高額療養費の自己負担上限、「高所得者で引き上げ幅を大きく、低所得者では小さな引き上げに止め」てはどうか—社保審・医療保険部会(2)
2024.12.13.(金)
高額療養費について、負担能力(所得)に応じたより公平な負担を実現するために「高所得者で引き上げ幅をより大きく」し、「低所得者では小さな引き上げに止める」こととする—。
12月12日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした「高額療養費見直し」方針が固められました(同日の医療DX論議に関する記事はこちら)。
なお、高齢者では「外来受診頻度が高い」ことなどに着目した「外来特例」(歴月の外来医療費について、高齢者では自己負担上限をより低く設置する特例)については、「廃止も含めた見直しを行い、現役世代の保険料負担軽減効果を大きくすべき」との指摘がある一方で、「複数疾患を抱える高齢者、高額薬剤を継続使用しなければならない高齢者などが、医療機関受診を継続できるように廃止はすべきでない」との意見もあり、医療保険部会では明確な方向を示せていません(見直し方向そのものには異論はない)。
今後の来年度(2025年度)予算案編成の過程で、具体的に「自己負担上限額をいくらに引き上げるのか」「70歳以上の外来特例をどのように見直すのか」などを政府で決定します。
高額療養費の自己負担上限、「負担能力のある層には、より高く設定」してはどうか
Gem Medでも報じているとおり、全世代型社会保障制度(年齢ではなく、負担能力に応じた負担を高齢者にもお願いする)構築の一環として「高額療養費の見直し」論議が医療保険部会で進められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
我が国の医療保険制度では、年齢や収入に応じて1-3割の自己負担で保険診療を受けることが可能ですが、医療費が大きくなれば、1-3割の自己負担も大きくなってしまうため、「毎月(歴月)の医療費自己負担を一定程度に抑える」ための【高額療養費制度】が設けられています(患者自身が支払える額に抑えるセーフティネット)。
医療保険部会では、高額療養費制度について▼自己負担上限の引き上げ▼所得区分の細分化—を行う方針を概ね固めており(関連記事はこちらとこちらとこちら)、12月12日の医療保険部会では、厚生労働省保険局保険課の佐藤康弘課長から次のような「見直し方向」案が示されました。
(A)物価・賃金の上昇など経済環境が変化する中でも高額療養費の自己負担限度額の上限が実質的に維持されてきた(約10年間)ことなどを踏まえ、セーフティネット機能を維持しつつ、全世代の被保険者の保険料負担の軽減を図るため、(i)高額療養費の自己負担限度額の見直し(一定程度の引き上げ)(ii)所得区分の細分化(住民税非課税区分を除く所得区分を概ね三区分に細分化)—を行う
(B)(i)の自己負担上限については、▼平均的な収入を超える所得区分は「平均的な引き上げ率よりも高い率」で引き上げる▼平均的な収入を下回る所得区分は「引き上げ率を緩和」する—など、低所得者に配慮を行う
→併せて、今回の見直しで必要な受診が妨げられないよう丁寧な周知等を徹底する
(C)施行時期については、「被保険者の保険料負担軽減」というメリットを早期に享受できるようにする観点から、「一定の周知・準備期間を設けた上で、システム的にも十分対応可能な範囲から施行」していく。(早ければ来年夏(2025年夏以降からの施行を想定)
→佐藤保険課長は「自己負担上限の引き上げ」「所得区分の細分化」などを別個に実施する可能性にも言及している
(D)高額療養費の引き上げが家計や受療行動等に与える影響を分析するために必要なデータを把握していく方策等を今後検討する(中村さやか委員(上智大学経済学部教授)らから、非常に強い要望が出された点を踏まえたもの、関連記事はこちら)
このうち(B)は、端的に「高所得者層にはより高額の自己負担を求め、低所得者では自己負担増を小さく抑える」もので、医療保険部会では多くの委員が賛意を示していますが、「高所得者でも過度な負担増とならないよう留意すべき」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)、「中間所得層の負担増が過度にならないよう留意すべき」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)との指摘もあります。
