2018年11月までに1200件の医療事故、72.8%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2018.12.10.(月)
今年(2018年)11月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は31件。医療事故調査制度発足から累計1200件の医療事故が報告され、うち72.8%の874件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードがますます向上している。ただし一般国民は、本制度を必ずしも十分には理解しておらず、制度の浸透が依然として大きな課題である―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が12月7日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。
目次
2018年11月の医療事故報告件数、整形外科で4件、消化器科等や3件
2015年10月から、すべての医療機関には、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました(医療事故調査制度)。事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです(関連記事はこちら)。
センターでは、重大事故について詳細を分析し、すでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—の6つの再発防止策を公表しています。
医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。
▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する
↓
▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
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▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)11月には、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1200件となりました。
今年(2018年)11月に新たに報告された事故の内訳は、病院から30件、診療所から1件となりました。制度発足からの累計では、病院から1129件(事故全体の94.1%)、診療所から71件(同5.9%)となっています。
今年(2018年)11月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼整形外科4件▼消化器科3件▼循環器内科3件▼心臓血管外科3件▼脳神経外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科203件(同16.9%)▼内科145件(同12.1%)▼消化器科103件(同8.6%)▼整形外科102件(同8.5%)―などという状況です。
センターへの相談件数は累計6098件、依然「国民の制度への理解」が重要課題
センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。
この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するだろうか?」という疑問が生じるケースがあります。また、初めて事故を報告する際には「センターへ、どのように報告すればよいのだろうか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。
こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させることにつながるため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)11月には、新たに182件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6098件にのぼっています。
今年(2018年)11月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から77件▼遺族などから88件▼その他・不明17件―となっています。
医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので38件(医療機関からの相談の49.4%)。次いで「院内調査に関するもの」が21件(同27.3%)、となりました。「報告すべき医療事故か否かの判断」は11件(同じく14.3%)にとどまっており、医療現場に制度が相当程度浸透していることが伺えます(関連記事はこちらとこちら)。
一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」がほとんどで、75件(遺族などからの相談の85.2%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民には、制度の内容が十分には浸透していない状況が伺えます。
いかに「迅速かつ正しく医療事故を報告する」など、医療現場が適切な制度運用を行ったとしても、一般国民からの理解・信頼がなければ制度の基礎が揺らいでしまいます。一般国民に医療事故調査制度を分かりやすく周知していくことが喫緊の課題と言えるでしょう。
センターへの調査依頼は新たに2件、全78件中11件でセンター調査が完了
前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自身で体制やプロセスを調べることで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。
今年(2018年)11月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では874件となりました。これまでに報告された全1200件の医療事故のうち、72.8%で院内調査が完了していることになります。院内調査のスピードはさらに増加しており、医療機関側の努力、積極的な姿勢が伺えます。
ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。
そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ただし、「センターが一から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。
今年(2018年)11月に、センターになされた調査依頼は2件で、医療機関から1件、遺族から1件という内訳です。制度発足からの累計調査依頼件数は78件(遺族から62件・79.5%、医療機関から16件・20.5%)です。進捗状況を見ると、▼センター調査終了が11件(前月から2件増加)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が1件▼医療機関における院内調査の終了待ちが1件—となっています。
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