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2020年度診療報酬改定、支払側はマイナス改定、診療側はプラス改定を要請―中医協総会(3)

2019.12.9.(月)

2020年度の次期診療報酬改定について、プラス改定を求めるべきか、マイナス改定を求めるべきか―。

短期滞在手術等基本料をどう見直し、入院時食事療養に関する事務の簡素化をどう図っていくべきか―。

12月6日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました(12月6日の中医協総会に関する記事はこちらこちら)。

12月6日に開催された、「第439回 中央社会保険医療協議会 総会」

中医協でも2020年度の「改定率」に関する議論

2006年度の診療報酬改定から、▼改定基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中央社会保険医療協議会(中医協)で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。かつて中医協を舞台として、診療報酬改定をめぐる汚職事件が生じ、「背景には、中医協の所掌範囲・権限があまりに大きくなり過ぎたことがある」と指摘されたためです(基本方針に関する医療保険部会の記事はこちら)。

ただし、中医協が改定率設定に向けて意見を述べることは禁じられていません。そこで中医協の田辺国昭会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「2020年度診療報酬改定に向けた考え方を12月上旬に議論したい。診療側・支払側ともに意見を準備してほしい(具体的にはマイナス改定とすべきと考えるのか、プラス改定とすべきと考えるのか)」と指示。これを受け、12月6日の中医協総会には支払側・診療側の双方から医療経済実態結果等も踏まえた意見が提示されました。

支払側は、▼2022年度から団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ医療費が急増する一方で、支え手である現役世代が減少するため適正化・効率化を通じた制度の安定と持続可能性確保が喫緊かつ重要な課題である▼医療経済実態結果からは、中期的に見れば国公立・ 公的病院以外の経営状況は概ね堅調である―点を踏まえ、「2020年度はマイナス改定とし、薬価等の引下げ分は、診療報酬本体に充当することなく国民に還元すべき」と強調。

また改定内容については、「効率的・効果的な医療提供の促進」を基本方針として、▼入院、外来、在宅における患者像の適切な評価の推進▼対物業務から対人業務への転換を促す調剤報酬▼有効性・安全性を前提に経済性も考慮した医薬品処方の推進▼生活習慣病治療の継続に資するオンライン診療の適切な推進―を図るべきと提言。「医療従事者の働き方改革」については、地域医療構想の推進をはじめとする医療提供体制の「三位一体改革」の進捗状況を踏まえつつ、「医療従事者の負担軽減や医療安全の向上に明らかにつながる措置に留める」べきと強調しました(関連記事はこちら)。



一方、診療側は▼医療機関の健全経営確保▼物価・賃金の動向や医療の高度化の勘案―が重要であるとした上で、医療経済実態結果では「医療機関等は総じて横ばいの経営状況である」「医業収益(収入)全体の伸びは、一般病院、精神科病院、歯科診療所で微増、一般診療所では横ばい、保険薬局でマイナスとなっている」点を踏まえて、「薬価改定財源は診療報酬本体に充て、診療報酬改定はプラス改定とするべき」と強調。

また「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」に関しては、▼三位一体改革(地域医療構想の実現、医師偏在対策、医師・従事者の働き方改革)の推進により国民の健康寿命を延伸・持続可能な社会保障制度の実現が可能となる▼予算措置と診療報酬での対応(業務分担・共同の促進、常勤配置・専従要件の見直し、24時間対応体制の要件緩和など)との組み合わせで、現場での弾力的な運用を可能とする必要がある―とし、診療報酬でのサポートが必要不可欠であると訴えています(関連記事はこちら)。



今後、両側の意見をもとに中医協の公益代表委員で「2020年度診療報酬改定に向けた中医協意見」素案が作成され、これをベースに議論を深めていくことになります(財政制度等審議会による改定率への提言に関する記事はこちら)。

短期滞在手術等基本料3、「在院日数短縮」踏まえた点数引き下げを検討

またGem Medでお伝えしているとおり、12月6日の中医協総会では「入院医療その4」として▼地域包括ケア病棟▼回復期リハビリテーション病棟▼療養病棟―を議題としました。「地域包括ケア病棟」「回復期リハビリテーション病棟」「療養病棟」についてはすでにお伝えしており、本稿では「短期滞在手術等基本料」と「入院時食事療養費」について見てみましょう。

「短期滞在手術等基本料」については、中医協の下部組織である入院医療等の調査・評価分科会で次のような課題が確認されました。

【短期滞在手術等基本料1】(日帰り)
▽2014年以降を見ると、対象手術の多くで「外来」での実施率が上昇している

【短期滞在手術等基本料2】(1泊2日)
▽対象手術の実施回数は増加しているにもかかわらず【短期滞在手術等基本料2】での実施は減少し、2018年5月診療分の算定回数はわずか79回

