生活習慣病の治療・管理を途中で中断してしまう患者が相当程度いる、患者は定期受診のために「予約診療」を重視―入院・外来医療分科会(2)
2025.6.20.(金)
2024年度の診療報酬改定では、生活習慣病の治療・管理について「主に生活習慣病管理料(I)(II)で評価し、ガイドライン等に沿って、より適切に行う」考えを明確化し、【生活習慣病管理料】の大幅見直しを実施した—。
この見直しの効果・成果が上がっていることを確認できるが、生活習慣病の治療・管理を途中で中断してしまう患者が相当程度いるなどの課題も再確認されている。患者は定期受診・継続受診のために「予約診療」を重視しており、こうした点をどう考えていくべきか—。
6月19日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論も行われています。同日には、地域包括診療料・加算や機能強化加算、オンライン診療に関する議論も行われており別稿で報じます(同日のデータ提出を評価する加算に関する記事はこちら)。

6月19日に開催された「令和7年度 第4回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」
生活習慣病の治療・管理、特定疾患療養管理料から生活習慣病管理料への移行進む
2026年度の次期診療報酬に向けて、入院・外来医療分科会で入院医療・外来医療に関する「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」が進んでいます。
(これまでの議論に関する記事)
・急性期入院医療
・DPC
・高度急性期入院医療
・地域包括医療病棟
・回復期リハビリ病棟
・療養病棟
・いわゆる包括期入院医療全体
・その他、入院・外来全般
・データ提出を評価する加算
6月19日の会合では、▼データ提出を評価する加算▼外来医療外来医療(かかりつけ医機能を評価する地域包括診療料・加算や機能強化加算、生活習慣病管理料など)▼オンライン診療—を議題としており、本稿ではこのうち「生活習慣病管理料」に焦点を合わせます(外来医療、オンライン診療は別稿で報じます)。
「かかりつけ医機能」に関しては様々な考え方がありましたが、厚生労働省の「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」で▼ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対し、「かかりつけ医にかかる研修を修了した医師や総合診療専門医を配置しているか、いないか」「17診療領域のどれに対応しているか」「高血圧症など日常的な40程度の疾患へ対応できるか、患者の相談に応じられるか」などを、毎年度、都道府県に報告することを求める【かかりつけ医機能報告制度】▼都道府県は報告内容を整理して公表し、国民・住民の医療機関選択をサポートするとともに、報告内容をベースに「この地域では、どのようなかかりつけ医機能が不足しているのか、充実するためにどうすればよいのか」などを地域の医療関係者で協議して、機能充実を図っていく—方針を固めました。医療機関は来年(2026年)1月から上記の報告を行っていきます。

かかりつけ医機能報告制度の概要(入院・外来医療分科会(2)1 250619)
高齢化の進展とともに、患者の背景も考慮しながら総合的な1次診療等を行う「かかりつけ医機能」の重要性が増していくことに疑いはなく、診療報酬での「かかりつけ医機能の評価」にも注目が集まっています。かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目にも様々なものがあり、例えば「体制を評価」する項目として【時間外対応加算】や【機能強化加算】、「診療行為を評価」する項目として【地域包括診療料】や【地域包括診療加算】、【生活習慣病管理料】、【小児かかりつけ診療料】などがあります。

かかりつけ医機能を評価する診療報酬項目例(入院・外来医療分科会(2)2 250619)
このうち【生活習慣病管理料】は、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった「生活習慣病」に対する専門的な治療・管理を評価する診療報酬項目です。ただし「特定疾患療養管理料や外来管理加算などの、他の診療項目との役割分担が曖昧である」との指摘があり、2024年度の前回診療報酬改定で次のような大きな見直しが行われました。
▽従前の【生活習慣病管理料】を【生活習慣病管理料(I)】とし、▼点数の40点アップ▼他職種連携の努力義務化▼患者・家族等から求めがあった場合の「療養計画書」交付義務化(電子カルテ情報共有サービスを利用する場合には「患者サマリ」での代替可)▼学会等ガイドライン等の情報参照義務化▼【外来管理加算】(再診料の加算)の併算定不可▼「1か月に1回以上の総合的な治療管理実施」要件の廃止▼長期投薬またはリフィル処方箋対応—などの見直しを行う
▽新たに、検査を包括しない【生活習慣量管理料(II)】を新設し、▼治療計画を策定し、その計画に基づいて生活習慣に関する総合的な治療管理を行う▼「外来管理加算」「医学管理等」(糖尿病合併症管理料、がん性疼痛緩和指導管理料、外来緩和ケア管理料、糖尿病透析予防指導管理料、慢性腎臓病透析予防指導管理料を除く)の費用を包括する▼管理料(II)を算定すべき医学管理をオンラインで行った場合には「290点」(対面診療の87%)を算定する—などのルールを設ける
あわせて、【特定疾患療養管理料】について、「高血圧性疾患」、「糖尿病」、「遺伝性疾患でない脂質異常症」を対象疾患から除外しています。

