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2018年7月までに1061件の医療事故報告、うち71.2%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構

2018.8.10.(金)

 今年(2018年)7月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は33件。医療事故調査制度発足から、累計1061件の医療事故が報告され、うち71.2%の755件で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードがますますアップしている―。

 日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が8月9日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2018年7月の医療事故報告件数、外科で7件、循環器内科で5件

 すべての医療機関は、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告すしなければいけません(医療事故調査制度、2015年1月スタート)。医療事故調査制度は、事故の原因を調査し、明らかにする中で、「再発防止策」を構築し、広く共有することを目的とするものです。

センターでは、これまでに重大な事故について詳細を分析し、(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析—という4つの再発防止策を公表しています。

 医療事故調査制度の大きな流れは、▼医療事故発生を確認した管理者は速やかに、センターに事故発生の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などの提示までは不要) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—というものです(関連記事はこちら)。

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 
 我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)7月には、新たに33件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1061件となりました。

 2018年7月に新たに報告された事故の内訳は、病院からが31件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から995件(事故全体の93.8%)、診療所から65件(同6.1%)となっています。

 2018年6月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科7件▼循環器内科5件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科183件(同17.2%)▼内科132件(同12.4%)▼消化器科91件(同8.6%)▼整形外科89件(同8.4%)―などという状況です。

2018年7月に、新たに33件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で1061件の医療事故が報告されている

2018年7月に、新たに33件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で1061件の医療事故が報告されている

 

センターへの相談件数は累計5474件、「遺族の制度への理解」は依然として重要課題

 前述のとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、そのうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。火災などに巻き込まれて瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期される」ため報告の必要はありません。しかし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり、通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期されなかった」ものとして報告が必要となります。

 医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのだろうか?」という疑問が生じることもあるでしょうし、初めて事故報告をする際には「センターへどのように報告すればよいのだろうか?」との疑問も生じるでしょう。一方で、遺族側が「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。もしかしたら事故を隠蔽しようとしているのではないか」といった疑念を抱くこともあると思われます。

 こうした疑問・疑念を放置することは制度の信頼を揺るがしてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)7月には、新たに172件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は5474件にのぼっています。

 2018年7月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から71件▼遺族などから90件▼その他・不明11件―となっています。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので38件(医療機関からの相談の53.5%)。次いで「院内調査に関するもの」が15件(同じく21.1%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が13件(同じく18.3%)となりました。医療現場へ制度浸透や、医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)により、事務的な相談が多くなっています(関連記事はこちらこちら)。

 一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然「医療事故に該当するか否かの判断」が大半を占め、70件(遺族などからの相談の77.7%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、「医療現場と一般国民との医療事故調査制度に対する認識のズレ」は埋まっていません。医療現場が正しく報告を行うなど、適切な制度運用がなされていても、一般国民の信頼がなければ制度の礎が脆くなってしまいます。これまで以上に、一般国民に医療事故調査制度を周知していくことが必要です。

センターへの相談は2018年7月に172件あり、うち71件が医療機関から、90件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である

センターへの相談は2018年7月に172件あり、うち71件が医療機関から、90件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である

 

センターへの調査依頼は新たに1件、全70件中5件でセンター調査が完了

 前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあるため、まず「事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが重要です。院内調査の過程で自院の体制を点検し、再発防止策を構築することが再発防止の近道と考えられるからです。

 今年(2018年)7月に新たに院内調査が完了した事例は27件で、制度発足からの累計では755件となりました。これまでに報告された全1061件の医療事故のうち71.2%で院内調査が完了しており、院内調査のスピードはさらに増しており、医療機関サイドの努力が伺えます。

医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年7月に27件、制度発足からの累計で755件となった(報告された事故全体の71.2%に相当)

医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年7月に27件、制度発足からの累計で755件となった(報告された事故全体の71.2%に相当)

 
 
 ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいるかもしれません。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあることでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

 そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています。ここでは「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2018年)7月に、センターになされた調査依頼は遺族からの1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は70件(遺族から55件・78.6%、医療機関から15件・21.4%)で、進捗状況を見ると、▼センター調査終了が5件▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件(前月より2件増)—となり、順調にセンター調査が行われている状況が分かります。

 
 
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