訪問看護で軽度利用者の増加が著しい、介護医療院は専ら「重度者」を受け入れ―厚労省
2021.1.14.(木)
訪問看護ステーションの1事業所当たりの延利用者数を見ると、重度者に比べて軽度者で著しく多いことが確認できる—。
介護療養から介護医療院への転換が進んでいるが、転換後も「重度者」を受け入れる施設特性に変化は生じていない―。
厚生労働省が1月13日に公表した2019年の「介護サービス施設・事業所調査」の概況から、こういった状況がわかりました(厚労省のサイトはこちら、詳細はこちら(政府統計の総合窓口e-Statホームページ))(前年(2018年)調査に関する記事はこちら、2017年調査に関する記事はこちら、2016年調査に関する記事はこちら、2015年調査に関する記事はこちら)。
介護医療院の報酬設定等や加算設定等を受け、介護療養からの転換進む
介護サービス施設・事業所調査は、毎年の介護サービスの提供体制・提供内容を把握し、基盤整備の課題などを明らかにすることを狙いとするものです。
事業所数・施設数を見ると、前年(2018年)からの増加が目立つのは▼介護医療院:295.8%増▼看護小規模多機能型居宅介護(看多機、旧「複合型サービス」):14.8%増▼地域密着型特定施設入居者生活介護:7.3%増▼訪問看護ステーション:6.4%増—などです。
2018年度の介護報酬改定により、介護・医療・住まいの3機能を併せ持つ介護医療院の報酬・人員配置基準等が定まり、介護療養等からの移行を促すための【移行定着支援加算】が設けられました。こうした点を踏まえて、介護現場において「介護療養等から介護医療院への転換」が進んだものと考えられます。その裏返しとして、介護療養は前年から18.8%減少しています。
介護保険施設それぞれに特徴、介護医療院も専ら重度者を受け入れ
次に、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設)の状況を見てみましょう。
1施設当たり定員は、次のようになっています。
【特別養護老人ホーム】(介護老人福祉施設)
▼平均は69.3人(前年から0.2人増)
▼2019年9月末時点の利用率は95.6%(同0.2ポイント低下)
→前年から目立った変化なし
【老健施設】(介護老人保健施設)
▼平均は86.4人(前年から0.2人増)
▼2019年9月末時点の利用率は89.2%(同増減なし)
→前年から目立った変化なし
【介護医療院】
▼平均は65.0人(前年から9.0人減)
▼2019年9月末時点の利用率は94.7%(同3.7ポイント上昇)
→小規模な病院による転換が進んでいる
【介護療養】(介護療養型医療施設)
▼平均は41.1人(前年から2.3人減)
▼2019年9月末時点の利用率は88.3%(同1.7ポイント上昇)
→介護医療院への移行とともに「小規模化」が進んでいる
このうち、老健施設については、わずかながら規模が拡大したにもかかわらず、利用率を維持できており、「新規入所者の確保」がうまく進んでいる状況が伺えます。老健施設については2012年度の介護報酬改定より「在宅復帰施設」としての機能が再認識され、全体として在宅復帰が進められています。つまり制度上は「利用率が下がる」方向に進んでもおかしくないところ、利用率を維持できており、「在宅復帰機能の強化による利用者・家族の満足度向上 → 新規入所者・再入所者(リピーター)の確保」という好循環が回っていると考えることができそうです。今後の状況を注視していく必要があります。
また介護保険施設の種類別に入所者の要介護度を見ると、次のような状況です。
▽特養ホーム
▼要介護1:1.3%(前年から0.2ポイント減)▼要介護2:3.8%(同0.5ポイント減)▼要介護3:24.5%(同0.2ポイント増)▼要介護4:38.4%(同0.8ポイント増)▼要介護5:31.8%(同0.4ポイント減)
→要介護3以上が94.7%(同0.6ポイント増)で、入所者の「重度化」がさらに進んでいる
▽老健施設
▼要介護1:11.9%(前年から0.2ポイント増)▼要介護2:18.9%(同増減なし)▼要介護3:24.2%(同0.1ポイント減)▼要介護4:27.0%(同0.2ポイント増)▼要介護5:17.6%(同0.4ポイント減)
→要介護3以上が68.8%(同0.3ポイント減)で、入所者の状態に大きな変化なし
▽介護医療院
▼要介護1:2.4%(前年から0.4ポイント減)▼要介護2:4.7%(同0.8ポイント減)▼要介護3:10.3%(同1.3ポイント減)▼要介護4:37.2%(同0.9ポイント増)▼要介護5:45.0%(同1.3ポイント増)
→要介護3以上が92.5%(同0.9ポイント増)で、入所者は非常に重度であり、かつさらに重度化が進んでいる
▽介護療養
▼要介護1:1.4%(前年から0.2ポイント増)▼要介護2:2.9%(同0.2ポイント増)▼要介護3:8.2%(同0.1ポイント減)▼要介護4:36.1%(同0.2ポイント減)▼要介護5:51.0%(同増減なし)
→要介護3以上が95.3%(同0.3ポイント減)で、入所者の状態に大きな変化なし
このように介護保険施設の種類によって、▼規模▼利用率▼要介護度―に特徴のあることが再確認できます。また介護療養から介護医療院へ転換が進んでも「非常に重度の要介護高齢者が入所する」という特性には、これまでのところ変化がないことも確認できました。
訪問看護の延利用者数、重度者に比べて軽度者で著しく多い
さらに訪問看護利用者について、「要介護度」と「利用者1人当たりの訪問回数(2019年9月の1か月分)」との関係を見ると、次のような状況です。
▼要支援1:4.0回(前年に比べて0.1回増加)
▼要支援2:5.2回(同0.3回増加)
▼要介護1:5.4回(同0.2回増加)
▼要介護2:5.8回(同0.2回増加)
▼要介護3:6.1回(同0.2回増加)
▼要介護4:6.8回(同0.3回増加)
▼要介護5:8.3回(同0.4回増加)
前年調査と同じく、「要介護度が高いほど、頻回の訪問が必要である」状況を再確認できます。
また、「要介護度」と「1事業所当たりの延利用者数(2019年9月の1か月分)」との関係を見ると、次のような状況です。
▼要支援1:12.4人(前年に比べて1.3人・9.7%増加)
▼要支援2:31.7人(同2.9人・10.1%増加)
▼要介護1:54.5人(同3.9人・7.7%増加)
▼要介護2:66.4人(同3.7人・5.9%増加)
▼要介護3:45.5人(同2.0人・4.6%増加)
▼要介護4:46.5人(同1.1人・2.4%増加)
▼要介護5:54.7人(同0.1人・0.2%増加)
要介護3以上の重度者に比べて、要支援者・要介護1といった軽度者の利用増が著しく大きいことが分かります。増加そのものは問題ではありませんが、社会保障審議会・介護給付費分科会で問題視されたように、一部の訪問看護ステーションにおいて「要支援者等の軽度者に対し、日中にのみリハビリサービスを行う」、つまり事実上の訪問リハビリステーション化している状況があれば、介護保険制度上、非常に問題となります。
2021年度の介護報酬改定では、こうした事実上の訪問リハビリステーションに対し、一定の歯止めをかけることになります。その効果がどれほど現れるのか、今後の調査結果を注視していく必要があります。
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