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日本人大腸がん患者の5割に特徴的な「腸内細菌による発がん要因」を発見—国がん・東大

2025.5.26.(月)

日本人症例の5割に、「一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による遺伝子変異パターン」が存在する—。

国立がん研究センターと東京大学が5月21日に、こうした研究成果を明らかにしました(国がんのサイトはこちら)。

今後、さらに研究を進めることで、「大腸がんに対する新たな予防法・治療法の開発」につながると期待されます。

日本人の大腸がん罹患が今や世界的に見ても多くなっている

我が国では、大腸がんの罹患者・死亡者が年々増加しており、2023年の「人口動態統計月報年計(概数)」を見ると、死亡数も年間5万3000人超と、全がん種で2番目に多くなっています(関連記事はこちら)。

大腸がんの発症には「生活習慣」が深く関わっていることが知られており、喫煙、飲酒、肥満、欧米型食生活などにより大腸がんが発生する危険性が高まります。日本では大腸がん患者が増加傾向にあり、最近の研究では欧米諸国を超えてトップクラスとなっているほか、若年者症例も年々増加しています((関連記事はこちら)。

がんは様々な要因によって「正常細胞のゲノムに異常が蓄積して発症する」ことが分かっており、さらに、昨今の大規模ながんゲノム解析から「突然変異の起こり方には一定のパターンがある」ことが明らかになってきました。これらのパターンは「変異シグネチャー」と呼ばれ、「喫煙や紫外線暴露といった様々な環境要因」と「遺伝的背景」によって異なり、変異シグネチャーを解析するためには全ゲノムの解読が必要となります(解析によって得られる点変異のシグネチャーを「SBS:Single Base SubstitutionSignature」、微小な欠失や挿入 (insertion/deletion)のシグネチャーを「ID:Insertion/DeletionSignature」と呼ぶ)。がんゲノムデータから変異シグネチャーを抽出することで、そのがんがどういった原因の組み合わせによって発生したのかを追跡することが可能です。

変異シグネチャー解明の仕組み



ところで、各個人の腸内には数百種類以上・100兆個以上の細菌が存在しており(腸内細菌)、消化や免疫、ビタミン合成など生理的に重要な機能に関与する一方で、一部の腸内細菌は大腸がんの発生・悪性化にも関連しています。

そうした中で、大腸がんの要因として「コリバクチン(colibactin)毒素」に注目が集まっています。コリバクチン毒素は、大腸菌やその他の腸内細菌によって生産・分泌される2次性代謝産物で、DNAの2重差鎖を切断します。とくに「DNA障害性(genotoxic)pks+大腸菌」によるコリバクチン毒素産生が知られており、ヒト大腸オルガノイド細胞にpks+大腸菌を暴露することによって特徴的な遺伝子の変異パターン(SBS88/ID18)が誘発されることが報告されています。

コリバクチン毒素により誘発される変異シグネチャー



今般、国がんでは、大腸がんの発症頻度の異なる11の国から981症例のサンプルを収集し、全ゲノム解析を実施。その解析データから「突然変異の検出→変異シグネチャーの抽出」を行い、▼地域▼臨床背景—ごとに変異シグネチャー分布に差があるかを検討しました(ただし発症原因が明らかなDNA修復系異常による大腸がん(マイクロサテライト異常 (Microsatellite Instability)大腸がん、大腸がん全体の約 6%を占める)は解析対象に含めていない)。

その結果、次のような点が明らかになりました。

【「国別」大腸がんの変異シグネチャー比較】
▽日本人症例では「SBS88」ならびに「ID18」の頻度が他国と比較して多い(日本人症例では、37.4%にSBS88を、50%にID18を検出、両者のいずれかが検出された症例は他国平均と比べて2.6倍超)

▽国別の大腸がん発症頻度は「SBS88/ID18の量」と有意に相関しており、最も大腸がん発症頻度が高い日本人で、「コリバクチン毒素による変異が最も多い」ことが確認された

各国の大腸がん症例における変異シグネチャーの比較



【「年齢別」大腸がんの変異シグネチャー比較】
▽若年者症例では「SBS88」「SBS_M」「ID18」が多く、高齢者症例では「SBS5.SBS1」「ID9」「ID4」「ID1」「ID2」「ID10」が多い

▽コリバクチン毒素による変異シグネチャーである「SBS88」「ID18」は年齢別にみても50歳未満の若年者症例に特に多い(70歳以上の高齢者症例と比較して3.3倍)

▽大腸がんにおけるドライバー変異と変異シグネチャーとの関連について検討したところ「大腸がんで最も早期に起こるドライバー異常であるAPC変異について、全体の15.5%が『SBS88』あるいは『ID18』のパターンと一致しており、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がんの発症早期から関与している」ことが示された

変異シグネチャーと年齢、ドライバー以上との関係



【コリバクチン毒素を産生するpks+腸内細菌とSBS88/ID18変異シグネチャーとの関連】
▽SBS88/ID18変異シグネチャーの有無とpks+腸内細菌の量に有意な差はみられなかった

▽年齢別に見ると、若年者症例のがんでは「SBS88/ID18変異シグネチャーが見られるが、pks+腸内細菌は検出できない」症例(下図の変異シグ(+)pks(-))が多い
→コリバクチン毒素暴露からDNA変異誘発には時間がかかるため、手術時に存在している腸内細菌ではなく、「より早期から持続的にpks+腸内細菌に暴露している」ことが大腸がん発症に寄与すると推定される

「pks+腸内細菌」と「コリバクチン毒素による変異シグネチャー(SBS88/ID18)」との関連



国がんでは、こうした研究結果から▼日本人症例ではコリバクチン毒素による変異シグネチャーが最も高頻度に確認され、この変異シグネチャーの量が国別の発症頻度と相関していることから、日本における大腸がん増加の重要な要因である▼コリバクチン毒素による変異シグネチャーが若年者症例に多いことから、若年者大腸がんの大きな要因の1つである—と分析。

さらに、「若年者大腸がんにはコリバクチン毒素以外の未知の要因による変異シグネチャーもみられる」こと、「今回解析された日本人症例は限定的である」ことなどから、今後、若年者大腸がんを中心とした大規模な多施設共同研究によって国内の各地域からサンプルを集め、全ゲノム解析を行う研究計画が進められています。今後の研究で、▼コリバクチン毒素による大腸発がんの国内における広がり▼若年者症例の発症要因の全貌▼ドライバー異常の全体像—が明らかになれば、「日本における大腸がんの新たな予防法・治療法の開発」につながると期待されます。

また、これまでの国際共同研究で、▼食道がん▼腎臓がん▼大腸がん—について、日本人症例には世界の他の地域と比較して「特徴的な発がん要因」の存在が明らかになりました。AMEDのプロジェクトによって、多くのがん種について日本人症例の大規模な全ゲノムデータが集積されてきており、「日本における様々ながん種の発がん分子機構の解明・がん予防への応用」にも期待が集まります。

若年者大腸がんの発がん要因解明に期待が集まる



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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