▽すべての対象手術において、平均在院日数は「2日」(1泊2日)を大きく上回っている

【短期滞在手術等基本料3】(4泊5日まで)
▽平均在院日数が5日を大きく超えるもの(終夜睡眠ポリグラフィー)もあれば、5日程度のもの(ガンマナイフによる定位放射線治療など)、2日程度のもの(腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術など)もある

▽「外来」で実施される割合が高いもの(下肢静脈瘤手術、経皮的シャント拡張術・血栓除去術、小児科食物アレルギー負荷検査など)があり、外来での実施率が高くない手術についても、外来で実施することができる症例が存在している可能性がある

短期滞在手術等基本料の算定状況(中医協総会(3)2 191206)

短期滞在手術等基本料3の状況(中医協総会(3)3 191206)



この状況を踏まえると【短期滞在手術等基本料1・2】については大きな見直しが行われることも予想されましたが、厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は「現在の評価を継続する」考えを示しました。大幅見直し論議にはまだデータが足りないという判断と思われ、より詳細に実態を見ていくために「短期滞在手術等基本料1・2を算定する対象となった手術が判別できるよう見直す」考えも明らかにしています。

現在の【短期滞在手術等基本料1・2】については、【短期滞在手術等基本料3】と異なり、診療報酬点数上まとめての評価(術式別に分けられていない)となっていることから、術式ごとの内訳が明らかになりません。2020年度改定でこの点を明確にする見直しを行い、そのデータを踏まえて「2022年度以降の診療報酬改定での見直し」につなげることになるでしょう。



また【短期滞在手術等基本料3】については、術式ごとに「平均在院日数の推移」を踏まえた点数設定の見直しを行う考えを森光医療課長は示しました。例えば「ハ 前立腺生検法」については短期滞在手術等基本料3として設定された2014年度前には平均在院日数が3.61日でしたが、2018年時点では2.55日で、在院日数が1日弱短縮。この分、医療資源投入量が減少していると考えられます。27の手術・検査について1つずつ実態を精査し、「点数の引き下げを行うべきか」を探っていくことになります。

短期滞在手術等基本料3の術式の中には、設定当時に比べて平均在院日数が短縮しているものもある(中医協総会(3)1 191206)



こうした方向に中医協委員から明確な異論・反論は出ていませんが、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「短期滞在手術等基本料3のうち、1泊2日や日帰りが多いものは、将来的に短期滞在手術等基本料1・2への移行なども検討すべき」と注文を付けています。

入院時食事療養に関する帳票を病院等で簡素化

また「入院時食事療養費」については、医療従事者の負担軽減・業務の効率化を目指し▼帳票等を簡素化する▼帳票等の電子的データでの保管を認める―方向が示されました。

森光医療課長は、各種帳票を整理し、▼栄養管理体制が整っている施設(病院や栄養管理実施加算を取得する有床診療所など)では、一部を不要とする▼栄養管理体制が整っていない施設(栄養管理実施加算を取得していない有床診療所など)では、従前どおり帳票作成を必要とする―との考えを示しています。なお、給食を外部委託している施設では、その状況(全部委託なのか、一部委託なのかなど)を詳しく見て、帳票作成をどこまで簡素化できるかを探っていきます。

さらに電子カルテやオーダリングシステム等により電子的に必要な情報が変更履歴等を含めて作成・保管等されている場合、「紙での帳票保管は不要」となります。

入院時食事療養の帳票作成見直し案(中医協総会(3)4 191206)



こうした見直し方向に異論は出ておらず、今後、具体的なルールが詰められます。

なお、病院団体は「人件費や材料費の高騰により給食提供が困難になっている。入院時食事療養費の引き上げを行うべき」と強く求めていますが、財政影響が極めて大きい(すべての入院患者について、毎日必要となる)ことから、2020年度の次期診療報酬改定では見送られる模様です(関連記事はこちらこちら)。

 
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2018年度改定で新設された【急性期一般入院料1】を選択する理由はどこにあるのか―入院医療分科会
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2020年度診療報酬改定、院内調剤と院外処方の格差是正し病院薬剤師業務の適切な評価を―日病協
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2020年度診療報酬改定、「医師働き方改革」だけでなく「効率化」や「機能分化」なども重点課題ではないか―社保審・医療保険部会
2020年度診療報酬改定、「効率化・合理化の視点」「働き方改革の推進」「費用対効果評価」なども重要視点―社保審・医療保険部会



2020年度診療報酬改定に向け、「入院時食事療養費」の引き上げを求める声も―社保審・医療部会
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2020年度診療報酬改定「基本方針」論議始まる、病院薬剤師の評価求める声多数―社保審・医療部会