2019年1月末までに1260件の医療事故、73.9%で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2019.2.12.(火)
今年(2019年)1月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は26件。2015年の医療事故調査制度発足から累計1260件の医療事故が報告され、うち73.9%の931件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードはさらに向上している。ただし、制度の重要課題である「一般国民への制度周知」がまだ十分に進んでいない―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が2月5日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。
目次
2019年1月の医療事故報告件数、内科と循環器内科で4件、外科で3件など
2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです。
センターでは、重大事故について詳細を分析し、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—という6つの再発防止策を公表しています(7つめの再発防止策が公表されており、別稿でお伝えします)。
医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。
▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する
↓
▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)1月には、新たに26件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1260件となりました。
今年(2019年)1月に新たに報告された事故は、すべて病院からでした。制度発足からの累計では、病院から1188件(事故全体の94.3%)、診療所から72件(同5.7%)となっています。
今年(2019年)1月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼内科4件▼循環器内科4件▼外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科210件(同16.7%)▼内科156件(同12.4%)▼消化器科105件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.3%)―などという状況です。
センターへの相談件数は累計6400件、「国民の制度への理解」が依然、重要課題
センターに報告しなければならない医療事故は、上述したように、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。
この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問が、また、初めて事故を報告する際には「センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。
こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)1月には、新たに150件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6400件にのぼっています。
今年(2019年)1月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から55件▼遺族などから83件▼その他・不明12件―となっています。
医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので27件(医療機関からの相談の41.5%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」が16件(同24.6%)、「院内調査に関するもの」が14件(同21.5%)となりました。
一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が70件(遺族などからの相談の72.2%)にのぼっています。こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民への、制度浸透がやはり大きな課題である状況に変化はないようです。
医療機関サイドが、迅速かつ正しく医療事故を報告したとしても、一般国民が制度を正しく理解し、信頼してくれなければ制度の基盤が揺らいでしまいます。医療や制度等に十分な知識のない一般国民にも、医療事故調査制度が理解しやすい形で周知していくことが求められます。
センターへの調査依頼は新たに4件、全85件の依頼中13件でセンター調査が完了
医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自院の体制やプロセスを検証しなおすことで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。
今年(2019年)1月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では931件となりました。これまでに報告された全1260件の医療事故のうち73.9%(前月から0.3ポイント向上)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードはさらに増しており、医療機関サイドの努力や積極的な事項防止に向けた取り組みが確認できます。
なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」との思いもあると考えられます。また診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備しています。ただし、「センターが最初から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。
今年(2019年)1月に、センターになされた調査依頼は4件で、遺族から3件、医療機関等から1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は85件(遺族から68件・80.0%、医療機関から17件・20.0%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が13件(前月と変わらず)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が68件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が2件▼医療機関における院内調査の終了待ちが2件—という状況です。
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