看護必要度見直し、急性期1では現行「30%」維持でも計算上4分の1がドロップする厳格化―中医協総会
2020.1.15.(水)
一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)について、「『A1点以上・B3点以上』で、『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』のいずれかに該当する患者」(いわゆる基準2)の廃止や、「救急医療管理加算1・2」算定患者等の組み入れなどの項目見直しを行うと、急性期一般1(看護必要度I)では重症患者割合の下位4分の1の値が30.3%となる。つまり、仮に「重症患者割合の基準値」を現行通り(急性期一般1・看護必要度Iでは30%以上)とした場合には、下位4分の1の病院では急性期一般1の施設基準を満たせなくなる―。
1月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした試算結果が示されました。
目次
A1・B3点のみを除外し、救急医療管理加算算定患者を重症患者にカウント
2020年度の次期診療報酬改定に向けて、中医協総会では「看護必要度の項目見直し」論議を進めており、これまでに例えば次のような見直し項目が浮上しています。
【A項目】
▽「免疫抑制剤の管理」を除外する(注射剤を除く)
【C項目】
▽入院実施割合が90%以上の手術(2万点以上のものに限る)および検査を追加する
▽評価対象日数を延長する(下図表参照)
【重症患者(看護必要度を満たす患者)の定義】
▽「『A1点以上・B3点以上』で、『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』のいずれかに該当する患者」(いわゆる基準2)を廃止する
さらに、昨年末(2019年末)の中医協総会では診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)から「救急医療管理加算等の算定患者(加算1・2、夜間休⽇救急搬送医学管理料)を重症患者に含めることを検討すべき」との提案もなされました。
急性期1・看護必要度Iでは、30%維持でも下位4分の1がドロップする計算
厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、こうした項目・定義の見直しが「重症患者割合」にどのような影響を与えるのかを試算。今般、その結果が提示されました。
まず急性期一般1で、看護必要度I(看護必要度評価票による測定)を用いる病院については、重症患者割合は「3ポイント程度低下する」ことが分かりました。下位25%タイル値(下から25%に位置する病院の重症患者割合)は次のように動きます。
【現行】:33.5%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:30.3%(現行から3.2ポイント低下)
●A1・B3点以上かつ危険行動等のみ(以下、A1・AB3のみ)を重症患者から除外し、他の見直しは行わない場合:26.6%(現行から6.9ポイント低下)
●救急医療管理加算1・2、夜間休⽇救急搬送医学管理料の算定患者をA2点とカウント(救急患者の追加)し、他の見直しは行わない場合:34.5%(現行から1.0ポイント上昇)
この結果からは、仮に急性期一般1・看護必要度Iについて現行の重症患者割合の基準値(30%以上)を維持した場合には、「下位4分の1程度の病院では急性期一般1の施設基準を満たさなくなる」ことになります。現行基準維持でも「相当の厳格化」となることが分かります。
急性期1・看護必要度IIでは、看護必要度の項目見直しの影響は小さい
一方、急性期一般1で、看護必要度II(EF統合ファイルでの測定)を用いる病院については、重症患者割合は「ほぼ変化しない」ことが分かりました。看護必要度IIでは「既に一部の救急医療管理加算算定患者が重症患者として一部カウントされている」ことなどが、看護必要度Iとの異なる動きの背景にあると考えられます。「下位25%タイル値(下から25%に位置する病院の重症患者割合)は次のように動きます。
【現行】:29.9%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:29.7%(現行から0.2ポイント低下)
●「A1・AB3のみ」を重症患者から除外し、他の見直しは行わない場合:24.7%(現行から5.2ポイント低下)
●「救急患者の追加」を行い、他の見直しは行わない場合:32.4%(現行から2.5ポイント上昇)
この結果からは、仮に急性期一般1・看護必要度IIについて現行の重症患者割合の基準値(25%以上)を維持した場合には、「ほとんどの病院で急性期一般1の施設基準をクリアできる」ことになります。現行基準維持では「厳格化」とならないことが分かります。
急性期1の重症患者割合、支払側は35%以上を提案するが、診療側は猛反発
こうした結果も踏まえて、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「急性期一般1の重症患者割合は、看護必要度Iでは35%以上、看護必要度IIでは34%以上に引き上げるべき」との提案を行いました。
2018年度の前回診療報酬改定では、急性期一般1・看護必要度Iの重症患者割合が30%に、看護必要度IIでは25%に設定され、これは結果として「下位25パーセンタイル値」に近似するものとなっています。つまり計算上は「4分の1の病院は急性期一般1(7対1)を取得できなくなる」ことになるものです。しかし、病院がさまざまな努力を行った結果、旧7対1のほとんどは急性期一般1を維持しており、幸野委員は「下位25パーセンタイル値よりも相当厳しい基準値としなければ、急性期一般1(旧7対1)は削減できない。高齢化の進展で急性期一般1のニーズは減少していくことから、病院・病床の機能分化を進めなければならない」との考えに立ち、極めて厳格な上記の数字を提案したものです。同じく支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)も「厳格化により、急性期一般1から急性期一般2・3への移行が進む」ことを求めています。
しかし、幸野委員の提案を試算結果に当てはめると、「看護必要度I・IIともに70%程度の病院が、急性期一般1の施設基準を満たさなくなる」ことになり、診療側委員はこぞって「無謀である」「非現実的である」「常軌を逸している」と強く批判しました。
