肺がん検診、「胸部X線検査」を喫煙の有無にかかわらず推奨し、重喫煙者には「低線量CT検査」を新たに推奨—国がん
2025.5.7.(水)
肺がんの対策型検診として胸部X線検査を喫煙状況にかかわらず引き続き推奨する—。
重喫煙者に対する低線量CT検査を対策型検診において推奨し、従来の喀痰細胞診から低線量CT検査に変更することを奨める—。
国立がん研究センターが4月25日に、「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版を公開し、科学的根拠に基づくわが国の肺がん検診の在り方を提言しました(国がんのサイトはこちら)。
「肺がん検診ガイドライン」2025年度版
肺がんは、我が国では、1年間に約12万人が診断されるなど、男女計で2番目に多いがんです。肺がん患者は40代から増加しはじめ、年齢が高くなるほど罹患率が高くなる傾向があります。
また、1年間に約7万5000人が肺がんで死亡しており、男女計で「がん死亡のトップ」を占めています。肺がんによる死亡率は50代から増加しはじめ、年齢が高くなるほど死亡率は高くなっています。
このため我が国では「肺がんの早期発見・早期治療」が重視され、▼1987年より胸部X線検査による検診を実施する▼50歳以上の重喫煙者(喫煙指数注(1日の喫煙本数×喫煙年数):600以上)には、胸部X線検査+喀痰細胞診を実施する—などの対応が図られています。
ところで近年、欧米で「重喫煙者に対する低線量CT検査により肺がんの早期発見・早期治療を行い、死亡率が有意に減少する」といった研究成果が報告され、欧米では「低線量CTによる肺がん検診」が普及してきています。
今般、国がんでは▼「軽喫煙者(喫煙指数600未満)や非喫煙者が多い」という我が国の特性を考慮した低線量CTの有効性評価と課題整理▼現在の胸部X線検査と喀痰細胞診の在り方—を検討し、次のような考え方を整理しました(2025年度版の「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」)。
1「重喫煙者に対する低線量CT検査」(推奨グレードA)
▽米国の研究(喫煙指数600以上の重喫煙者が対象)では「胸部X線検査と比較して死亡リスクが16%減少」
▽欧州の研究(喫煙指数300以上の喫煙者が対象)では、「検診未受診と比較して死亡リスクが24%減少」
▽検診の不利益:▼要精検率は5-10%で、過剰診断は5-20%(最大78.9%)▼放射線被曝は、診療で行われる胸部CT検査1回当たり平均約7.14mSvであるのに対し、本検査では平均約1.05mSvである
▽他にも低線量CT検査の不利益はあるが、それらを総合しても重喫煙者に対する利益が不利益を上回ると判断でき、対策型検診・任意型検診としての実施を勧める
2「重喫煙者『以外』への低線量CT検査」(推奨グレードI)
▽現時点で、死亡率減少効果を示す科学的根拠は十分ではなく、検診による利益は不明である
▽非喫煙者に発生する肺がんの多くは進行速度が遅いため、「過剰診断のリスクが高くなる」ことが懸念され、重喫煙者と同等あるいはそれ以上の不利益になる可能性がある
▽対策型検診としては実施しないことを勧める
▽任意型検診としては医療者が利益と不利益に関する適切な情報提供を行い、検診受診者個人の判断を支援することを勧める
3「胸部X線検査」(推奨グレードA)
▽国内研究では、被検者の喫煙の有無にかかわらず「死亡率減少効果」が示されている
▽米国の研究では、研究開始から13年目の評価では死亡率減少効果は認められなかったが、減弱効果を考慮した研究開始から6年目の評価では死亡率減少効果があることが示唆されている
▽利益が不利益を上回る可能性が高いため、対策型検診・任意型検診としての実施を勧める
4「重喫煙者に対する胸部X線・喀痰細胞診併用法」(推奨グレードD)
▽死亡率減少効果の上乗せを示す十分な科学的根拠はない
▽喫煙指数1000以上の集団では「死亡率減少効果」が示唆されるが、喫煙率低下により国内では大幅に対象者が減少している
▽国内では、喀痰細胞診によるがん発見数自体が年間20-30例程度に減少しており、検診としての実施は不利益のみを与える可能性があり、検診方法としては外されるべきである
▽対策型検診・任意型検診として実施しないことを勧める
なお、検診対象者・検診間隔について次のように整理されています。
▽重喫煙者に対する低線量CT検査の対象年齢と検診間隔の明示
→検診開始が早いほどCT検査の被曝によるがんリスクが高まること、50代から肺がん死亡率が高くなりはじめることなどを考慮し、また平均余命と健康寿命、術後院内死亡リスクが75歳以上で高まることなどを考慮し、対象年齢は「50-74歳」とした
→多くの研究が「1年間隔」で実施されたこと、検診間隔を拡大すると「次の検診のまえに自覚症状があり、がんが発見される」割合が高まること、重喫煙者では進行速度の速いがんが多く発生することから、検診間隔は「1年に1回」とした
▽胸部X線検査の対象年齢と検診間隔の明示
→国内研究結果を踏まえ、対象年齢は「40-79歳」とした
→国内研究結果を踏まえ、検診間隔は「1年に1回」とした
国がんでは、これらを踏まえて▼肺がんの対策型検診として胸部X線検査を喫煙状況にかかわらず引き続き推奨する▼重喫煙者に対する低線量CT検査を対策型検診において推奨し、従来の喀痰細胞診から低線量CT検査に変更することでより確実な効果が期待できる▼検診の機会を活用し、「禁煙支援を積極的に推進する」ことが重要である▼重喫煙者「以外」に対する低線量CT検査については、現在の国内研究結果を踏まえて再評価する(現時点では対策型検診として推奨しない)—と整理しています。
なお、厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」では、新たな対策型検診項目等の導入プロセスに関する議論を続けています(関連記事はこちら)。
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