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2020年度診療報酬改定論議の整理、支払側の幸野委員「反対意見の多い項目」の復活要望し混乱―中医協総会

2020.1.10.(金)

新年を迎え、2020年度診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会・総会の議論がいよいよ大詰めを迎えます。

1月10日に開催された中医協総会には、厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長が「議論の整理」案を提示しました。昨春(2019年春)からの総論・個別項目論議の中で「2020年度改定での実施」に向けた意見が相当程度煮詰まった項目を整理したもので、2020年度改定項目のベースとなります。

中医協総会では、近く(1月15日予定)「議論の整理」を固め、パブリックコメントを募集します。さらに1月24日に地方公聴会を開催し、2020年度改定に関する国民の意見を勘案したうえで「個別改定項目」(いわゆる短冊)の議論に入り、2月上旬の答申(新点数等確定)を目指します。

1月10日に開催された、「第444回 中央社会保険医療協議会 総会」

改定基本方針に沿って、2019年春からの中医協論議を整理

「議論の整理」案は、昨春(2019年春)からの中医協論議を、改定基本方針(社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で取りまとめ)の4本柱に沿って整理したものです。

(1)医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進(重点課題)
(2)患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
(3)医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
(4)効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

●議論の整理案はこちら(中医協総会資料)●

2020年度診療報酬改定基本方針の概要(社保審・医療部会1 191209)



2024年4月から勤務医に新たな罰則付き時間外労働上限(原則年間960時間以内、救急医療機関や研修医などでは特例的・暫定的に1860時間以内)が適用されることを踏まえ、(1)では医療機関の「労務管理徹底」や「タスク・シフティングの推進」などを診療報酬で評価するものです。

例えば、消費税財源を活用したプラス0.08%の紐付き財源を活用して「過酷な勤務環境となっている、地域の救急医療体制における重要な機能を担う医療機関について新たな評価を行う」ことや、医師から医師事務作業補助者、看護師、看護助手、薬剤師などの多職種への業務移管を診療報酬で下支えすること、さらに常勤・専従などの要件を医療安全・医療の質に十分に配慮したうえで緩和を進めることなどが整理されています。

また(2)では、かかりつけ医機能を推進するための【地域包括診療加算】や【小児かかりつけ診療料】などの要件見直し、かかりつけ医機能を評価する【機能強化加算】の「掲示等の情報提供に係る要件」の見直し、紹介先医療機関から紹介元のかかりつけ医機能を有する医療機関へ情報提供を行った場合の新たな評価、がん対策や認知症対策などへの診療報酬でのサポートなどが目を引きます。

一方、(3)では、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度見直し、地域包括ケア病棟入院料等の見直し(DPC病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した場合の評価方法見直しなど)、入退院支援加算等の要件見直し、大病院の外来を紹介状なしに受診する患者の定額負担徴収義務対象の見直しなど、病院経営の根幹となる「入院医療」の見直し項目が目白押しとなっています。

さらに(4)では、後発医薬品等の使用推進、費用対効果評価の推進、医薬品・医療機器・検査等の適正化などが盛り込まれました。



この「議論の整理」を固めたうえで、具体的な施設基準や算定要件などを中医協で集中的に検討することになり、田辺国昭会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「次回会合(1月15日予定)で『議論の整理』を固め、パブリックコメントに付したい」との考えを示しています。

支払側の幸野委員、議論が煮詰まらない項目を「議論の整理」へ組み込み要望

「議論の整理」は冒頭に述べたとおり、昨春からの中医協論議で「見直し方向が固まってきた」ものを厚労省で整理したものです。議論の過程では、当然「支払側と診療側とで意見の隔たりが大きく、2020年度改定での対応は見送る」こととなった項目も多数存在します。これらについても中医協総会で整理し、相当部分は「2022年度以降の改定に向けた宿題」(附帯意見)に盛り込まれ、改めての議論を待つことになります。支払側と診療側では、当然、立場も考え方も異なることから、限られた時間の中で「すべての項目について一致点を見出す」ことは不可能なためです。

