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2020年度診療報酬改定、働き方改革や医療機能の分化・連携強化など推進せよ―中医協・公聴会

2020.1.24.(金)

2020年度の次期診療報酬改定に向けて、「医療従事者の働き方改革」や「医療機能の分化・強化、連携の推進」の診療報酬でのサポート、さらに「オンライン診療の推進」「緊急時の複数名訪問看護」などを検討すべき―。

1月24日に開催された中央社会保険医療協議会の公聴会で、現場関係者からこういった要望が出されました。

1月24日に開催された、「第447回 中央社会保険医療協議会 総会(公聴会)」

働き方改革の診療報酬でのサポート、支払側代表から「対象病院を限定せよ」との声

公聴会は、中医協委員と厚生労働省の担当者が地方に赴き、診療報酬改定に関する一般市民の意見を聞き、改定内容に反映させることが狙いです。2020年度の次期診療報酬改定に向けた公聴会は、1月24日に静岡県富士市で開催されました。

意見発表を行ったのは10名で、▼健康保険組合▼労働組合▼協会けんぽ▼国民健康保険―の関係者に患者代表を加えた支払側5名、▼クリニック▼病院▼歯科医院▼調剤薬局▼訪問看護ステーション―の診療側5名、という構成です。

意見は多岐にわたりますが、(1)医師をはじめとする医療従事者の働き方改革の推進(2)医療機能の分化・連携の推進、とくに「かかりつけ医・歯科医・薬剤師」機能の推進―の2点の重要性については、診療側・支払側双方の「共通認識」であると言えます。もっとも、細部については当然、異なる見解が示されており、今後の調整の難しさを伺わせます。

まず(1)の働き方改革については、これまでの中医協論議で▼「地域医療確保」の観点から早急に対応が必要な救急医療体制等の評価▼「医師等の長時間労働」などの厳しい勤務環境を改善する取り組みの評価▼タスク・シェアリング/タスク・シフティングのためのチーム医療等の推進▼業務の効率化に資するICT利活用の推進―などの方向性が示されています。

このうち「救急医療体制等の評価」は、極めて過酷な勤務環境にある救急医療を維持するために、救急搬送受け入れ件数が特に多い医療機関について、勤務医の負担軽減等に向けた取り組みを評価するもので、後に少し触れる「特別の財源」(消費税を財源とする公費126億円、いわゆるプラス0.08%分)に概ね該当するものです。この点について労働組合代表の立場で出席した町田義和氏(日本労働組合総連合会静岡県連合会副事務局長)は「勤務医の過重労働の解消が重要である。診療報酬でのサポートは『働き方改革に積極的に取り組む医療機関』のみを対象とすべき」と要望。また企業代表の立場で出席した岡村修氏(株式会社オカムラ代表取締役、島田市商工会会長)も「勤務医のマネジメント改革に向けて成果を上げている医療機関のみを対象に、診療報酬での評価を行うべき」と求めました。

中医協総会や社会保障審議会において、支払側委員や学識者からは「医療従事者の働き方改革の重要性に疑いはない」との前提に立ったうえで、「一般企業では働き方改革への財政的サポートは行われない。医療機関に手当を行う場合には、その点を踏まえることが重要である」旨の指摘がなされていました(社保審・医療部会における議論の記事はこちらこちらこちらこちら)。このため、診療報酬改定率において「消費税」を財源(つまり医療保険財源とは形式上、別個で)とした医師働き方改革のサポートが特例的な対応として認められています。

今般の公聴会で出された2氏の意見は、さらに「対象医療機関を適切に限定すべき」ことを求めるものです。今後の中医協論議の中で、どのような施設基準・算定要件等を設定するのか注目が集まります。

