発症の部位」切除を保険で認めるものです。

しかし今後の医学・医療等の進展により、こうした考え方が大きく変容する可能性もあり、その際には「どこまでを医療保険で認めるのか」という議論(財源面はもちろん、医療保険の在り方論議)を避けることはできません。今回の対応は、医療保険の在り方を考える上でも、非常に重要な「第一歩」となることでしょう。



現時点では保険適用の方向が定まったのみで、具体的な内容は今後詰めていくことになります。例えば▼どの診療報酬項目を算定するのか(未発症の乳房切除について、K475【乳房切除術】の請求とするのか、K476【乳腺悪性腫瘍手術】の請求とするのか、など)▼過去に乳がんや卵巣がんの治療を終えた患者についてもBRCA遺伝子変異検査や対側乳房切除等の保険適用を認めるのか(基本的には要件を満たせば保険適用が認められる見込み)▼未発症側の乳房再建までを保険適用とするのか(現在、乳がんで乳房切除を行った場合には乳房再建が保険適用されている)―などを、今後、具体的に詰めていくことになります。

未発症側乳房の切除を希望しない患者、フォローアップ検査も保険適用

もっとも、患者によっては「もう片方の乳房が本当にがんになるのか分からない。今は切除など考えられない」と希望する方も少なからずおられることでしょう。病変がある側の乳房切除にすら少なからぬ抵抗を感じており、ましてや「病気になっていない乳房を切除する」ことには極めて大きな抵抗感を覚えると言えます。

しかし、これを「患者が希望したのだから仕方ない」と放置することは好ましくありません(近い将来「がんが発症する可能性が高い」ことが判明している)。そこで岡田医療技術評価推進室長は「切除を希望しない患者に対するフォロ-アップ検査についても保険診療として位置づけてはどうか」との考えを示しました。例えばE202【磁気共鳴コンピューター断層撮影(MRI撮影)】における【乳房MRI撮影加算】などの算定が認められる見込みです。これも、非常に画期的な対応と考えられます。

HBOC対応は、がんゲノム医療中核拠点病院での実施となる見込み

さらに岡田医療技術評価推進室長は、「適切な検査や治療、遺伝子カウンセリング等を行うことが重要であり、HBOCに対する適切な対応が可能な施設において診療が実施されるよう要件等を設ける」考えも示しています。詳細は今後、詰めていくことになりますが、例えばがんゲノム医療を実施する施設として指定される▼がんゲノム医療中核拠点病院(11施設)▼がんゲノム医療拠点病院(34施設)▼がんゲノム医療連携病院(122施設)―が該当することになりそうです。

がんゲノム医療中核拠点病院(太字)とがんゲノム医療拠点病院(細字)

がんゲノム医療連携病院



遺伝子に変異があり「自分はがんに罹患しやすい」という情報は、患者にとって受け入れやすいものではありません。丁寧かつ粘り強い心理的なケアが必要となります。さらに、家族(母や姉妹、娘など)にも同様の遺伝子変異が生じている可能性も高く、しっかりした「遺伝カウンセリング」の実施が期待されます。
 
 

 

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