2020年度診療報酬改定、「ネットで2%台半ば以上のマイナス、本体もマイナス」改定とせよ―財政審
2019.11.26.(火)
財務省の財政制度等審議会(以下、財政審)が11月25日、来年度(2020年度)予算編成等に関する建議をまとめ、麻生太郎財務大臣に提出しました(財務省のサイトはこちら)。
2020年度には診療報酬改定が控えていますが、▼ネットで2%台半ば以上のマイナス改定▼診療報酬本体についてもマイナス改定―とすることを進言。
ほかに社会保障において「給付と負担の乖離」を是正する必要性をことのほか強調し、例えば▼75歳以上の後期高齢者における医療費一部負担(窓口負担)▼介護保険給付の一部負担―について「2割」へ引き上げことなどを強く求めています。
目次
財政健全化のためには、社会保障の「給付と負担のアンバランス」是正が給付
財政審建議は、次年度予算編成に向けた重要な提言です。高齢化の進行や医療技術の高度などで医療・介護をはじめとする社会保障費が増加を続け、同時にその財源の一部を担う国費も増加。これが歳出の適正化を遅らせ、財政の健全化を妨げる大きな要因であるとして、「社会保障改革」に向けた具体的な提言も行っています。
今般の提言では「我が国の財政問題は『社会保障制度の給付と負担のアンバランス』および諸制度の持続可能性の問題と表裏一体である。『受益と負担の乖離』を背景として、各年度の政策的経費をその年度の税収で賄うことができず(プライマリーバランスが赤字の状態)、公債発行への依存が常態化している」と指摘。併せて、2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり始め「給付費が増加していく」こと、その一方で2040年度にかけて現役世代が減少し「支え手(負担者)が減少していく」ことから、「給付と負担のアンバランス」はさらにその度合いを増していくことにも付言。
こうした状況を是正し、財政を健全化させるためには「プライマリーバランスの黒字化」という目標を維持し、その実現のために「給付と負担のバランスの確保」「受益と負担の乖離の是正」の2つの視点に立った社会保障改革を断行すべきと強く訴えます。
まず、2020年度における社会保障関係費については、その伸びを「高齢化による増加分に相当する水準におさめる」という方針を崩さず、「決して財政健全化の手綱を緩めることなく取り組んでいく必要がある」と強調。
さらに、具体的な改革項目にも言及しており、医療・介護については次のような項目が並んでいます。
▽2020年度の次期診療報酬改定では、マイナス改定とする
▽外来受診時定額負担の導入
▽地域医療構想の実現
▽国民健康保険における保険者(都道府県)機能強化
▽75歳以上の後期高齢者医療における自己負担(窓口負担)の原則2割化
▽要介護1・2に対する訪問・通所サービスの市町村事業(総合事業)への移行
▽要介護認定率や1人当たり給付費の格差是正
▽介護給付における自己負担の原則2割化
このうち2020年度診療報酬改定については、「医療機関の人件費や物件費を賄う診療報酬本体は、累次の改定で賃金や物価の水準と比べて高い水準となっている」とし、▼ネットで2%台半ば以上のマイナス改定▼診療報酬本体についてもマイナス改定―とすることを進言。あわせて、▼医科の財源について病院と診療所との間で改定率に差を設けるなど配分に当たっての大枠を示す▼調剤報酬について、全体として水準を下げつつ、特に調剤料について剤数や日数に比例した算定方法を適正化し大胆に縮減すべき―と提案しています。
2010年度診療報酬改定では、診療所と病院とで改定財源の目安が示され、「診療所から病院への財源移譲」が行われました。2020年度改定でどういった判断がなされるのか、今後の動きを見守る必要があります。
外来受診時定額負担を通して、「公的医療保険の給付範囲」論議を本格化せよ
また「外来受診時定額負担」は、従前より財政審が提案しているもので、例えば「軽症で医療機関外来を受診した際に、通常の『3割負担』とは別に、50円・100円といった定額・低額の特別負担を求めよ」という提案です。
医療費が高騰を続ける中では、公的医療保険の給付範囲について▼がんなどの「カタストロフィックな事象」をカバーするのみとし、誰でもがかかる軽度な医療は自己負担とする▼風邪などの誰でもが受ける医療こそカバーし、高度な医療は民間保険等で賄うべき―という両極の選択肢があります。もちろん、この中間に多数の選択肢がありますが、財務省は「前者」を選択すべきとして、「誰でもがかかる軽度医療」について定額・低額の特別負担を導入して、「保険給付から除外」へ少しずつ進んでいくべきとの考えを示しているのです。
この点、50円・100円といった負担が保険財政に与える影響は小さく、「受診抑制」を狙ったものであることは確実と言え、例えば社会保障審議会・医療保険部会等では医療の専門家から「重症化を招き、かえって医療費が高騰してしまう」との批判もあります。
ただし「保険給付の在り方」論議から逃げることは許されず、そう遠くない将来、正面から真剣に議論すべきテーマの1つとなってくるでしょう。
地域医療構想、424病院への再検証予防が「実現に向けた最後の機会」
また「地域医療構想」に関しては、厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」(医療計画の見直し等に関する検討会の下部組織)で、「全国424の公立病院・公的病院等について、▼がん▼心疾患▼脳卒中▼救急、小児、周産期―医療などの診療実績が少ないことなどから、『公立・公的病院等でなければ果たせない機能を果たしているのか』について再検証を求め、必要に応じて機能分化やダウンサイジングなどを含めた再編・統合を地域で検討し、合意してもらう」方針が固められました。
ただし、財政審では「進捗が遅れている(当初予定では2018年度中に公立・公的病院等の機能分化等論議は終了している)」「今回の再検証要請は、2025年度の地域医療構想実現に向けた最後の機会である」とし、▼病床のダウンサイジングも含めた大胆な取り組みを行う▼アウトカムベースのKPIを設けて中間的な達成状況を評価し、不十分な場合には都道府県知事の権限の在り方を含むより実効性が担保される方策を検討する▼地域医療介護総合確保基金については大胆なメリハリ付けを行った配分とする(地域医療構想の実現に積極的に取り組む自治体に厚く支援する)―ことを求めています。
要介護1・2の訪問・通所サービス、市町村事業への移管をどう考えるか
また介護保険における「軽度者(要介護1・2)の訪問・通所サービスへの市町村事業への移行」については、次期介護保険制度改革を議論する社会保障審議会・介護保険部会で「要支援者の移行が2018年度から本格化したが、まだ状況が詳らかになっていない。現時点での検討は時期尚早である」との意見が大勢を占めています。介護保険部会では、年末までに意見を取りまとめる予定で、今後、どういった議論が行われるのか注目が集まります。
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