2018年9月までに1129件の医療事故、国民の制度理解は依然進まず―日本医療安全調査機構
2018.10.5.(金)
今年(2018年)9月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は27件。医療事故調査制度発足から、累計1129件の医療事故が報告され、うち72.4%の817件で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードがますますアップしている。ただし国民は、本制度を必ずしも十分には理解していない―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が10月3日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。
目次
2018年9月の医療事故報告件数、外科や内科などで3件
すべての医療機関は、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務を負います(医療事故調査制度、2015年10月スタート)。医療事故調査制度は、事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有することを目的としています。
センターでは、これまでに重大な事故について詳細を分析し、(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—という6つの再発防止策を公表しています。
医療事故調査制度の流れをお浚いすると、大きく次のように整理できます(関連記事はこちら)。
▼医療事故の発生を確認した管理者は速やかに、センターに事故発生の旨を報告する
↓
▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書を提示することまでは不要とされている)
↓
▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)9月には、新たに27件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1129件となりました。
2018年9月に新たに報告された事故の内訳は、病院からが25件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から1061件(事故全体の94.0%)、診療所から68件(同6.0%)となっています。
2018年9月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科3件▼内科3件▼循環器内科3件▼産婦人科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科193件(同17.1%)▼内科140件(同12.4%)▼消化器科98件(同8.7%)▼整形外科94件(同8.3%)―などという状況です。
センターへの相談件数は累計5749件、依然として「国民の制度への理解」が重要課題
前述したとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、そのうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。火災などで瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合に、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるためです。もっとも、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり、通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとして報告が必要となります。
この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じるケースがあります。また、初めて事故報告をする際には「センターへ、どのように報告すればよいのか?」との疑問も生じるでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていないようだ。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念がわくケースもあるかもしれません。
こうした疑問・疑念を放置することは、制度の信頼を揺るがせ、基盤を脆弱にしてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)9月には、新たに120件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では5749件にのぼっています。
2018年9月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から49件▼遺族などから58件▼その他・不明13件―となっています。
医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので26件(医療機関からの相談の53.1%)。次いで「院内調査に関するもの」が14件(同28.6%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が7件(同じく14.3%)となりました。医療現場への制度の浸透が強く伺えます(関連記事はこちらとこちら)。
一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」が大半を占め、42件(遺族などからの相談の72.4%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、「医療現場と一般国民との医療事故調査制度に対する認識のズレ」は、広まる一方と言わざるを得ない状況です。いかに医療現場が正しく報告を行い、適切に制度を運用していても、一般国民の信頼がなければ制度の礎は脆くなります。今一度、一般国民に医療事故調査制度を周知していくことが必要です。
センターへの調査依頼は新たに2件、全75件中8件でセンター調査が完了
前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。院内調査の過程で自院の体制を点検し、再発防止策を構築することが再発防止の近道と考えられるためです。
今年(2018年)9月に新たに院内調査が完了した事例は30件で、制度発足からの累計では817件となりました。これまでに報告された全1129件の医療事故のうち72.4%で院内調査が完了している計算です。院内調査のスピードはますまs増加しており、医療機関サイドの努力が伺えます。
ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。
そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ただし、一から調査するのではなく、「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。
今年(2018年)9月に、センターになされた調査依頼は遺族からの2件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は75件(遺族から60件・80.0%、医療機関から15件・20.0%)です。進捗状況を見ると、▼センター調査終了が8件(前月から1件増加)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が66件▼院調査結果報告書の準備作業中が1件—となっています。
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