生活習慣病管理料(I)(II)の概要(入院・外来医療分科会(2)3 250619)
6月19日の入院・外来医療分科会では、こうした改定によって次のような状況が生じていることが報告されました。「生活習慣病の治療・管理は、主に【生活習慣病管理料】で評価し、診療ガイドライン等に沿って適切に行う」という狙いが達成できていると言えそうです。
▽特定疾患療養管理料の算定回数が大幅に減少し、算定医療機関数がやや減少した一方で、生活習慣病管理料等の算定回数・算定医療機関数は増加した(特定疾患療養管理料から生活習慣病管理料へのシフト)

生活習慣病管理料等の届け出、算定状況(入院・外来医療分科会(1)4 250619)
▽主傷病名が糖尿病、高血圧症、脂質異常症である外来患者に算定されている点数を見ると、2022年は【外来管理加算】が最も多かったが、2024年は【生活習慣病管理料(II)】が最も多くなった(外来管理加算と生活習慣病管理料の役割分担)

生活習慣病患者の算定点数項目の変化(入院・外来医療分科会(2)4 250619)
▽生活習慣病で定期的に通院し、療養計画書の交付を受けた患者は、療養計画書の交付について「継続的に通院し治療を受ける必要性についての理解が深まった」「食事、運動、休養などの総合的な治療管理についての理解が深まった」との意識変化が生じている(患者の治療参加意識の向上)

生活習慣病管理患者の意識変化(入院・外来医療分科会(2)5 250619)
▽医療機関側からは、書面を用いて「治療内容」「患者の病状」「食事・運動等の生活指導」を説明し、患者サイドは「治療内容」「病状」「起こりうる合併症」の説明を受けている状況が伺える(医師-患者間のコミュニケーションの充実)

書面を用いた説明の状況(入院・外来医療分科会(2)6 250619)
生活習慣病の治療・管理を途中で中断してしまう患者が相当程度いる点をどう考えるか
ただし、生活習慣病管理料について次のような課題のあることも浮き彫りとなっています。
▽生活習慣病管理料を算定していない理由について、「算定対象となる患者がいない、もしくは少ない」が73.2%と圧倒的に多いが、「療養計画書に記載する項目が多く、業務負担が大きい」との声も14.4%ある

生活習慣病管理料を算定しない理由(入院・外来医療分科会(2)7 250619)
▽患者サイドも「継続的に通院し治療を受ける必要性を理解する」ことの重要性を強く認識しているが、時間の経過とともに生活習慣病管理料の継続算定率が低下してしまい、「治療開始から2年後にはゼロ%になってしまう」医療機関もある(生活習慣病の継続治療を中断してしまうケースが相当程度ある)

生活習慣病に関する同一医療機関での治療継続状況(入院・外来医療分科会(2)9 250619)

生活習慣病の治療継続で大事と思うこと(入院・外来医療分科会(2)8 250619)
なお、患者サイドは定期受診・継続治療の継続のために、「予約診療を行っている」、「28日以上の長期処方に対応している」、「複数の職種の医療スタッフとの連携によって治療管理が行われている」、「休日に診療ができる体制が整備されている」ことなどを要望。また医療機関サイドは定期受診・継続治療の継続のためには、「患者の自宅から医療機関が近い」、「家族との連携による治療管理」、「予約診療を行っている」、「28日以上の長期の処方に対応している」ことを重視しています。患者サイドと医療機関サイドで、若干「考え方、意識の違い」があるかもしれません。

