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費用対効果評価、オプジーボは価格引き下げ、川澄化学のステントグラフトは引き上げ―中医協・費用対効果評価合同部会

2018.3.7.(水)

 医薬品7品目、医療機器6品目について費用対効果評価を試行的導入。評価の結果、2018年度に、▼肺がん等治療薬の「オプジーボ」▼乳がん治療薬の「カドサイラ」—の2品目については価格引き下げを、▼遠位弓部大動脈瘤治療に用いる「カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステム」—については価格引き上げを行った―。

 3月7日に開催された、中央社会保険医療協議会の「費用対効果評価専門部会」「薬価専門部会」「保険医療材料専門部会」の合同部会でこういった報告が行われました(関連記事はこちら)。

 もっともオプジ―ボなどでは、企業側の分析結果と専門機関による再分析結果に乖離があるため、今後、結果の検証などを行い、必要があれば「再度の価格調整」が行われます。

3月7日に開催された、「第7回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会」

3月7日に開催された、「第7回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会」

医薬品2品目で価格を引き下げ、医療機器1品目で価格を引き上げ

医療保険財政が厳しくなる中で、医薬品・医療機器など「医療技術」の費用対効果に着目した価格設定の必要性が指摘されています。世界でも例をみない仕組みで、具体的に「どのように費用や効果を判定し、その評価の結果をどのように医薬品等の価格に反映させるか」と言う議論が中医協で進められています。

議論の材料の1つにするため、2018年度には13品目の医薬品・医療機器(医薬品7品目、医療機器6品目)を対象に「試行的導入」が行われており、今般、その結果が中医協の合同部会に報告されました。

費用対効果評価の流れを簡単にお浚いすると、次のように整理できます。

(1)医薬品・医療機器メーカーが「費用」と「効果」に関するデータを揃えるとともに、費用対効果を示す指標となるICER(増分費用効果比)などを算出する
 ↓
(2)メーカーのデータをもとに、中立な専門家グループで再分析を行う
 ↓
(3)メーカーの分析結果と再分析結果について、「分析ガイドラインに沿って、標準的な分析を行っているか」などの科学的検証を行い、さらにICERに現れない「重篤な疾患でQOLは大きく向上しないが、生存期間が延びる」などの倫理的・社会的影響等に関する検証を行う(検証によりICERが割り引かれることもある)【総合的評価、アプレイザル】
 ↓
(4)(3)の結果に基づいて価格引き下げ(調整)を行う(類似薬効比較方式では加算部分のみを価格調整の対象とし、原価計算方式で価格が設定された品目は「営業利益本体+製造総原価」を下限として薬価・材料価格全体を価格調整の対象とする、関連記事はこちら

 また、試行導入においては、費用対効果の「良し悪し」を判断する基準値を、過去の研究結果や英国の状況を踏まえて、次のように設定しています。

(A)費用対効果を示す指標となるICERが500万円以下であれば「費用対効果が良い」と判断し、価格引き下げは行わない

(B)費用対効果を示す指標となるICERが500万円超であれば「費用対効果が悪い」と判断し、ICERの値に基づいて価格引き下げを行う。ただし1000万円が限度となり、ICERが1000万円超であれば価格引き下げ率は「90%引き下げ」で一定とする

ICER500万円を目安として価格調整(引き下げ)を行うかいなかを判断する

ICER500万円を目安として価格調整(引き下げ)を行うかいなかを判断する

ICERは、「費用の増加分」を「効果の増加分」で除して計算する。費用には主に公的医療費が含まれ、効果のある医療技術で生存年が伸びれば、その分、医療費が増加し、費用が増加することになる点も考慮される

ICERは、「費用の増加分」を「効果の増加分」で除して計算する。費用には主に公的医療費が含まれ、効果のある医療技術で生存年が伸びれば、その分、医療費が増加し、費用が増加することになる点も考慮される

 
さらに、▼効果が増大する・または同等である▼費用が削減される―品目については、一定の要件を満たした場合、10%を上限として価格引き上げを行う仕組み(C)も導入されました。

