看護必要度A1・B3を廃止し、認知症の入院患者対応等を別途評価してはどうか―中医協総会(1)
2019.12.20.(金)
一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)について、2018年度の前回診療報酬改定で新たに重症患者としてカウントすることとなった「『A1点以上・B3点以上』で、『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』のいずれかに該当する患者」(いわゆる基準2)に関しては、「A2点以上」へ見直すこととしてはどうか―。
事実上、「A1・B3かつ危険行動等」は重症患者カウント対象から除外されることになるが、高齢入院患者が増加している状況を踏まえ、看護必要度とは別に、認知症ケア加算やせん妄予防の評価の中で対応してはどうか―。
12月20日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった点について議論が行われました(看護必要度に関する中医協総会の前回議論の記事はこちら)。
目次
看護必要度A項目、「内服の免疫抑制剤管理」を評価対象から除外へ
2020年度の次期診療報酬改定に向けた個別テーマの議論がまさに佳境を迎えています。12月20日の中医協総会では、▼看護必要度(入院医療その6)▼医療機関間の情報共有の推進▼妊婦加算▼オンライン服薬指導の評価―を議題としました。本稿では「看護必要度」を中心に見ていきます。
看護必要度に関しては、入院医療等の調査・評価分科会(中医協の下部組織)での議論をベースに(入院医療分科会の議論に関する記事はこちらとこちら)、これまでに▼A・B・C項目のそれぞれについて内容を精査する▼「A1・B3かつ危険行動等」の取り扱いを検討する―方向が固まっています。厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は、中医協総会での論議を踏まえて新たな考え方を提示しました。なお B項目については、すでに12月13日の中医協総会で「患者の状態」と「介助の有無」を分けて記載する方針が固められています。
まずA項目(モニタリングおよび処置等)については、「専門的な治療・処置」のうち▼内服の抗がん剤▼内服の免疫抑制剤―については「入院外で実施されるケースが多い」ことから、「入院医療の評価指標である看護必要度からの除外」が検討されてきました。
この点、後者の「内服の免疫抑制剤の管理」については看護必要度の評価項目から除外する方針が固まりつつありますが、前者の「内服の抗がん剤」については診療側委員の「導入期には副作用等の評価をするために入院での実施が必要な場合もある」という意見を重視し、看護必要度の評価項目にとどめる(除外しない)考えを森光医療課長は示しています。
看護必要度C項目、手術等の入れ替えを行い、評価対象日数を延伸へ
またC項目(手術等の医学的状況)については、これまでに▼入院での実施割合が低い手術や検査は評価項目から除外する▼現在はC項目の対象となっていないが「入院での実施割合が9割以上と高く・侵襲度が高い」ものを新たに評価項目に導入する―ことが検討されています。つまり「項目の入れ替え」が行われる見込みです。
森光医療課長は「侵襲度の高さ」を判断する基準について「診療報酬点数」に着目しています(「侵襲度の高い手術」は難易度も高く、必然的に診療報酬も高くなる)。現在のC項目対象手術の診療報酬点数を見ると、平均値が4万5000点余り、中央値が3万1305点となっており、こうした数字を参考に「C項目への導入妥当性」を探っていくことになります。この点について支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)と吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「現行C項目の中央値である3万点程度が目安の1つになる」との考えを示しています。
またC項目については、手術領域によって「重症患者にカウントされる日数」が設定されています(開頭手術では7日間など)。しかし各手術の平均在院日数と比較して、現在の重症患者としてカウントされる日数は「短すぎるのではないか」(平均在院日数の2-3割程度)との課題も新たに判明し、森光医療課長は「日数の見直し」(延伸)を検討する考えを示しています。
ただし、支払側の幸野委員は「C項目は1点獲得できれば重症患者にカウントされる。日数の延長は、医療現場の実態を踏まえて慎重に検討する必要がある」と注文している点に留意が必要です。
「A1・B3」は看護必要度から除外し、せん妄予防等を別途評価してはどうか
また「A1・B3かつ危険行動等」は、高齢の入院患者が増加(必然的に認知機能の低下した患者も増加)している点を踏まえて、2018年度の前回改定で新たに重症患者のカウント対象に追加されたものです。
しかし、▼「A1・B3かつ危険行動等」のみ患者の半数近くは、直前まで「いずれの項目(A2・B3など)にも非該当」で、心電図モニター装着によって「A1・B3かつ危険行動等」に該当するようになったケースが最も多い(危険行動等のある患者に、侵襲性の極めて低い心電図モニターを装着したのみではないか、との指摘もある)▼「A1・Bかつ危険行動等」のみ患者」は、他の項目(A2・B3など)に比べ「医学的な理由のため入院が望ましい」割合が低い(社会的入院なのではないか、との指摘もある)▼「A1・B3かつ危険行動等」のみ患者の割合は、急性期病棟(旧7対1、10対1)よりも療養病棟で高い(慢性期の評価指標なのではないか、との指摘もある)―などのデータを踏まえ、支払側委員からは「重症患者カウント対象からの除外」が求められました。
この点、森光医療課長は12月20日の中医協総会で「A1点である基準2を見直し、A2点以上を対象とすることとしてはどうか」との考えを示しました。事実上、「A1・B3かつ危険行動等」を重症対象から除外する内容です(当該患者がA2点を獲得すれば、いわゆる基準1の「A2点・B3点」に該当するため)。
