介護保険制度改正、介護予防や地域包括ケアシステムを推進し、介護現場の革新を目指す―厚労省・大島老健局長
2020.1.20.(月)
2021-23年度を対象とする第8期介護保険事業(支援)計画に向けて、介護保険制度改正が行われる。そこでは、(1)介護予防・地域づくりの推進(健康寿命の延伸)/「共生」と「予防」を両輪とする認知症施策の総合的推進(2)地域包括ケアシステムの推進(3)介護現場の革新―の3本が重要な柱となり、地方自治体の協力が重要である―。
1月17日に開催された2019年度の「全国厚生労働関係部局長会議」において、厚生労働省老健局の大島一博局長は、こういった点について都道府県等担当者に協力を要請しました。
目次
介護予防等に向け「地域づくり3部作」を推進、インセンティブ交付金を組み替え
昨年末(2019年末)に、社会保障審議会・介護保険部会が、2021-23年度を対象とする第8期介護保険事業(支援)計画に向けた介護保険制度改正に関する意見取りまとめを行いました。近く、通常国会に介護保険法改正案や社会福祉法改正案などを一括法案として提出することになります。
そこでは、暮らしや地域の在り方が多様化する中でも1人ひとりが尊重され、多様な経路で社会とつながり参画して生きる力や可能性を最大限に発揮できる「地域共生社会」の実現を目指し、次の3施策を進める方向が示されました。
(1)介護予防・地域づくりの推進(健康寿命の延伸)/「共生」と「予防」を両輪とする認知症施策の総合的推進
(2)地域包括ケアシステムの推進(地域特性等に応じた介護基盤整備、質の高いケアマネジメント)
(3)介護現場の革新(人材確保、生産性の向上)
大島老健局長は、この3施策のポイントを詳しく説明しています。
まず(1)の前段「介護予防・地域づくりの推進(健康寿命の延伸)」に向けては、昨年(2019年)3月に示された「これからの地域づくり戦略 3部策―集い・互い・知恵を出し合い―」(1.0版)を進めていくことがベースになります。
介護をはじめとする「地域づくり」を、市町村が地域住民を巻き込んで進め、これを国や都道府県がバックアップしていくために、▼地域の高齢者に「通いの場」などに集ってもらう▼地域住民同士の助け合い(互助)を進めていく▼医療・介護・福祉の専門家に知恵を出し合ってもらう―ことの重要性を地域ごとに確認してもらう内容となっており、大島老健局長は「近く改訂版を示す」考えも示しています(関連記事はこちらとこちら)。
また介護予防・重度化防止に積極的に取り組む自治体を経済的に評価する「保険者機能強化推進交付金」(通称インセンティブ交付金)について、▼規模を拡大する(現状200億円→2020年度には400億円)▼2階建ての仕組みとする―という組み直しを行うことを紹介。
1階部分は「基本的な項目および予防・健康づくりに関する項目」、2階部分は「予防・健康づくりに関する項目のうち重要な項目」となり、「予防・健康づくりに関する重要項目」は1階と2階の両方でカウント(つまりダブルカウント)され、「予防・健康づくりに積極的な自治体の評価がより高まる」ことになります。大島老健局長は「インセンティブ交付金を財源とした予防・健康づくりを進めてほしい」旨を都道府県等に要望しています。
認知症予防のために「通いの場」の拡充、参加率の向上が極めて重要
また(1)の後段「『共生』と『予防』を両輪とする認知症施策の総合的推進」については、昨年(2019年)6月に新設された「認知症施策推進大綱」が介護保険事業(支援)計画にも位置付けられることになり、大綱を踏まえた認知症対策を都道府県・自治体が積極的に進めていくことが期待されます。
「共生」については、まず「認知症を知ってもらう」ことが重要で、子供や生活関連企業(スーパーマーケットや鉄道、金融機関など)などにも「認知症サポーター」になってもらうことを推進。さらに、認知症高齢者自身も参画する「チームオレンジ」をすべての市町村に設置し、「認知症の人をコミュニティで支える地域づくりを推進していく」ことになります。こうした費用については、地域医療介護総合確保基金が活用できるようになります。
また「予防」においては、上述した「通いの場」への参加が重要になります。社会から孤立せず、人と積極的に交流することで認知機能の低下が抑えられるという研究結果があり、認知症予防の面でも「通いの場」が極めて重要になってきます。
地域包括ケアシステムの構築に向けて、基金のメニューを拡充
また(2)の「地域包括ケアシステムの推進」に関しては、地域医療介護総合確保基金について「メニューの拡大」によるサポートが行われます。
さまざまなメニューが用意されますが、大島老健局長は▼介護施設等の整備にあわせて行う広域型施設の大規模修繕・耐震化整備(小規模多機能型居宅介護などについて大規模修繕費に基金から女性が行われる)▼「特定施設入居者生活介護の指定を受ける介護付きホーム」も補助対象に追加する▼介護職員の宿舎施設整備も補助対象とする―ことで、介護離職ゼロを推進していく考えを強調しています。
介護人材の確保と生産性の向上を推進するために、基金のメニューを拡充
一方、(3)の「介護現場の革新」では、まず人材確保が極めて重要です。ここでも地域医療介護総合確保基金の拡充が注目され、大島老健局長は▼介護人材確保のためのボランティアポイントの活用▼地域の支え合い・助け合い活動継続のための事務手続き等支援事業―にも基金を活用できることを紹介しました。
もっとも、少子化が進行する中では「人材確保」はたやすくありません。そこで、限られた人材で介護業務を行うための「介護現場の生産性向上」が極めて重要となります。例えば、ICTの利活用に関して▼見守りセンサーの導入に伴う通信環境整備(wi-fi)補助を新設する▼見守りセンサーの1事業所当たりの補助限度台数を拡大する▼ケア記録の電子化を推進する(CHASE対応など要件に対応するソフトウェアが登場している)―ことを強調したほか、地方版の「介護現場革新会議」を各自治体で設けて、業務改善事例等と横展開してほしいと要請しました。
また、介護業務の仕分けを行ったうえで、▼介護福祉士等は介護業務に専念する▼周辺業務は元気高齢者やボランティアが担う▼ICTを活用した電子ケア記録や見守りセンサー等も十分に活用する―などの役割分担を行う「業務効率向上のためのパッケージ化」を推進する考えも大島老健局長は示しています。
さらに介護現場革新の一環として「文書負担軽減」も協力に推進されます。介護文書について▼簡素化(重複の排除など)▼標準化(異なる自治体間でも可能な限り同じ様式とする)▼ICT化―を並行して進められ(当面、向こう3年を目途)、介護事業所・施設の指定申請、介護報酬に関する届け出や請求、指導監査の各場面で介護現場の負担が今後、大きく軽減されることが期待されます。2021年度に予定される次期介護報酬改定でも重要なテーマの1つとなるでしょう。
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