しかし、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「今後の宿題」項目の一部、つまり議論が煮詰まらなかった項目について「非常に重要なテーマであり『議論の整理』に盛り込むべき」と強く主張しました。

例えば、特定機能病院における「フォーミュラリ」(医療機関等が作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」)の作成・維持体制の評価については、「フォーミュラリを作成し医療の標準化を進めていく」方向そのものに異論は出ていませんが、▼フォーミュラリ作成プロセス等の標準化がなされていない(どういった組織で、どういった職種が作成に関与するのかなど)▼運用ルール等も明確になっていない(どこまで拘束力を持たせるのかなど)―状況で「診療報酬による評価は時期尚早ではないか」との慎重意見が、診療側だけでなく、支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)からも出されました(関連記事はこちら)。こうした状況を踏まえ、森光医療課長は「2020年度改定での評価実施は困難」と判断し、「議論の整理」には盛り込んでいません。

また、【生活習慣病管理料】について、「医療費(特に薬剤費)の負担が大きい」として治療を中断してしまう患者が一定程度いることを踏まえ、患者の経済状況を踏まえて、安価な医薬品(後発品など)への切り替え等も検討する」ことの要件化が検討されました。しかし、患者の経済力はさまざまであり、医師の負担が極めて大きくなってしまうという懸念が診療側委員や支払側の吉森委員らから示されたこと(関連記事はこちら)、さらに「要件化すれば、要件の一部でも満たさない場合には点数が算定できなくなってしまう」ことなどを勘案し、やはり「議論の整理」には盛り込まれませんでした。

このように議論の熟度等を総合的に踏まえて「議論の整理」に盛り込むべきか否かが判断されましたが、幸野委員は「重要項目である。議論の整理に盛り込み、もう一度議論すべき」との主張を繰り返しました。さらに【生活習慣病管理料】の要件見直しについては、骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)を踏まえた「新経済・財政再生計画改革工程表2019」において「生活習慣病治療薬の費用面も含めた適正な処方の在り方について、2020年度診療報酬改定において、必要な見直しを実施」とある点を引き合いに、「中医協として回答を示していない」と指摘しました。

これに対し森光医療課長は、「議論が十分に煮詰まっていない」(反対意見が多い)ことや、例えば【生活習慣病管理料】に関しては、「後発医薬品の使用推進」や「一般名処方の推進」などと合わせて患者の費用負担に総合的に対応することを丁寧に説明。

また「『議論の整理』案の内容に関する議論は、次回(1月15日予定)に行う」ものとして沈黙を守っていた診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)も、見かねて「フォーミュラリの評価や生活習慣病管理料の要件見直しを2020年度改定で進めるべきと主張しているのは、極めて少数派、実質的には幸野委員ただ一人である」ことを指摘しましたが、幸野委員は納得せず、中医協論議は混乱してしまいました。



森光医療課長は「次回(1月15日予定)で、どういった議論をすべきか検討する」と場をおさめましたが、極論すれば「大多数がAに賛成(あるいは反対)という方向で一致していたとしても、たった1人がそれと逆の意見を言い続ければ、議論をひっくり返せてしまう」という事態は決して好ましいこととは言えないでしょう。異なる立場で議論を重ねながら一致点を見出す場であり、「この部分はそちらに譲るので、この部分はこちらに譲ってもらえないか」という理性的な議論を期待したいところです。

【抗菌薬適正使用支援加算】、外来の抗菌薬適正使用も要件化へ

なお1月10日の中医協総会では、【抗菌薬適正使用支援加算】について▼要件の1つである院内研修等において「抗微生物薬適正使用の手引き」を踏まえた取組をすることを求める▼病院の外来における急性気道感染症・急性下痢症に対する経口抗菌薬の使用状況についても把握することを求める―という要件見直し方向も固まりました。