生活習慣病の治療継続で大事なこと(患者サイド)(入院・外来医療分科会(2)10 250619)

生活習慣病の治療継続で大事なこと(医療機関サイド)(入院・外来医療分科会(2)11 250619)
「相当数の患者が、生活習慣病の継続治療を中断してしまう」こと、さらに「継続算定率が医療機関によって大きく異なる」ことを入院・外来医療分科会委員は問題視し、▼生活習慣病については、いかに継続治療から脱落しないかが重要である。今回のデータでは「半年ごとに継続算定率が低下し、2年半後には、最も継続算定率が高い医療機関でも6割程度にまで落ちている」ことが明らかになり、好ましくない状況だ。患者・医療機関双方の継続治療に向けた考えでは「予約診療」と「長期処方」が共通項目となっており、これらを生活習慣病管理料の施設基準に盛り込むことを検討すべき(中野惠委員:健康保険組合連合会与)▼患者サイドと医療機関サイドで考え方・意識に若干のずれがあるようだ。患者サイドは継続治療のために「予約診療」を重視しており、医療機関を受診しやすい環境整備に力を入れていく必要がある(牧野憲一委員:旭川赤十字病院特別顧問・名誉院長、日本病院会副会長)▼患者は継続治療のために「予約診療」を重視しており、急患対応にも配慮しながら、これを後押しする仕組みが必要である(田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授)—などの意見が多数だされました。
もっとも、今村英仁委員(日本医師会常任理事)は「継続算定率が課題の1つである」ことを確認したうえで、「高齢者の多くは多疾患を抱えており(マルチモビリティ)、医療機関サイドは『自院を継続受診してほしい』と考えるが、併存疾患の悪化・重度化などをきっかけに『かかりつけを別の医療機関に変える』ことも少なくない。我が国では『面(複数医療機関が連携して)でかかりつけ医機能を発揮する』ことが特徴であり、『1人の医師、1つの医療機関が同じ患者を継続して診療する』ことがどうしても必要かどうかは慎重に考える必要がある」とコメントしています。
今村委員のコメントは非常に重要です。生活習慣病の治療・管理では「定期的に継続して医療機関を受診し、生活習慣を改めると同時に、医薬品等で症状をコントロールし、悪化させない」ことが重要となります(目的と言ってもよい)。同じ医療機関が継続管理することは、これを実現するために非常に重要ですが、例えばオンライン資格確認等システムを利活用した「レセプト情報」の共有)や、今後、本格化する電子カルテ情報共有サービスを活用した「診療情報」の共有、さらに従前より行われている診療情報提供書の活用などによって、「医療機関が変わっても、従前の診療情報などを活用して、適切な治療・管理を継続する」ことも可能です。このため、「重視すべきは『目的』となっている継続治療が行われているかであり、『同一医療機関での治療継続か否か』という点はそこまで重視せずともよいのではないか」と指摘する識者もいます(同一医療機関受診は「継続治療」という目的を達成するための重要手段ではあるが、必ずしも「目的」ではない点に留意)。
こうした点も踏まえた分析を行い、「患者が適切な治療を継続する」ことを担保する方策などを検討していく必要がありそうです。
関連して、▼リフィル処方箋を重視する声も依然あるが、「長期処方の推進」のほうが好ましいのではないか。そろそろリフィル処方箋への過剰な期待を改める時期に来ていると言える(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)▼生活習慣病からフレイル状態に移行する患者も少なくないであろう。フレイルに陥る患者発生を防止するために、初期からハイリスク患者を抽出し、対応を取る(例えばオーラルフレイル防止のための歯科医療機関受診の勧奨など)こと進めるべき(飯島勝矢委員:東京大学未来ビジョン研究センター/高齢社会総合研究機構教授)▼生活習慣病が特定疾患療養管理料から除外されたことを踏まえれば、特定疾患療養管理料の算定回数はもっと減少してもよいはずだ。処方薬や副傷病などを見て、より詳しく分析する必要がある(中野委員)—などの意見も出ています。
なお、中野委員は「かかりつけ医機能を評価する各診療項目について、新たな地域医療構想やかかりつけ医機能報告制度の方向に沿った整理を行う必要がある」と強く要請しています。
【関連記事】
外来データ提出加算等の届け出は低調、データ作成・提出の負担軽減に向け「提出データの項目整理」など検討―入院・外来医療分科会(1)
