在宅復帰率の高い老健施設、入所者から信頼され「看取り」の場にも―介護給付費分科会・研究委員会(1)
2017.3.14.(火)
介護老人保健施設において、トレードオフの関係にあると思われていた「在宅復帰率」と「看取り」の間には、実は正の相関関係がある―。
このような驚きの結果が、13日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護報酬改定検証・研究委員会」に厚生労働省から提示されました。厚生労働省老健局老人保健課の担当者は、「在宅復帰に力を入れている老健施設では、入所者が在宅復帰などした後もフォローするなど、入所者・家族との間に信頼関係が生まれている。このため『どこで看取ってほしいか』と入所者・家族が考えたとき、当該老健施設を選択しているのではないか」と分析しています。
目次
2018年度介護報酬改定に向けて、2015年度改定の効果・影響を調査
厚労省が研究員会に提示したのは、2015年度介護報酬改定の「効果検証・調査研究」調査結果(2016年度調査分)です。昨年(2016年)9月に開かれた前回会合および10月開催の介護給付費分科会で、2016年度に行う次の7つの調査項目の詳細を固め、10月下旬から調査が実施されていました。
(1)通所・訪問リハビリテーションなどの中重度者などへのリハビリテーション内容など
(2)病院・診療所が行う中重度者に対する医療・介護サービス
(3)介護老人保健施設における施設の目的を踏まえたサービスの適正な提供体制など
(4)介護老人福祉施設における医療的ケアの現状
(5)居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務など
(6)認知症高齢者への介護保険サービス提供におけるケアマネジメントなど
(7)介護保険制度におけるサービスの質の評価
いずれも前回改定の効果・影響が介護現場にどう表れているのかを把握し、2018年度の次期介護報酬改定に活かす狙いがあります。
在宅復帰率50%以上の老健施設では、稼働率95%以上が2割に満たず
このうち(3)の老健施設については、2012年度改定で▼強化型(在宅機能強化型)▼加算型(在宅復帰・在宅療養支援機能加算)▼従来型―の3類型に区分されています。強化型と加算型は、老健施設を設立した当初の目的である「在宅復帰」に力を入れることが求められます。このため、老健施設は「在宅復帰を目指す施設」と「看取りなどに対応する長期入所施設」に二分されたと考えられていました(関連記事はこちらとこちら)。
しかし、今般の調査結果からは「在宅復帰率の高い施設ほど、積極的に施設内看取りを行っている」という驚くべき結果が示されました。前述の考えに照らせば「在宅復帰と看取りはトレードオフの関係」にありそうですが、実は両者には正の相関が見られ、研究委員会委員にも驚きをもって迎えられました。この結果について厚労省老健局老人保健課の担当者は、「在宅復帰に力を入れている老健施設では、入所者が在宅復帰などした後もフォローするなど、入所者・家族との間に信頼関係が生まれている。このため『どこで看取ってほしいか』と入所者・家族が考えたとき、当該老健施設を選択しているのではないか」と分析しています。
ただし、在宅復帰に力を入れれば、他の施設サービスと同様に稼働率が落ちます。今般の調査でも「在宅復帰率の高い施設では、稼働率が低い」傾向が明確となっており、在宅復帰率50%以上では、稼働率95%以上の施設は16.8%、稼働率90%以上の施設は27.0%にとどまっています。
また機能別の稼働率95%以上の施設割合を見ると、▼強化型:15.1%▼加算型:24.7%▼従来型:40.1%▼介護療養型:54.3%―となっており、やはり在宅復帰に力を入れると、稼働率が落ちる状況が見て取れます。
この背景について、オーバーベッド(ベッドが過剰)の懸念もありますが、厚労省の担当者は「在宅復帰に力を入れて間もない施設もある。以前から在宅復帰に力を入れ、信頼を勝ち得ている施設では、すぐに次の入所が決まっているようだ」とコメントしました。老健施設など比較的長期入所が前提となっている施設では、稼働率がわずかに低下しても「施設の存続」に影響がでかねません。地域の急性期病院や在宅医療・介護サービスとの連携を深める(新規入所者の確保)とともに、現在の入所者との信頼関係構築(再入所者の確保)に、これまで以上に力を入れる必要があります。
特養ホーム、半数は訪問看護STとの連携に期待、半数は連携の必要なしと考える
次に(5)の介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)については、介護給付費分科会や、診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会などでは、医師や看護師を代表する委員から「特養ホームでは医療的ケアが不十分である。外部から訪問診療や訪問看護を行える仕組みとすべき」との要望が頻繁に出されます(関連記事はこちら)。
今般の調査では、この要望にどう応えるべきかも含めて「医療的ケアの現状」を詳しく調べています。
まず約半数の施設では「訪問看護ステーションと連携することで、緩和ケアやがん末期患者への対応などを充実できる」と考えていますが、半数弱の施設では「訪問看護ステーションと連携しても、特に充実できる部分はない」と考えていることが分かりました。後者の考え持つ施設の約7割では「自施設での対応が可能」と考えているようです。
では、実際に特養ホームではどのような医療的ケアが実施されているのでしょう。常勤の配置医師がいる施設はわずか1.1%ですが、95.3%の施設では非常勤ながら医師が配置されています。非常勤医師による入所者への対応状況を見ると、「原則として勤務日以外は対応してもらえない」という施設も6.0%ありますが、40.3%の施設では「勤務日以外でも対応してもらえる」、41.3%の施設では「勤務日以外は電話で指示してもらえる」状況にあります。
また施設内でどのような医療的ケアが行われているのかを見ると、定員規模による差こそありますが、▼褥瘡の処置▼胃瘻・腸瘻▼カテーテルの管理▼喀痰吸引▼血糖測定▼インスリン注射▼点滴―などが可能とする施設が多く、▼気管切開のケア▼レスピレータの管理▼中心静脈栄養▼透析の管理▼麻薬を用いた疼痛の管理―を可能とする施設は少なくなっています。
これらの結果からは、多くの施設では一定程度の医療的ケアが実施されていることが分かります。現状を維持すべきなのか、さらなる「外部からの医療・看護提供」が必要なのか、分科会や中医協の議論に注目が集まります。
一方、「夜間・休日を通じて喀痰吸引ができる体制にある」施設は41.1%と半数に満たない状況です。この背景には、介護職員が喀痰吸引研修を受けている(認定特定行為業務従事者認定証の交付を受けている)かどうかに大きく関係すると思われます。すべての介護職員が認定証を交付されている施設は11.2%にとどまり、8割強の施設では「必ずしも全介護職員が認定証を交付されているわけでない」状況です。施設側には「研修を受講させる時間的余裕がない」「代替職員の体制が作れない」という事情もありますが、24時間対応をより充実させるためにも、積極的な研修受講支援が望まれます。
なお、看取りに対する考え方で特養ホームを2つに分けると、積極派施設(希望があれば施設内で看取る)が78%と大半を占め、消極派施設(原則、病院などに移す)は16.3%にとどまっています。積極派施設では「介護職員の知識・技術力向上」を最も重視しており、消極派施設では「配置医との関係強化」に最も力を入れているという違いがあるようです。
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