がん化学療法、患者が「外来実施」選択できるような環境整備を推進―中医協総会(2)
2019.11.25.(月)
がん化学療法について、患者が「外来」と「入院」とを選択できるような環境をさらに整備するため、【がん患者指導管理料】に「外来化学療法という選択肢もある」点の説明義務を要件化してはどうか―。
11月22日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われています。
診療報酬で「外来でのがん化学療法」を推進
中医協では2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が精力的に進められており、11月22日には「療養病棟入院基本料」について議論したほか、▼データ提出の拡大▼生活習慣病の重症化予防▼外来化学療法の推進▼ニコチン依存症の治療―も議題となりました。それぞれについて見ていきましょう。
まず外来化学療法についてですが、診療報酬上は【外来化学療法加算】が設定されています。
▽加算1(抗がん剤使用に関する加算A、関節リウマチ用薬に関する加算B)
→▼外来化学療法実施の専⽤のベッドを有する治療室▼化学療法経験5年以上の専任常勤医師▼化学療法経験5年以上の専任常勤看護師(化学療法実施時間帯は常時当該治療室に勤務)▼化学療法調剤経験5年以上の専任常勤薬剤師▼緊急時の入院体制等確保▼レジメンの妥当性を評価・承認する委員会の開催―が施設基準
▽加算2(同)
→▼外来化学療法実施の専⽤のベッドを有する治療室▼化学療法経験のある専任常勤看護師(化学療法実施時間帯は常時当該治療室に勤務)▼専任常勤薬剤師▼緊急時の入院体制等確保▼レジメンの妥当性を評価・承認する委員会の開催―が施設基準
算定状況を見ると、「加算1は増加傾向」「加算2は横ばい」ですが、例えば「加算1のA(抗がん剤使用)、かつ15歳以上」の状況を見ると「施設によって大きなバラつきがある」ことが伺えます。
優れた抗がん剤や制吐剤等の登場などにより「化学療法を外来で受けられる環境の整備」が進み、また「治療と仕事の両立ニーズ」が増加している点などに鑑みれば、「患者のニーズに応じて、より積極的に外来での化学療法実施を選択できる」体制の整備が必要と言えるでしょう。
そこで厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、【がん患者指導管理料】について、「外来での化学療法実施が可能な患者に対しては、外来での化学療法について説明することを求める」という要件追加を検討してはどうかと提案。
【がん患者指導管理料】では、「診断結果及び治療方法等について患者が十分に理解し、納得した上で治療方針を選択できるように説明・相談を行う」「薬剤の効能・効果、服用方法、投与計画、副作用の種類とその対策、日常生活での注意点、副作用に対応する薬剤や医療用麻薬等の使い方、他の薬を服用している場合は薬物相互作用等について文書により説明を行う」などの算定要件が設けられており、「外来化学療法という選択肢もある」点の説明を明文化するイメージでしょう。
あわせて森光医療課長は、「より質の高い外来化学療法」の実施に向けて、▼医療機関と薬局との連携を強化する(医療機関から薬局へのレジメン情報等提供、薬局から医療機関への副作用情報等提供など)▼専門的な知識を有した管理栄養士による患者の症状等に合わせた栄養指導―について、施設基準への組み込みや評価を行ってはどうかとも提案しました。
こうした方向に明確な反対意見は出ていませんが、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「丁寧な検討」を求めています。今後、具体的に要件等を詰めていくことになるでしょう。
データ提出の内容・対象義務病棟を拡大
データ提出については、(1)提出データの内容の拡大(2)提出義務対象病棟の拡大(3)提出データ評価加算の要件見直し―の3つの論点が森光医療課長から提示されました(データ提出についての関連記事はこちら)。
まず(1)の提出データの内容については、▼急性期病棟でも、要介護度や要介護情報の入力を必須とする▼要介護度に係る項目について、経管・経静脈栄養の詳細を追加する▼褥瘡に係る項目について、データ提出加算の項目以外で既に入力している項目と、データ提出加算における項目との整合性を図る―こととしてはどうかと森光医療課長は提案。急性期病棟においても、高齢の患者が増加している点を踏まえた重要な見直し提案ですが、診療側の松本委員は「データ提出の項目が非常に多く、病院にとっては相当な負担になっている。項目を精緻してはどうか」との注文を付けています。
また(2)の提出義務対象病棟については、次のような拡大案が森光医療課長から示されました。
▽許可病床数50床未満または1病棟のみの「急性期一般2-7と回復期リハビリ病棟1-4」の経過措置の廃止
▽許可病床200床以上だが、「回復期リハビリ病棟5・6、療養病棟が200床未満」の病院の経過措置の廃止
▽許可病床数200床未満の「回復期リハビリ病棟5・6、療養病棟」について、一定の経過措置を設けつつデータ提出加算を要件とする