医療現場は「タスク・シフティング」「フォーミュラリ」をどう見ているのか

一方、病院代表の立場で出席した小林利彦氏(浜松医科大学医療福祉支援センター特任教授、静岡県医師会理事)は、「働き方改革では、タスク・シフティングとして特定行為研修修了看護師や医師事務作業補助者に過度な期待が寄せられているが、採用は非常に難しく、非常勤でなければ確保できないのが実際である」とし、診療報酬算定上の施設基準緩和や業務制限の緩和、さらに評価の充実が必要と訴えています。あわせて同氏は「救急搬送件数の特に多い医療機関の評価だけでなく、中小規模の救急医療機関の評価も検討すべきである。こうした医療機関が救急対応を中止すれば、救急医療の基幹的病院へ大きな打撃となる(比較的軽症な患者も3次救急に集中し、パンクしてしまう)」ことに留意すべきと強調しました。

なお、同氏の所属する浜松医科大学病院では「フォーミュラリ(院内使用ガイド付きの医薬品集)」を我が国において先駆的に進める病院としても知られています。フォーミュラリとは、医療機関等が作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことで、「●●疾患には第1選択としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストのイメージです。採用医薬品を集約化することで「経営の質」が向上する(医薬品の購入コストを抑えることが可能)とともに、何よりも「医療の質」向上が期待できます。この点、同氏は「フォーミュラリ導入に特段の困難はなかったが、地域や病院によって、どの医薬品へ集約するかは異なってくる。まず大学病院でフォーミュラリ導入に向けた『薬剤選択の手法』を学んではどうか」との見解を示しました。2020年度の次期改定に向けて「特定機能病院におけるフォーミュラリ導入の評価」が検討されましたが、時期尚早との声が強く見送られた格好です。ただし支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「極めて重要である」と強く指摘しており、2022年度以降に向けて議論が継続される可能性が高いと考えるべきでしょう。

浜松医科大学病院におけるフォーミュラリの一部(中医協総会(2)4 191213)

急性期一般1、支払側代表は「真に急性期入院医療が必要な患者」への限定を要請

また(2)の「医療機能の分化、連携の推進」に関しては、医療保険者代表の立場で出席した河西徹也氏(静岡県自動車販売健康保険組合常務理事)から「急性期一般病棟入院料1(旧7対1)の重症患者割合(一般病棟用の重症度、医療・看護必要度を満たす患者の割合)を厳格化して、入院患者を『真に高度急性期、急性期の入院医療が必要な患者』に限定する必要がある」との考えが示されました。

この点については、1月15日の中医協総会に「看護必要度項目の見直しによって、重症患者割合がどう変化するのか」のシミュレーションが示され、支払側の幸野委員らから「急性期一般1の基準値を、現行の『30%以上』から『35%以上』に引き上げるべき」との提案がなされました。2018年度改定では「下位25パーセンタイル値に相当する『30%以上』に基準値が設定され、計算上は4分の1程度が7対1からドロップアウトすると見込まれたが、実際にはほとんどが7対1である急性期一般1を維持していた」状況に鑑み、「下位25パーセンタイル値よりも厳格な基準値の設定」を求めているものです。

急性期一般1・急性期一般4の重症患者割合の変化試算(中医協総会(1)3 200115)

2018年度改定では、結果として下位25パーセンタイル値が重症患者割合の基準値となった(中医協総会(1)6 200115)



もっとも、この提案には診療側委員がこぞって「あまりに非現実的である」との批判が相次いでおり、今後、中医協総会で議論を重ねていくことになるでしょう。なお、病院代表として出席した小林氏はこのテーマに関連して「地域医療を支える中小規模病院の経営安定化が重要である」と訴えています。

かかりつけ医機能の評価、支払側・診療側代表がそれぞれの立場から要望

また医療保険者代表の河西氏は、かかりつけ医機能を評価する「機能強化加算」について「患者が、この医療機関はかかりつけ医機能を持っているのであるな」と受診前に判断できることが重要であるとの考えの下、「機能強化加算の取得に当たっては、診療前に『かかりつけ医の重要性』や『かかりつけ医を受診する場合の患者のメリット』などを文書をもって丁寧に説明する子を要件に加えるべき」との考えも強調しました。こうした説明より「当該医療機関の信頼性も増す」と同氏はコメントしています。

