がんゲノム医療、C-CAT登録データが2024年度中に10万件に達した!より高精度に最適な抗がん剤選択可能な環境等整う—国がん
2025.5.12.(月)
がん患者の遺伝子情報・臨床情報を国立がん研究センターの管理・運用する「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に登録されたデータが、2025年3月末時点で10万件を超えた—。
より高精度に「個々のがん患者に最適な抗がん剤を選択する」ことが可能になるとともに、アカデミアや製薬メーカーでのデータ利活用が進み、「より多くの患者に有効な治療法が届く」・「ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが解消される」ことが期待される—。
国立がん研究センターが5月8日にこうした状況報告を行いました(国がんのサイトはこちら)。
我が国のがんゲノム医療の実態も明らかとなり、医療政策面でもC-CATデータが重要
ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、▼Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である▼Bという遺伝子変異のある患者にはβ抗がん剤とγ抗がん剤との併用投与が効果的である―などの知見が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいて最適な治療法(抗がん剤)の選択が可能になれば、がん患者1人1人に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。
我が国でも、多くの遺伝子変異を一括確認できる「遺伝子パネル検査」の保険適用が進み(関連記事はこちらとこちら)、▼患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する → ▼C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する → ▼がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する―という【がんゲノム医療】の実施が始まり、充実・拡大が図られています。
こうしたがんゲノム医療は保険診療の中でも推進され(2019年6月から)、▼D006-19【がんゲノムプロファイリング検査】で「検体を採取し、検査機関などに遺伝子パネル検査を依頼し、その結果をC-CAT(国立がん研究センターに設置される「がんゲノム情報管理センターに登録する」ところまでを評価する▼B011-5【がんゲノムプロファイリング評価提供料】で「C-CATからの解析結果をエキスパートパネルで解釈し、最適な分子標的薬を選定したうえで、患者に説明を行う」プロセスを評価する—という診療報酬設定も行われています(関連記事はこちら)。

がんゲノムプロファイリング検査の評価見直し(2022年度診療報酬改定)
今般、国がんでは、「2025年3月末(2024年度)時点で、C-CATに登録された患者総数が 10万0123例となり、10万例を超える登録データが集積された」ことを明らかにしました。現在、C-CATには毎月2000例・年間2万例以上の患者のがん遺伝子パネル検査結果と臨床情報が集積されています。登録症例数が多くなれば、それだけ「個々の患者に最適な抗がん剤を高精度に選択できる」環境が整っていくと考えられ、「登録症例数が10万例を超えた」こと、今後も登録症例数が増加していくことは、多くのがん患者にとって朗報と言えます。

C-CATへのデータ登録状況
また、こうしたデータは「希少がん」の治療研究において、とりわけ有用であると考えられます。患者数の少ない希少がんのデータを日本全国から集積することで、病態の解明や治療法の開発につながっていくためです。
国がんでは、C-CATに登録された患者の特徴として「難治性の高い膵臓がん、稀な腫瘍である軟部組織、中枢神経系/脳の腫瘍などが多く含まれる」ことも明らかにし、「保険診療でのがん遺伝子パネル検査が、標準治療終了後(終了見込みを含む)の患者、標準治療の乏しい希少がんの患者に対して行われている」ことと合致するとコメントしています。

C-CATデータのがん種内訳
このようにC-CATのデータは「データベース化され、個々の患者の治療法選択に活用」されるにとどまらず、さらに「将来のがん治療」にも役立てられます。
前述のとおりC-CATには、▼がん遺伝子パネル検査で検出された「遺伝子変異」の情報▼検査前後に受けられた薬物治療の情報(薬物名、治療期間、治療効果)などの「臨床」情報—が集積されます(患者の同意が前提)。また、99%超の患者が提供した遺伝子情報・臨床情報の二次利用に同意しており(世界に類を見ない利活用可能なデータベースとなっている)、ここから厳格な審査を経たうえで「アカデミアや製薬企業などで学術研究・医薬品等開発」にもつなげられています。

C-CATデータの第三者提供状況
さらに、C-CATに集約されたデータは「日本で行われているがんゲノム医療の実情」を表しており、例えば「遺伝子変異の数が多いがん患者さんでは、がん遺伝子パネル検査後に免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボやキイトルーダなど)が主に選択されている」、「がん遺伝子パネル検査後に行われる遺伝子変異にマッチした治療は、標準治療だけでなく、治験や患者申出療養でも行われている」など、医療現場における治療選択の実態を知ることもでき、「医療政策面」でも重要な役割を担っています。

C-CATデータからの分析例
C-CATを管理・運用する国がんでは、「製薬会社やアカデミアでC-CATデータの活用が進む」→「日本人のがんの特徴やアンメットニーズが理解される」→「日本国内で多くの臨床試験・治験が行われる」→「より多くの患者に有効な治療法が届く」・「ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが解消される」という流れに期待を寄せています。
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