 
この仕組みに沿って、13品目の費用対効果評価を行った結果、次の3品目について価格調整を行うことが決まりました。すでに公表されている薬価は価格調整済ですが、「費用対効果評価部分がどの程度か」は明らかにされていません。

▽悪性黒色腫、非小細胞肺がん等の治療に用いる「オプジーボ」(小野薬品工業)について、価格「引き下げ」を行った

▽HER2陽性乳がんの治療に用いる「カドサイラ」(中外製薬)について、価格「引き下げ」を行った

▽遠位弓部大動脈瘤の治療に用いる「カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステム」(川澄化学工業)について、価格「引き上げ」を行った

医薬品7品目にかかる、費用対効果評価の試行結果

医薬品7品目にかかる、費用対効果評価の試行結果

医療機器6品目にかかる、費用対効果評価の試行結果

医療機器6品目にかかる、費用対効果評価の試行結果

  
このほかの品目については2018年度に価格調整は行われませんでした。例えば、C型肝炎治療薬の「ソバルディ」(ギリアド・サイエンシズ)については、費用対効果評価の指標であるICERが「500万円以下である」ことが分かり、上記(A)ルールに沿って「費用対効果が良く、価格引き下げを行う必要はない」と判断されたものです。

「費用が小さく、効果が大きい」だけでは価格引き上げの対象にならず

ところで価格引き下げの対象となったカドサイラについては、ICERが「1000万円以上」であり「費用対効果が悪い」と判断されましたが、オプジーボについては、その根拠が明確にされていません。

この点、厚労省保険局医療課の古元重和企画官は、(1)の「メーカーによる分析結果」と(2)の「再分析結果」に乖離があったことを説明しています。後述するように費用対効果を分析するためのガイドラインについて解釈の幅があったことなどが原因で、中医協では「メーカーの分析結果と再分析結果が異なった場合、いずれか『価格変動の小さいほう』の結果を用いて暫定的な価格調整を行う」とのルールが定められています。

ここからオプジーボについては、メーカー分析結果・再分析結果の双方で、ICERが500万円超と計算され、上記(B)ルールに則って、価格引き下げが行われたと推測されます。いずれか一方が『ICER500万円以下』であれば、価格変動の小さい、こちらが採用され、(A)ルールに則って価格調整は行われないこととなったからです。ハーボニー(ギリアド・サイエンシズ)などでも、メーカー分析結果・再分析結果が異なっており、いずれか(あるいは双方)で「ICERが500万円以下」と計算されたことが分かります。

 
また、カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステムについては、上記(C)ルールに基づいて価格引き上げが行われたものです。価格引き下げの対象となるには、単に「費用が少なく、効果が大きい」のみでなく、「比較対象品目(技術)に比べて、▼効果が高い(または同等)ことが臨床試験などで示されている▼全く異なる、あるいは一般的改良の範囲を超える(基本構造や作用原理が異なるなど)—という要件を満たす」ことが求められます。

パーキンソン病治療などに用いる「アクティバRC」(日本メドトロニック)などは、(1)と(2)で「効果が同等で、費用が削減される」ことが分かりましたが、「作用限度が全く異なる」などの要件を満たさなかったため、価格引き上げは行われませんでした。

メーカーの分析結果と専門家の再分析結果、両者を検証した上で最終結果を示す

ところで、上記のオプジーボやハーボニー、アクティバRCのように、「(1)のメーカー分析結果と、(2)の再分析結果が異なる」事態を放置しておくことはできません。1つのルールに沿って分析をした場合、結果は一義的に決まり、それに基づいて価格調整の是非を判断しなければならないからです。

分析結果が異なる原因としては、▼臨床実態の解釈がメーカーと専門家で異なった▼分析の枠組みについてメーカーと専門家とで認識が一部異なった▼費用対効果評価の分析ガイドラインの解釈に違いがあった―ことが分かっています。