▽「回復期リハビリ病棟5・6、療養病棟の病床だけで200床未満」の病院で、電子カルテシステムが導入されていないなど、データ提出が困難なことに正当な理由がある場合は、一定の間、データ提出を不要とする経過措置を設ける
中医協の下部組織である入院医療分科会では、「50床以上200床未満の病院における療養病棟や回復期リハビリ病棟5・6」をターゲットにデータ提出義務の拡大を検討してきましたが、森光医療課長は「さらにデータ提出義務を拡大すべき」と考えていることがわかります。
ただし、このようにデータ提出義務を拡大していった場合、「データ提出が不可能(データ提出の遅延が重なるなど)になると、当該入院料が届け出られなくなってしまう」「データ提出が可能になるまでに申請から6-8か月が必要なため、当該入院料の取得までに長期間がかかる」という課題も生じます。そこで森光医療課長は、医療現場に配慮し、次のような見直しを行う考えも示しました。
▽新規に急性期の病棟を届け出る場合、データ提出加算が算定できなくなった場合には【地域一般入院基本料】(旧13対1、15対1)等を算定することになっているが、「一定期間は【急性期一般7】(旧10対1、加算なし)を算定できる」こととしてはどうか
例えば、新規に【急性期一般1】を届け出ようと考えた病院では、看護配置や平均在院日数の実績を積み、さらにデータ提出の受領を待つ間は【特別入院基本料】【地域一般入院料】を算定し、すべての要件がそろって、やっと【急性期一般1】の算定が認められ、それには最短でも6-8か月がかかります。この【地域一般入院料】を取得する期間のうち、一定程度について【急性期一般7】算定を認めることで、病院経営の安定化を目指すものです。
こうした方向に異論は出ていません。
さらに(3)の【提出データ評価加算】は、データの精度の高さ(未コード化傷病名割合が全て1割未満)などを評価するものですが、「ほとんどの病院では、未コード化傷病名割合1割未満」を実現できており、「要件の厳格化を検討すべきか否か」という論点が浮上しています。
この点、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「現行の10%未満から5%未満程度に厳格化してはどうか」と提案していますが、上述のように「新規にデータ提出が求められる」が増加することを踏まえて、診療側の松本委員は「現行維持」(新規にデータ提出をする場合、データ精度が低くなることが起こりうる)を求めています。
生活習慣病管理料、「月1回以上の指導管理」要件をどう考えるか
高血圧症や糖尿病などの生活習慣病については、「軽症のうちは自覚症状がなく治療に積極的でないため、重症化して合併症(脳血管疾患や腎臓病など)を引き起こしてしまう」点が大きな問題となっています。
このため、「いかに治療を中断させず、継続するか」が重要論点となり、森光医療課長は「糖尿病の患者の定期的な眼科受診の必要性や患者の受診頻度、患者が受診を中断する理由を踏まえた【生活習慣病管理料】の算定要件見直し」を検討する考えを示しました。
【生活習慣病管理料】は「月1回以上の指導管理を行う」ことが要件となっていますが、「2か月に1回以上の受診」患者が相当程度いることが分かっています。
また、患者の中には「医療費負担が重い」として治療中断してしまう人も決して稀ではありません。
ここから【生活習慣病管理料】について、例えば「月1回の指導管理要件を、2-3か月に1回に緩和する」「患者の経済状況を踏まえて、安価な医薬品(後発品など)への切り替え等も検討することを求める」「眼科受診の勧奨と受診確認」などの見直し案が考えられそうです。ただし、診療側の松本委員や支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は、「月1回程度の指導管理は必須であろう。受診感覚の延長は慎重に検討すべき」と述べており、どういった新要件となるのか、今後の動きに注目する必要があります。
なお、森光医療課長は【在宅妊娠糖尿病患者指導管理料】について、学会からの「妊娠中の糖代謝異常は、分娩後の将来的な糖代謝異常にも影響を与える」との指摘等を踏まえ「妊娠中のみならず、産褥期(分娩後12週間以内)にも算定できる」との見直しを行う考えも示しました。この考えは中医協委員にも受け入れられています。
このほか、ニコチン依存症の治療充実等に向けて、▼【ニコチン依存症管理料】において加熱式たばこを対象とし、情報通信機器の活用を可能とすることなどを検討する▼【総合入院体制加算】等における禁煙・分煙規定を健康増進法の規定にマッチさせる―ことも論点となっています。
情報通信機器を用いたニコチン依存症に対する指導・管理は、いわば「オンラインによる禁煙指導」と言えます。この点、支払側の幸野委員は、「そもそも禁煙指導を保険診療で行う」ことに異論を唱えており、オンライン禁煙指導への拡大にも難色を示しています。
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