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身体に有害とされる活性酸素は記憶形成に不可欠、抗酸化物質(ビタミンE等)の過剰摂取は好ましくない—都健康長寿医療センター研究所他

2024.3.12.(火)

身体にとって悪玉とされる「活性酸素」だが、実は「記憶の形成に必要不可欠」である。また抗酸化物質により活性酸素を除去すると「運動記憶が阻害」されてしまう―。

活性酸素を除去する作用を持つ「抗酸化物質」(ビタミンEなど)の過剰摂取は生体に好ましい影響を与えない(運動学習を阻害しかねない)—。

東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)と京都大学、東北大学の研究グループが3月6日に、こうした内容のプレスリリース「悪玉因子、活性酸素が記憶形成に必要であることを解明―抗酸化物質の過剰摂取に警鐘—」を公表しました(研究所のサイトはこちら)。

ビタミンC不足で筋力や身体活動が衰えるが、再摂取で急激に回復する

活性酸素は「酸素分子が、より反応性の高い化学物質に変化したもの」の総称で、酵素などのタンパク質や DNA などの核酸修飾をして、多くの場合は、これら分子の機能を阻害することから「老化や生活習慣病などの原因因子」「悪玉因子」として知られています。

しかし生体内では「必要な時に、必要な場所で産生される制御された活性酸素」が存在しており、これらは「生体内で重要な生理機能を担う」と考えられています。例えば、脳の中でも、運動の調節に関わる小脳に活性酸素を作る酵素が比較的多く存在します。研究グループでは「酵素由来の制御された活性酸素が、『善玉活性酸素』として小脳の重要な機能である運動記憶形成に関与するのではないか」と考え、本研究を実施。そこから次のような点が明らかになりました。

▽活性酸素を吸収する作用があり、抗酸化物質としても知られるビタミンEを、通常の2倍量っマウスに投与し続けたところ(8週間)、小脳に依存する運動記憶が顕著に阻害された

▽「活性酸素を消去する酵素」をマウスの小脳に注入して、小脳に限定的に活性酸素を除去したところ、ビタミンE過剰投与と同様に運動記憶が阻害された

小脳で運動記憶が形成される際には、小脳において「長期抑圧」と呼ばれるシナプス可塑性(脳の神経細胞の接続部であるシナプスにおいて、情報伝達が増強・減弱される、これが記憶の形成につながる)が必要となります。この点、上記の研究結果から「活性酸素が小脳依存性運動学記憶、さらに運動記憶の神経基盤となるシナプスの可塑的変化に関与する」ことが示されたといえます。

シナプス可塑性



また、「活性酸素イメージング」(神経細胞内で活性酸素濃度が上昇すると赤色蛍光が明るくなることにより、どこで活性酸素が作られたのかがわかる技術)を用いることで、「長期抑圧が起こる時には、酵素の働きによって小脳の神経細胞で活性酸素が作られる」ことも明らかとなりました。

活性酸素イメージング



ところで、生体内での活性酸素の寿命は「1秒以下」であり、また周辺のタンパク質などの生体高分子とも反応するため、活性酸素は産生後すぐに消えてしまいます。一方、シナプスの可塑的変化は数十分以上続くため、一瞬で消える活性酸素が、シナプスの可塑的変化や運動記憶のように何十分、何時間も続くには「長時間作用を持つ8-ニトロ-サイクリックGMP」が関与していることも本研究から明らかになりました(8-ニトロ-サイクリック GMP阻害薬が、運動記憶・小脳シナプスの長期抑圧を阻害することが分かった)。



研究グループでは、こうした点を総合し「生体内で活性酸素が生理活性物質として働く。『活性酸素は悪玉』とする従来の概念を覆す」(パラダイムシフトとなる)と強調。

活性酸素の役割のパラダイムシフト



あわせて、▼活性酸素を除去する作用を持つ「抗酸化物質」(ビタミンEなど)の過剰摂取は生体に好ましい影響を与えない(運動学習を阻害しかねない)▼今後、「抗酸化物質(ビタミンEなど)の適切な摂取に関する研究」や「活性酸素―8-ニトロ-サイクリック GMP の研究」が進むことで、リハビリにおける運動記憶形成の効率化や各種運動能力の鍛錬方法の開発、超高齢社会においては運動効率の亢進を通じた健康寿命の延伸や高齢者のQOL維持・促進に役立つことが期待される―とコメントしています。



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