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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

「中等度以上の認知症・ADL低下」の高齢入院患者は自宅退院が困難、早期の手厚い在宅復帰支援が重要―都健康長寿医療センター研究所

2023.12.22.(金)

「中等度以上の認知症・ADL低下」の高齢入院患者は、自宅への退院が困難で、介護保険施設などの長期療養施設へ退院する度合が高い。早期からの手厚い在宅復帰支援が重要となる—。

東京都健康長寿医療センター研究所が12月13日に公表した研究成果から、こうした点が明らかになりました(研究所のサイトはこちら)。

「長期療養施設へ退院しなければならない」要因を9000名のレセプトから分析

認知症患者は、2018年に500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況を迎えましたが、2025年には約700万人(同じく5人に1人)、2040年には約800-950万人(同じく約4-5人に1人)に達し、さらにその後も増加が続くと見込まれます。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、本年(2023年)には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています。

認知症対策は、医療・介護・福祉の各施策が連携し、総合的に進めることが極めて重要であり、2024年度の介護報酬改定では「行動・心理症状(BPSD)発生防止にチームで計画的に取り組む介護保険施設などを新加算で評価する」などの対応が、2024年度の診療報酬改定では「かかりつけ医の認知症対応力向上」を目指すなどの対応が検討されています。また、新たな認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の保険適用も行われます。



ところで高齢の入院患者では、退院後も医療・介護が必要となるケースが少なくないため、退院先の1つとして「長期療養施設」が選択されることが多くなります(介護保険施設など)。しかし、高齢者の7割以上は「医療・介護が必要となっても自宅での生活を送りたい」と望んでいるとの調査結果もあります。

この点について都長寿医療センター研究所の石崎達郎研究部長らの研究グループでは「自宅復帰が困難で、長期療養施設へ退院しなければならなくなる要因は何か」に着目しました【長期療養施設への退院リスク】。このリスクを明確にできれば、入院早期からハイリスク者に適切な支援を行うことができ、結果「自宅復帰の可能性」を高めることが可能になると考えられます。

具体的には都長寿医療センター(東京都板橋区)に入院した65歳以上高齢者(約9000名、平均年齢79.4歳)について、レセプト情報をもとに、認知機能とADL低下の重症度を「DASC-8」(Dementia Assessment Sheet for Communitybased Integrated Care System-8 items)という指標を用いて測定。その結果から高齢者を次の3カテゴリーに分類しました。

【カテゴリーI】
→認知機能が正常、ADLが自立(62.3%:5640名が該当)

【カテゴリーII】
→軽度認知障害-軽度認知症、手段的ADL(家事や交通機関の利用などの複雑な日常生活動作)が低下(18.6%:1681名が該当)

【カテゴリーIII】
→中等度以上の認知症、基本的ADL(移動や入浴など基本的な日常生活動作)が低下(19.2%:1739名が該当)



これら3カテゴリーと「長期療養施設への退院」との関係を見ると、次のような状況が明らかになりました。

▽全体の1.2%(112名)が長期療養施設へ退院している

▽長期療養施設へ退院した人の割合は、▼カテゴリーI:0.3%、カテゴリーII:1.1%、カテゴリーIII:4.5%

▽性別や年齢などの要因の影響を統計学的に除くと、カテゴリーIIIでは、カテゴリーIよりも長期療養施設への退院リスクが2.8倍高い



ここから、「入院患者において『中等度以上の認知症がある』『日常生活動作(ADL)が低下している』場合には、長期療養施設への退院リスクが高い」と言えます。もっとも、研究グループでは、「中等度以上の認知症やADL低下のある高齢入院患者でも、入院直後から在宅復帰準備を講じることで長期療養施設への退院を予防できる可能性がある」とも指摘しています。診療報酬上は「入院直後に退院困難な者(を抽出し、早期退院に向けた支援を行う」ことを【入退院支援加算】として評価しており、「認知症患者」「ADL低下者」も対象に含まれています。今後、本研究成果も踏まえた「対象者要件の更なる明確化」なども検討していく必要があるかもしれません。

また研究グループは「病院と長期療養施設との間で患者情報(処方薬やADLなど)を共有することで、長期療養施設に退院後の有害事象が予防できる」との研究報告もあることも紹介し、「DASC-8で特定した『中等度以上の認知症・ADL低下』の高齢入院患者は、入院時から在宅復帰の準備や長期療養施設へ退院直後の有害事象に対する予防策を優先的に提供する必要性が高い」と強調しています。

本研究成果を活用して「長期療養施設への退院リスクが高い者」を同定し、適切な支援を行うことで「施設に入所せず、自宅復帰が可能となる」ケースが増えことでしょう。これは「患者のQOL向上」はもちろん、「介護費の縮減」などにもつながると期待できます。

なおDASC-8は、「認知機能」と「ADL」から認知症を検出し、重症度を評価するアセスメントツール「DASC-21」(DementiaAssessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items、21項目で評価)から「8項目」を選別したものです。より簡便に認知機能とADLの重症度を評価することができます。



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