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適切な濃度の水素ガス吸入が、新生児手術における「麻酔薬による脳障害」を防止する新戦略に—都健康長寿医療センター研究所

2024.6.20.(木)

水素ガス吸入が「麻酔薬『セボフルラン』による神経細胞死」を抑制する—。

この作用はタンパク質リン酸化の制御と関連しており、「多様な疾患で神経保護作用を示す水素」分子の新たな作用メカニズムを提唱するものである—。

東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)らの研究チームが6月19日に、こうした研究成果を発表しました(研究所のサイトはこちら)。

水素ガスによる麻酔薬「セボフルラン」の毒性を抑制するメカニズム

適切な濃度の水素ガス吸入により、麻酔による毒性から幼若神経を保護できる

水素ガス吸入は「脳梗塞や心停止による脳障害」を抑制するなど、水素分子には「抗酸化作用」と「抗炎症作用」があることが多くの研究で分かっています。しかし、なぜそのような作用があるのか、どういったメカニズムなのかは明らかにされていませんでした。

ところで、手術中の全身麻酔薬として広く使われている「セボフルラン」ですが、発達中の脳における神経毒性が懸念されています(げっ歯類の新生仔脳において、セルボプランが短時間で神経細胞の死を引き起こすことが知られている)が、水素ガス吸入により、この脳障害を抑制できることが報告されています。

そこで研究チームでは「水素ガス吸入が麻酔薬『セボフルラン』による脳神経細胞死をどのように軽減するのか」を、マウス新生仔を用いて調査しました。具体的には、新生仔マウスに麻酔薬「セボフルラン」を3時間投与すると同時に水素ガスを吸入させたところ、次のような点が明らかになりました。

▽神経前駆細胞のアポトーシスを抑制する
→アポトーシスとは「細胞が自己プログラムに従って自発的に死ぬ現象」で、麻酔薬「セボフルラン」投与では、短時間で脳神経細胞が、このアポトーシスにより細胞死することが分かっています
→麻酔薬「セボフルラン」投与は脳梁膨大部皮質の幼弱な神経前駆細胞(神経系の細胞に分化する能力を持つ幼若な細胞)でアポトーシスを引き起こしたが、水素ガス吸入はこれを著しく抑制した(とりわけ、水素濃度1-8%で最も効果的に抑制)
→麻酔薬「セボフルラン」によって、アポトーシスを引き起こす「c-Junシグナル(酸化ストレス(後述)によって誘導されるアポトーシスを仲介する細胞内シグナル伝達)」が誘導されるが、水素ガス吸入により抑制された

▽酸化ストレス(過剰な活性酸素種により細胞や組織が損傷を受ける状態)の軽減
→水素ガス吸入は、麻酔薬「セボフルラン」により誘導される脳内の脂質過酸化と酸化的DNA損傷を指標とする酸化ストレスの増加を顕著に抑制した

▽タンパク質リン酸化の変化
→麻酔薬「セボフルラン」投与により、神経発生やシナプスのシグナル伝達に関与するタンパク質でリン酸化の度合いが大きく変動していた
→水素ガス吸入により、さらに微小管関連タンパク質ファミリー(細胞内にあり、細胞の形状維持・細胞内輸送・細胞分裂などに重要な役割を果たす「微小管」という組織に結合して機能を調節するタンパク質群)のリン酸化が促進された
→こうしたン酸化の制御が酸化ストレスを抑制していると考えられる



研究チームでは、「水素分子には抗酸化作用と抗炎症作用があり、その作用メカニズムには『タンパク質リン酸化の制御』がある」「適切な濃度の水素ガス吸入により、麻酔による毒性から幼若神経を保護できる」と分析し、今後「水素ガス吸入が、手術中の新生児の脳を保護するための新たな治療戦略として期待できる」とコメントしています。



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