骨太方針2025の「経済・物価動向に相当する増加分加算」方針を歓迎、2026年度診療報酬改定に反映されるよう活動を続ける—四病協
2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ—中医協(1)
包括期入院医療のあるべき姿はどのようなものか、実質的な医療・介護連携を診療報酬でどう進めるかを更に議論―入院・外来医療分科会(4)
療養病棟における「中心静脈栄養からの早期離脱、経腸栄養への移行」が2026年度診療報酬改定でも重要論点―入院・外来医療分科会(3)
回復期リハビリ病棟の「リハ効果」に着目し、「ADLが低下してしまう患者」割合が一定以下などの新基準設けるか―入院・外来医療分科会(2)
骨太方針2025を閣議決定、医療・介護の関係予算について「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額行う
地域包括医療病棟、急性期病棟とのケアミクスや地域包括ケア病棟等との役割分担、施設基準の在り方などどう考えるか―入院・外来医療分科会(1)
病院従事者の2025年度賃上げ率は平均「2.41%」どまりで一般産業の半分程度、早急に「十分な賃上げ」を可能とする環境整備を—四病協
物価・人件費の急騰に対応できる診療報酬の「仕組み」を創設せよ、2025年度における病院スタッフの賃上げ実態を調査—四病協
2026年度の診療報酬改定、「過去のコスト上昇補填不足分」など含め、病院について10%以上の引き上げが必要—医法協・加納会長と太田副会長
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続、診療所の良好経営踏まえた診療報酬改定を—財政審建議
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審
【リハビリ・栄養・口腔連携体制加算】や【救急患者連携搬送料】など、取得・算定率改善に向けた要件見直し論議を―入院・外来医療分科会(4)
ICUを持つが「救急搬送受け入れも、全身麻酔手術実施も極めて少ない」病院が一部にあることなどをどう考えるか―入院・外来医療分科会(3)
「小規模なケアミクス病院のDPC参加」「特定病院群では急性期充実体制加算などの取得病院が多い」点をどう考える―入院・外来医療分科会(2)
新たな地域医療構想で検討されている「急性期拠点病院」、診療報酬との紐づけなどをどう考えていくべきか―入院・外来医療分科会(1)
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、入院基本料の引き上げ・消費税補填点数の引き上げ・ベースアップ評価料の見直しなど必要—日病
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、窮状を打破するため「診療報酬も含めた経営支援策」を急ぎ実施せよ—九都県市首脳会議
少子化の進展で医療人材確保は困難、「人員配置によらないプロセス・アウトカム評価の導入」を今から研究・検討せよ—日病協
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、入院基本料の大幅引き上げ・人員配置によらないアウトカム評価の導入などが必要—日病協
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審
ICTで在宅患者情報連携進める在宅医療情報連携加算の取得は低調、訪看療養費1の障壁は同一建物患者割合70%未満要件—中医協(2)
2026年度診療報酬改定、診療側は「診療報酬の大幅引き上げによる病院等経営維持」を強く求めるが、支払側は慎重姿勢—中医協総会(1)
2026年度の次期診療報酬改定に向け「外科医療の状況」「退院支援の状況」「医療・介護連携の状況」などを詳しく調査—入院・外来医療分科会
リフィル処方箋の利活用は極めて低調、バイオシミラーの患者認知度も低い、医師・薬剤師からの丁寧な説明が重要—中医協(2)
2026年度診療報酬改定、物価急騰等により医療機関経営が窮迫するなど従前の改定時とは状況が大きく異なる—中医協総会(1)
2026年度の次期診療報酬改定に向け「新たな地域医療構想、医師偏在対策、医療DX推進」なども踏まえた調査実施—入院・外来医療分科会
医療機関経営の窮状踏まえ、補助金対応・2026年度改定「前」の期中改定・2026年度改定での対応を検討せよ—6病院団体・日医
2024年度診療報酬改定後に医業赤字病院は69%、経常赤字病院は61.2%に増加、「物価・賃金の上昇」に対応できる病院診療報酬を—6病院団体