古元企画官は、この原因を解消するために▼費用対効果評価を行う組織「費用対効果評価専門組織」の下に、分野ごとの臨床専門家等を交えたワーキンググループを設定する▼専門組織において、分析の枠組を事前に協議し、決定する▼分析ガイドラインの運用方法などを明確にする―という対応をとることを表明。この4月から11月にかけて、これらの対応をした上で検証(メーカー分析結果が、ガイドラインなどに沿っているかなど)を行い、最終判断を行うことになります。

なお、メーカーと専門家(再分析を担当)との間で見解の相違が亡くなれば分析結果にも齟齬がでないこととなり、検証に当たって、メーカー側には「再度の分析」は求められません(自主的に分析することは可能)。ただし、逐次、情報を共有し、齟齬が出る可能性をつぶしていくことになります。

この対応方法について、診療側・支払側双方の委員が「分野ごとの臨床専門家等は、都度、費用対効果評価専門組織に招聘すればよく、ワーキンググループの設置は非効率ではないか」との指摘を行いました。これに対し古元企画官は、「専門組織とワーキンググループの役割分担などを明確にし、屋上屋を重ねることのないよう、効率的な運営を行っていく」考えを強調しています。

メーカー分析結果と再分析結果との間に乖離があるのは、医薬品では▼ハーボニー▼ヴィキラックス▼ダクルインザ▼スンベプラ▼オプジーボ―、医療機器では▼カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステム▼サピエンXT—の合計7品目で、これらについてこれから検証が行われます。

検証の結果によっては、2018年度に一度価格調整が行われた「オプジーボ」と「カワスミ Najuta 胸部ステントグラフトシステム」について再度価格調整が行われる、さらに価格調整が行われなかった「ハーボニー」などについても改めて価格調整が行われる可能性もあります(最終調整)。この最終調整をいつ実施するかは、今後検討されます。

費用対効果評価の本格導入(制度化)に向けて、2018年度に結論を出す

費用対効果評価については、「本格導入」(制度化)という大きな課題も控えています。古元企画官は、▼対象品目をどう設定するか▼分析をどう進めるか▼総合的評価(アプレイザル)で考慮すべき事項は何か▼価格調整をどのように行うか―という検討課題があることを示し、「13品目の試行的導入で明らかになった課題を改めて整理し、その検討結果を踏まえなければいけない課題」と「試行とは別個に、並行して検討できる課題」とを峻別し、2018年度中の結論を目指して、迅速かつ効率的に本格導入に向けた議論を行う考えを提示、了承されています。

後者の「平行して検討できる課題」の一つとして、「費用対効果の良し悪しを判断する基準値を設定するための調査」(支払い意思額調査)を実施すべきか否か、というテーマがあります。

前述のように試行的導入においては過去の調査研究結果を活用して「費用対効果の良し悪しを判断する基準値」(ICERが500万円以下であれば「費用対効果が良い」と判断するなど)を設定しました。本格導入(制度化)に当たっては、これとは別に「現在の国民の意識」をもとにした基準値を設定すべき、というテーマです。

厚労省は従前、「ある人が病気にかかっており死が迫っています。しかし、この病気に対する新しい治療法が開発されました。そのためこの治療を受ければ、完全に健康な状態で1年間だけ寿命を延ばすことができます。この治療法の費用を公的医療保険から支払おうと考えています。治療全体で一人○円ですが、この費用を公的医療保険で支払うべきだと思いますか?」と問う形での調査を行ってはどうか、と提案しましたが、委員間で意見の隔たりが大きく、調査は取りやめになりました(関連記事はこちら)。

3月7日の合同部会では、「支払い意思額調査を行うかどうか」を最優先課題として検討すべき、との見解が診療側の松本純一委員(日本医師会副会長)、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)の双方から出されており、近く、改めて議論が行われることになりそうです。なお、松本純一委員は「命に値段を付けるようなことがあってはならない」と述べ、早くも「調査に反対である」旨を明確にしています。

 
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