これに対しクリニック代表の立場で出席した赤堀彰夫氏(あかほりクリニック院長、静岡県医師会副会長)は「クリニックは、総合的な診療能力を持つと同時に、1つ1つが専門医療機関の役割を果たしており、地域全体を1つの大病院と捉えることが重要である」と指摘したうえで、個々の専門機能を持つクリニックの経営安定に向けて「かかりつけ医機能を評価する【機能強化加算】【地域包括診療加算】などの要件緩和が必要である。一部の診療科や地域のクリニック以外にとって、これらの加算のハードルは高い」と要望しています。

関連して同氏は、「産科、小児科など少子化対策に重要な診療科への資源配分」が重要であるとし、具体例として「経膣・経直腸での超音波検査」の評価を十分に行ってほしいと求めています。

オンライン診療による「かかりつけ医と専門医の連携」を難病患者代表が強く要請

一方、患者代表の立場で出席した石原八重子氏(ファブリー病・ライソゾーム病患者支援団体Fabry Next代表)は、自身の難病診断・治療等の体験も踏まえて、次の点を要望しました。

▽企業等での配慮(適切な休憩の確保や配置転換など)により「就業継続」が可能な難病患者も少なくなく、この点について医師からの医学的な判断による支援(情報提供など)をお願いしたい

▽オンライン診療による「かかりつけ医」と「専門医」との連携などを十分に進めてほしい

後者は、難病患者がかかりつけ医を受診した際に、オンライン(ビデオ通話など)で遠方の専門医の診療を受ける、いわゆる「D to P with D」形態などが考えられます。難病の専門医は少なく、患者にとっては専門医のもとを訪れるだけでも一苦労です(検査・診断と少なくとも定期的に2度の受診が必要となる)。この点、中医協総会では「オンライン診療」の対象について難病患者等にも拡大する方向での検討が進められており、今後の具体的な要件設定等に期待が集まります。

オンライン診療料等の見直し(その4)(中医協総会(2)4 191218)

夜間等の緊急の訪問看護における「複数名訪問」の評価充実を要望

一方、訪問看護の立場で出席した櫻井悦子氏(聖隷訪問看護ステーション千本所長)は、▼夜間等の緊急時に複数名で訪問看護を行う場合の評価(現在の複数名訪問看護加算とは別の評価)▼大規模な訪問看護ステーションが地域の「核」となり、周辺の中小規模訪問看護ステーションと連携する仕組みの強化―が重要であると提案しています。

機能強化型訪問看護ステーションでは24時間対応が求められ、これが在宅療養を行う患者・家族の安心感に大きく貢献しています。24時間対応であり、当然、深夜等の緊急要請に応じるケースも多くありますが、看護師の多くは女性であり、例えば「夜間に1人で患者宅を訪問する」ことのリスクなども考慮しなければなりません。同氏は「大規模な訪問看護ステーションであれば複数名対応が可能となるが、報酬上の評価が不十分である」とし、夜間等の緊急時における複数名訪問の評価を提案しているのです。これは訪問看護ステーションの大規模化・機能強化の推進にも資する提案と言えます(診療報酬での評価があれば、スタッフの増員が可能(大規模化)で、結果として24時間対応などの機能強化も図れる)。

また同氏は「自ステーションでは『訪問看護の認定看護師』資格取得を推進しているが、研修受講のために1年近く自ステーションの業務遂行が難しくなってしまう。その間のサポート制度も種々あるが十分とは言えず、ステーション側の持ち出しになってしまう」ことも指摘し、サポートの充実等を要望しています。



2020年度の次期改定に向けた国民の意見聴取は「パブリックコメント募集」という形でも行われています(1月15-22日)。中医協の田辺国昭会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、公聴会とパブリックコメントの双方の意見も踏まえて、これから「詰めの協議」を行っていく考えを述べています。