ところで、上表でもわかるように、70歳以上の高齢者では「外来特例」が設けられています。高齢者では複数疾患を抱え、頻回な医療機関受診が必要となり、「結果、外来医療費が重くなる」ケースがままあることなどを踏まえて、「外来医療における患者自己負担の上限額をより低く抑える」ものです。しかし、「現役世代の負担抑制の必要性が高い」点を踏まえて「外来特例について廃止も含めた見直しを検討すべき」と指摘する声も小さくありません。
佐藤保険課長は、こうした点を踏まえて「外来特例を見直した場合の影響」を機械的に試算した結果を示しました。具体的には次の3パターンの見直しを行った場合に、それぞれ「現役世代の保険料負担などがどの程度、軽減されるのか」などを計算しています。ただし、ここには「自己負担上限額見直し」などは含まれておらず、単純に「現行制度から外来特例を取り除いた際の影響」を見ているに過ぎない点に留意が必要です。
【外来特例見直しのパターン】
(1)住民税非課税区分・一般区分の外来特例(月額上限・年間上限)をすべて廃止する
(2)住民税非課税区分にかかる外来の月額上限を2000円引き上げ(年間上限はそもそも設けられていない)、一般区分にかかる外来特例(月額上限・年間上限)は廃止する
(3)住民税非課税区分・一般区分の外来の月額上限を2000円ずつ引き上げ、一般区分の年間上限も廃止する
見直しを行った場合の保険料軽減効果を見ると、(1)では1900億円軽減(単純に加入者1人当たりを計算すると年間700円から2000円の軽減)、(2)では1300億円軽減(おなじく500円から1500円の軽減)、(3)では500億円軽減(同じく200円から600円の軽減)となります。1人当たり保険料軽減額に幅があるのは、▼高齢者では「自分たち自身の医療給付費が減少し、結果、保険料負担が軽減する」のみである▼現役世代では「自分たち自身の医療給付費が減少し、結果、保険料負担が軽減する効果」に加えて、「高齢者の医療給付費が減少し、支援金・拠出金負担が軽減する効果」もある—ためです。自己負担上限と同様に、見直しの効果は「現役世代に手厚くなる」「高所得者ほど手厚くなる」ことが分かります(関連記事はこちら)。
こうした試算結果に対し、医療保険部会では「現役世代が保険料軽減を実感できる規模の見直しを行うべきで、外来特例については『廃止』を含めた抜本的な見直しを行うべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)といった厳しい意見が出る一方で、▼複数疾患を抱える高齢者、がん闘病中の高齢者などにとって外来特例は非常に重要であり、廃止は認められない。どのような患者が外来特例対象などを詳しく分析して見直し内容を考えていくべき(城守委員、島弘志委員:日本病院会副会長、渡邊大記委員:日本薬剤師会副会長)▼利用の少ない『年間上限』廃止は理解できる。しかしがん患者など外来負担が重くなる高齢者もおり、『月額上限』については一定の引き上げは仕方ないとしても、当面は存続させるべき(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)—などの慎重意見も数多く出ています。医療保険部会では「外来特例見直しの具体的な方向」までは一致していないようです。
この点、高額療養費制度に関する「自己負担上限を●●円に設定する」「外来特例を◆◆と改める」などの見直しは、国家予算にも大きく関係するため、医療保険部会だけで決することはできず、政府の次年度予算案編成過程の中で決する必要があります。このため田辺国昭部会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「医療保険部会での議論はここまでとする。医療保険部会で出された意見を十分に踏まえて、政府で責任をもって見直し内容を決する」よう厚労省に指示しました。
今後、年末の来年度(2025年度)予算案編成論議が活発化しますが、その中で高額療養費について▼所得区分をどのように細分化するのか▼自己負担上限額を各区分についてどの程度引き上げるのか▼外来特例をどのように見直すのか—を調整していくことになります。
なお、佐藤保険課長は高額療養費の「自己負担上限を現行よりも10%引き上げた場合」に、患者の自己負担がどの程度増額となるのかも試算しています。例えば、70歳未満で年収約370-770万円の人(3割負担)が、入院等して1か月に300万円の医療費が発生した場合、現在は「10万7430円」である自己負担が、見直し後(引き上げ後)には「11万5173円」となります(7743円増)。患者自己負担が増える分、医療保険等の負担が減り、その分、「毎月納める保険料が安く」なります。
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