費用対効果評価、試行結果の検証踏まえ2019年度以降に制度化―中医協
2017.12.20.(水)
医薬品や医療機器などの価格を、「費用対効果」を評価した結果も踏まえて調整する仕組みについては、現在行われている13品目の試行導入結果を2018年度中に検証したうえで制度化を検討する—。
12月20日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会、および引き続き開催された総会で、13品目の試行内容とともに、こういった方針が了承されました。
13品目を対象とした試行導入内容を了承
医薬品や医療機器などの価格を設定するに当たり、新たな評価軸として「費用対効果評価」が導入され、2018年度には、まず13品目を対象とした「試行導入」が行われます。12月20日の中医協では、この内容が了承されました。大枠は次のとおりです。
(1)試行の対象品目は、▽財政規模▽革新性▽有用性—の大きな13品目とする
(2)メーカーが「費用」と「効果」に関するデータを揃えるとともに、増分費用効果比(ICER)などを算出する
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(3)メーカーのデータをもとに、中立な専門家グループで再分析を行う
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(4)メーカーの分析結果と再分析結果について、「分析ガイドラインに沿って、標準的な分析を行っているか」などの科学的検証を行い、さらにICERに現れない「重篤な疾患でQOLは大きく向上しないが、生存期間が延びる」などの倫理的・社会的影響等に関する検証を行う(検証によりICERが割り引かれる、つまり「費用対効果が高い」方向に評価結果がシフトすることもある)【総合的評価、アプレイザル】
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(5)(4)の結果に基づいて価格調整を行う。その際、類似薬効(機能区分)比較方式で価格が設定された品目は「補正加算」を対象に価格を調整(引き下げ)し、原価計算方式で価格が設定された品目は「営業利益本体+製造総原価」を下限として薬価・材料価格全体を対象に調整(引き下げ)を行う
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(6)ただし、「効果が増大し(または同等)、費用が削減される(ICERが計算できない)」品目については、比較対象品目(技術)に比べて▼効果が高い(または同等)ことが臨床試験などで示されている▼全く異なる、あるいは一般的改良の範囲を超える(基本構造や作用原理が異なるなど)—場合に、10%を上限とした価格引き上げを行う
13品目については、2018年度に「薬価・材料価格基準に沿った価格見直し」が行われた後に、(1)から(6)に基づく「費用対効果評価の結果に沿った価格見直し」が行われます。
ただし、(2)のメーカーによる分析結果と、(3)の再分析結果が大きく異なる品目があることが分かっています。厚生労働省保険局医療課の古元重和企画官は「分析に当たっての基本的な前提、データの選択方法が異なっていたため」とその理由を説明。制度化に向けて、2018年中にこうした分析結果が大きく異なった品目の検証を行うこととしていますが、当面の課題である2018年度における価格見直しにおいては「両分析のうち、価格変動がより小さくなる方の分析結果を採用する」ことになります。
なお、中医協委員からは「透明化」が強く指摘されており、どこまでの情報が公開されるのか(ICERは公開されるのか、倫理的・社会的影響等に関する項目該当性がどのように示されるのか、など)注目すべきでしょう。
試行結果を検証し、それを踏まえて2018年度中に制度化の結論
ところで昨年末(2016年末)にまとめられた「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」では、「2018年度から費用対効果評価を制度化する」方向が打ち出されていました。このため中医協では、前述の「13品目に関する試行導入」と並行して、「制度化に向けた検討」も進められてきました。
しかし委員から「制度化は、試行導入の結果を検証してから行うべきではないか」との強い指摘が相次いだことを受け、古元企画官は▼対象品目の選定(前述の(1)に該当)▼企業によるデータ提出(同(2)に該当)▼再分析(同(3)に該当)▼総合的評価(アプレイザル)(同(4)に該当)▼価格調整(基準値の設定、支払い意思額調査の実施やその活用のあり方等を含む)(同(5)(6)に該当)—など(つまり費用対効果評価の仕組み全般)の具体的内容について中医協で議論し「2018年度中に結論を得る」考えを明確にしました。したがって、制度化は2019年度以降に行われることになります。
各項目について検討すべき課題がありますが、最大の課題は「価格調整(基準値の設定、支払い意思額調査の実施やその活用のあり方等を含む)」であると考えられます。
前述(1)から(6)のように、費用対効果評価の良し悪しは「類似品目との比較」によって判断しますが、この結果を価格に反映させるためには統一された指標・基準が必要となります(基準がなければ、医薬品Aは類似品A1に比べて費用対効果が良く、医療機器Bが類似品B1に比べて費用対効果が良い、と言う場合にAとBの価格をどう調整すべきかが議論できない)。
この統一指標が前述した「ICER」で、「既存技術と比べてどれだけ効果(QALY:質調整生存年がどれだけ上昇するかなど)が優れ、その効果に見合った費用となっているのか」を数値化するものです。例えば「新規技術βの費用(b)と既存技術αの費用(a)との差(つまりb-a)」を「新規技術βの効果(B)と既存技術αの効果(A)との差(つまりB-A)」で除し(この計算で得られた値がICER)、ICERの高低で「この技術は費用対効果が優れている」「この技術は費用対効果が良くない」などと判断します(関連記事はこちら)。
中医協ではICERが高いのか低いのかを判断する際の「基準」をどう設定するかで、さまざまな意見が出されています。前述の試行導入では、過去の研究結果や英国の状況を踏まえて、▼ICERが500万円以下であれば「費用対効果が良い」と判断し、価格引き下げは行わない▼ICERが500万円以上であれば「費用対効果が悪い」と判断し、ICERの値に基づいた価格引き下げを行う(ただし1000万円が限度、1000万円超は価格引き下げ率は一定)—という基準が設定されました(関連記事はこちら)。
制度化に当たり、この基準値を踏襲するのか、見直すのかが重要ポイントとなり、今後、試行導入結果を踏まえて改めて検討されます。その際、「国民が、健康のためにどれだけの費用を支払ってもよいと考えているか」という調査(支払い意思額調査)をすべきか否かが、かねてから大きな論点となっています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
12月20日の中医協でも、診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)が「従前に出された懸念(例えば、調査案では、『死が迫っている』『完全な健康』という設定で、多くの国民が『いくらかかってもよい』と判断してしまう恐れもある)が解消されておらず、調査実施そのものに反対」とコメント。一方で、支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「過去の研究は10年前であり、当時と今とでも医療を取り巻く状況や国民の意識も変化している。少なくとも一度は調査する必要がある」と指摘し、意見は集約されていません。古元企画官は「調査実施の可否も含めて、今後検討してもらう」と述べるにとどめています。
2018年度から、費用対効果評価の制度化論議が再開されると見込まれますが、どういった議論が展開されるのか注目が集まります。
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