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中医協・基本小委、支払側が「看護必要度や地域包括ケア病棟などの厳格化」を強く要望
2020年度診療報酬改定に向け、「看護必要度」「地域包括ケア病棟」などの課題を整理―入院医療分科会
ICU、看護必要度とSOFAスコアを組み合わせた「新たな患者評価指標」を検討せよ―入院医療分科会(2)
A項目1点・B項目3点のみ患者、療養病棟で該当患者割合が高いが、急性期の評価指標に相応しいか―入院医療分科会(1)
病院病棟への「介護福祉士配置とその評価」を正面から検討すべき時期に来ている―入院医療分科会(3)
ICUの「重症患者」受け入れ状況、どのように測定・評価すべきか―入院医療分科会(2)
DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟、地ケア病棟入院料を算定すべきか、DPC点数を継続算定すべきか―入院医療分科会(1)
総合入院体制加算、地域医療構想の実現や病床機能分化を阻害していないか?―入院医療分科会(3)
救命救急1・3は救命救急2・4と患者像が全く異なる、看護必要度評価をどう考えるべきか―入院医療分科会(2)
「急性期一般2・3への移行」と「看護必要度IIの義務化」を分離して進めてはどうか―入院医療分科会(1)
【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)
診療データ提出を小規模病院にも義務化し、急性期病棟にも要介護情報等提出を求めてはどうか―入院医療分科会(3)
資源投入量が少なく・在院日数も短いDPC病院、DPC制度を歪めている可能性―入院医療分科会(2)
看護必要度の「A1・B3のみ」等、急性期入院医療の評価指標として妥当か―入院医療分科会(1)
回復期リハ病棟でのFIM評価、療養病棟での中心静脈栄養実施、適切に行われているか検証を―入院医療分科会(2)
入院で実施されていない「免疫抑制剤の内服」「膀胱脱手術」など、看護必要度の評価対象から除くべきか―入院医療分科会(1)
回復期リハビリ病棟から退棟後の医療提供、どのように評価し推進すべきか―入院医療分科会(3)
地域包括ケア病棟の実績評価要件、在宅医療提供の内容に大きな偏り―入院医療分科会(2)
点数が「DPC<地域包括ケア」時点にDPC病棟からの転棟が集中、健全なのか―入院医療分科会(1)
療養病棟に入院する医療区分3の患者、退院患者の8割弱が「死亡」退院―入院医療分科会(2)
入退院支援加算1の「病棟への入退院支援スタッフ配置」要件、緩和すべきか―入院医療分科会(1)
介護医療院の整備など進め、患者・家族の「退院後の介護不安」解消を図るべき―入院医療分科会(2)
急性期一般1では小規模病院ほど認知症入院患者が多いが、看護必要度への影響は―入院医療分科会(1)
看護必要度IとIIとで重症患者割合に大きな乖離、要因を詳しく分析せよ―中医協・基本小委
自院の急性期患者の転棟先として、地域包括ケア病棟を選択することは「問題」なのか―入院医療分科会(2)
7対1から急性期2・3への移行は3%強にとどまる、看護必要度IIの採用は2割弱―入院医療分科会(1)
2020年度改定、入院医療では「救急」や「認知症対策」なども重要論点に—入院医療分科会(2)
DPC対象病院の要件を見直すべきか、入院日数やDPC病床割合などに着目して検討―入院医療分科会(1)
2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
2020年度の次期診療報酬改定に向け、急性期一般入院料や看護必要度などを調査―入院医療分科会



2020年度に「稼働病床数を1割以上削減」した病院、国費で将来の期待利益を補助―厚労省



医師働き方改革、「新たな医療提供体制に向かうチャンス」の可能性も―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定に向け、「入院時食事療養費」の引き上げを求める声も―社保審・医療部会
「医師の働き方改革」を診療報酬でどうサポートするか、基本方針策定段階でも激論―社保審・医療部会
2020年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、病院薬剤師の評価求める声多数―社保審・医療部会



2020年度診療報酬改定を了承、「医師の働き方改革推進」を重点課題に据える―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「医師の働き方改革」だけでなく「制度の持続可能性」も重点課題とせよ―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「効率化・合理化の視点」「働き方改革の推進」「費用対効果評価」なども重要視点―社保審・医療保険部会