【抗菌薬適正使用支援加算】は、主に入院医療における抗菌薬の適正使用を評価するものですが、外来医療における広域抗菌薬(セファロスポリン、キノロン、マクロライド)の適正使用が十分に進んでいない(耐性菌分離率の実績と目標値とで隔たりが大きい)ことを踏まえ、言わば「要件の強化」を行うものです。

耐性菌分離が進んでいない細菌もあり、さらなる抗菌薬の適正使用が求められる(中医協総会 200110)

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2040年にかけて人口が70%減少する地域も、医療提供体制の再構築に向け診療報酬で何ができるのか―中医協総会
CT・MRIの共同利用、医療被曝防止に向けたガイドライン活用などを診療報酬でどう進めるか―中医協総会(2)
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オンライン診療、「有効性・安全性のエビデンス」に基づき算定要件などを議論―中医協総会(1)
医師の働き方改革、入院基本料や加算の引き上げなどで対応すべきか―中医協総会(2)
がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を6月から保険収載―中医協総会(1)
外来医療の機能分化に向け、「紹介状なし患者の定額負担」「かかりつけ医機能の評価」など議論―中医協総会(2)
画期的な白血病治療薬「キムリア」を保険収載、薬価は3349万円―中医協総会(1)
高齢者へのフレイル・認知症・ポリファーマシ―対策、診療報酬でどうサポートすべきか―中医協総会(3)
診療報酬で生活習慣病の重症化予防、治療と仕事の両立をどう進めていくか―中医協総会(2)
遺伝子パネル検査の保険収載に向けた検討進む、C-CATへのデータ提出等を検査料の算定要件に―中医協総会(1)
「院内助産」「外来での妊産婦対応」を診療報酬でどう支援していくべきか―中医協総会(2)
2020年度改定論議スタート、小児疾患の特性踏まえた診療報酬体系になっているか―中医協総会(1)
2020年度診療報酬改定に向け、「医師働き方改革」等のテーマ別や患者の年代別に課題を議論―中医協総会



中医協・基本小委、支払側が「看護必要度や地域包括ケア病棟などの厳格化」を強く要望
2020年度診療報酬改定に向け、「看護必要度」「地域包括ケア病棟」などの課題を整理―入院医療分科会
ICU、看護必要度とSOFAスコアを組み合わせた「新たな患者評価指標」を検討せよ―入院医療分科会(2)
A項目1点・B項目3点のみ患者、療養病棟で該当患者割合が高いが、急性期の評価指標に相応しいか―入院医療分科会(1)
病院病棟への「介護福祉士配置とその評価」を正面から検討すべき時期に来ている―入院医療分科会(3)
ICUの「重症患者」受け入れ状況、どのように測定・評価すべきか―入院医療分科会(2)
DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
診療データ提出を小規模病院にも義務化し、急性期病棟にも要介護情報等提出を求めてはどうか―入院医療分科会(3)
資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
点数が「DPC<地域包括ケア」時点にDPC病棟からの転棟が集中、健全なのか―入院医療分科会(1)
療養病棟に入院する医療区分3の患者、退院患者の8割弱が「死亡」退院―入院医療分科会(2)
入退院支援加算1の「病棟への入退院支援スタッフ配置」要件、緩和すべきか―入院医療分科会(1)
介護医療院の整備など進め、患者・家族の「退院後の介護不安」解消を図るべき―入院医療分科会(2)
急性期一般1では小規模病院ほど認知症入院患者が多いが、看護必要度への影響は―入院医療分科会(1)
看護必要度IとIIとで重症患者割合に大きな乖離、要因を詳しく分析せよ―中医協・基本小委
自院の急性期患者の転棟先として、地域包括ケア病棟を選択することは「問題」なのか―入院医療分科会(2)
7対1から急性期2・3への移行は3%強にとどまる、看護必要度IIの採用は2割弱―入院医療分科会(1)
2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
DPC対象病院の要件を見直すべきか、入院日数やDPC病床割合などに着目して検討―入院医療分科会(1)
2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
2020年度の次期診療報酬改定に向け、急性期一般入院料や看護必要度などを調査―入院医療分科会