ただし、急性期病棟においても「高齢の入院患者が増加している状況」は続く(さらに増加すると予測される)ため、医療スタッフの負担は増加していきます。これを放置することは「認知機能が低下した患者の受け入れ拒否」をも招いてしまう危険もあり、森光医療課長は「認知症・せん妄を合併した患者に対する適切なケアを行う体制が確保されるよう、看護必要度とは分けて体制の評価を拡充する」考えも示しています。
例えば【認知症ケア加算】の拡充(【加算1】の要件を緩和するとともに、【加算2】にとどまりながら、要件外である「専門性の高い看護師配置」等を行う病棟の評価充実など)や、「標準的なせん妄予防の取り組み」を行っている病棟の体制評価(例えば新加算の創設など)等で対応してはどうか、という提案です。
「A1・B3かつ危険行動等」を重症患者カウントから除外した場合に、重症患者割合(看護必要度を満たす患者の割合)がどの程度下がるのかは明らかになっていませんが、仮に5ポイント下がると仮定すると、「重症患者割合32%であった急性期一般1病院」は「急性期一般4」(重症患者割合27%以上)に届け出変更をすることになります。
急性期一般病棟入院料1(重症患者割合が看護必要度Iで30%以上)のベース点数は1日につき1650点、急性期一般病棟入院料4(同27%以上)では1440点で、その差は210点です。
ここで【認知症ケア加算1】を算定すれば1日につき150点(14日間まで、15日以降は30点)を算定でき、差は「60点」に縮小されます(ただしすべての患者に算定可能なわけではない)。さらに「標準的なせん妄予防」の取り組みを実施すれば、新加算の点数水準にもよりますが、「収益が上がる」ケースすら出てくる可能性があります。
つまり、認知症高齢者の受け入れを「看護必要度で評価する場合」(A1・B3かつ危険行動等の重症カウント継続)と「加算等で評価する場合」とで、個別病院ごとに「どちらが経営的に好ましいか」は変わってくる可能性があるのです。後述するシミュレーションでどのような結果が示され、それを受けてどういった検討が行われるのか、今後の中医協論議に要注目です。
なお、「A1・B3かつ危険行動等」を重症患者カウントから除外することが決定したわけではありません。診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「看護必要度の中での評価を継続すべき」(つまり重症患者カウント対象から除外すべきでない)との考えを強く示し、同じく診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「シミュレーション結果(後述)を踏まえて検討したい」と述べています。
A・C項目の見直しで、重症患者割合がどう変化するのかを試算
さらに森光医療課長は、こうした見直しを踏まえて、各病院の重症患者割合が「どのように変化するのか」をシミュレーションする考えを示しました。
A項目の見直し(内服の免疫抑制剤の除外)は「重症患者割合が下がる」方向に、また「A1・B3かつ危険行動等」の削除も「下がる」方向に作用します。またC項目の入れ替えは、内容によって「上がる」方向と「下がる方向」とが混在しており、C項目の期間延長は「上がる」方向に作用します。
この点、診療側の松本委員は「【救急医療管理加算】の算定患者は、極めて重篤な状態と言える。この患者も重症患者としてカウントすべきであり、重症患者対象に追加した場合のシミュレーションを行ってほしい」と要望し、受け入れられています。
今回の試算では、これらの見直しを行った場合に「現行の重症患者割合の基準値」に相当する数値はどの程度か(例えば、現行の「30%以上」は、見直し後の何%に相当するのか)を探ることになります。
その後、年明けに「重症患者割合の基準値を厳格化すべきか、維持すべきか」を別途検討していくことになり、そこが2020年度の次期改定に向けた中医協論議の最大の山場になりそうです。
A・C項目の一部、看護必要度Iでも「指定薬剤・手術の実施」を評価する形へ
また森光医療課長は、看護必要度I(従前からの評価票を使用)のA・C項目の一部項目(薬剤の使用・管理や手術に関連する項目)について、看護必要度II(DPCデータのEF統合ファイルを使用)と同様に「指定された薬剤・手術等の実施がある場合を該当と判断する」見直しを行う考えも示しています。レセプト電算処理コードで対象を指定する形です。
看護必要度IIを導入した病院では「看護必要度評価票への記載負担が減少した」との意見が数多く出ており、「看護必要度Iを用いる病院」でも、今回の見直しによって「看護職員の負担軽減」が一定程度実現することが期待され、注目すべき見直しポイントの1つと言えるでしょう。
医療機関間での「双方向の情報提供」を評価へ
なお、12月20日の中医協総会では、次の点が概ね了承されています。詳細は別稿でお伝えしますが、医療現場にとって非常に大きな点数となる(紹介先・紹介元の双方向の情報提供を評価する)。
▽かかりつけ医(X)が専門医療機関(Y)へ患者を紹介する際、患者の同意を得て、診療情報をYへ提供することが【診療情報提供料I】として評価されているが、YからXへのフィードバックは診療報酬上、評価されておらず、これを新たに評価する(例えば【診療情報提供料III】などとして)
例えば、X産婦人科にかかる妊婦について、うつ傾向があるために、精神科Yを紹介したとします。XからYへの情報提供は【診療情報提供料I】で評価されますが、Yが「●●の状態であり、■■薬を処方した。産科におかれては〇〇にもご注意いただきたい」などのフィードバック情報を提供したとしても、診療報酬は算定できないのです。2020年度改定では「XとYの双方向の情報提供」を評価する形になりそうです。
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