松本委員や猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「2018年度の前回改定から半年余りで1万床以上、急性期一般1のベッド数は減少しており、稼働病床を見ればさらに減少している」と述べ、機能分化が進んでいる状況を説明。さらに「現場とかけ離れた基準値を設定して、診療報酬で機能分化を進めていくことは好ましくない。診療報酬は地域医療構想に寄り添うべき」「毎回の改定で大きな見直しが行われることは医療機関経営の安定を強く阻害する」と強調。
また島弘志委員(日本病院会副会長)も「基準値の大幅引き上げは、病院の努力を評価しないことになる。いきなり35%への引き上げなどを行えば、我が国の急性期入院医療は崩壊してしまう」と幸野委員の提案を強く批判しました。
急性期1・看護必要度Iでは200床以上・未満で重症患者割合に大きな差は出ず
また、急性期一般1について、200床未満病院と200床以上病院とで分けて、重症患者割合の変化を見ると、次のようになります(下位25パーセンタイル値)。
●看護必要度I・200床未満
【現行】:34.4%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:30.2%(現行から4.2ポイント低下)
●看護必要度I・200床以上
【現行】:33.3%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:30.4%(現行から2.9ポイント低下)
●看護必要度II・200床未満
【現行】:28.3%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:28.9%(現行から0.6ポイント上昇)
●看護必要度II・200床以上
【現行】:30.1%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:29.8%(現行から0.3ポイント低下)
支払側の幸野委員は、この結果から「看護必要度Iでは、200床以上と200床未満で重症患者割合に大きな差はなく、取り扱いを変える必要はない」「看護必要度IIでは1%の差を設ける経過措置(200床以上では34%以上、200床未満では33%以上など)を設けても良い」との提案も行っていますが、診療側委員は「200床未満病院に対する経過措置は、看護必要度I・IIの双方で必要である」とやはり反対しています。
急性期4、A1・B3廃止で重症患者割合は著しく低下
さらに、「旧10対1+加算」に相当する急性期一般4については、看護必要度の項目見直しで次のような影響が出ることが分かりました(下位25パーセンタイル値)。
●看護必要度I
【現行】:31.2%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:22.9%(現行から8.3ポイント低下)
●看護必要度II
【現行】:25.3%
↓
【浮上している全見直しを実施した場合】:23.1%(現行から2.2ポイント低下)
とくに看護必要度I採用病院で重症患者割合の低下が著しく、「10対1の急性期一般4では、高齢の認知症患者等をより多く受け入れており、『A1・B3のみの除外』による影響を大きく受ける」ことが分かります。
この結果を見て幸野委員は、急性期一般4の重症患者割合は、看護必要度Iでは25%以上(現行の27%から2ポイント緩和)、看護必要度IIでは24%以上(現行の22%から2ポイント厳格化)とすべきと提案しました。
幸野委員の提案によれば、急性期一般1(35%・34%)と急性期4(25%・24%)との間に10ポイントの差ができることとなり「急性期一般2・3の階段をしっかりと位置付けることができる」との考えも示しています。現在は、急性期一般1から急性期一般4までの階段は「1ポイント刻み」となっており、「一定程度の努力で、急性期一般2とならず、急性期一般1を維持できている」と批判する識者もおられます。この階段を明確にする(重症患者割合の基準値に明確な差を設ける)ことで、急性期一般1から急性期一般2・3への移行が進むと幸野委員は考えています。
しかし診療側の松本委員は、「重症患者割合の25%・24%は、急性期一般4の50パーセンタイル値に近く、半数程度の急性期一般4病院は、より低い入院基本料取得を強いられることになる」とし、幸野委員の提案に強く反対しています。
重症患者割合の議論は今後も続き、2020年度の次期診療報酬改定における「最大の争点」になると考えられます。
【更新履歴】図表(中医協総会(1)3 200115)を差し替えております。
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中医協・基本小委、支払側が「看護必要度や地域包括ケア病棟などの厳格化」を強く要望
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DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
診療データ提出を小規模病院にも義務化し、急性期病棟にも要介護情報等提出を求めてはどうか―入院医療分科会(3)
資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
点数が「DPC<地域包括ケア」時点にDPC病棟からの転棟が集中、健全なのか―入院医療分科会(1)
療養病棟に入院する医療区分3の患者、退院患者の8割弱が「死亡」退院―入院医療分科会(2)
入退院支援加算1の「病棟への入退院支援スタッフ配置」要件、緩和すべきか―入院医療分科会(1)
介護医療院の整備など進め、患者・家族の「退院後の介護不安」解消を図るべき―入院医療分科会(2)
急性期一般1では小規模病院ほど認知症入院患者が多いが、看護必要度への影響は―入院医療分科会(1)
看護必要度IとIIとで重症患者割合に大きな乖離、要因を詳しく分析せよ―中医協・基本小委
自院の急性期患者の転棟先として、地域包括ケア病棟を選択することは「問題」なのか―入院医療分科会(2)
7対1から急性期2・3への移行は3%強にとどまる、看護必要度IIの採用は2割弱―入院医療分科会(1)
2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
DPC対象病院の要件を見直すべきか、入院日数やDPC病床割合などに着目して検討―入院医療分科会(1)
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