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公立病院改革に向け、経営人材の確保、統合・再編など進めよ―総務省研究会

2018.1.5.(金)

 今後、人口の減少、高齢化が急速に進む中で、公立病院には▽地域医療構想を踏まえた役割の明確化▽経営の効率化▽再編・ネットワーク化▽経営形態の見直し―などの点で課題がある。今後、こうした課題の解決に向けて、▼事務局の強化▼経営人材の確保・育成▼経営指標の見える化▼財政支援▼再編・ネットワーク化—などを進める必要がある。

 総務省の「地域医療の確保と公立病院改革の推進に関する調査研究会」(以下、研究会)が昨年(2017年)12月28日、こういった報告書を取りまとめ公表しました(総務省のサイトはこちら(概要版)こちら(本文))。

研究会報告書の概要(全体像)

研究会報告書の概要(全体像)

公立病院改革には「人事異動などによる経営人材確保の難しさ」などの課題

 公立病院においては、地域医療構想と整合性のとれた「新公立病院改革プラン」の策定が求められ、すでに2016年度末時点で全体の92.7%でプラン策定が完了しています。今後、各病院の策定した改革プランに沿った改革を、地域医療構想調整会議の議論と並行して進めることになりますが、研究会では改革を進めるに当たり、次の4つの課題があると指摘します(関連記事はこちらこちら)。

(1)地域医療構想を踏まえた役割の明確化の視点では、「地域医療構想調整会議に際し、公立病院としてのミッション(使命、任務、目標)やポジショニング(位置づけ)を踏まえた役割の明確化」が課題である
(2)経営効率化の視点では、「事業管理者や事務局に医療制度・実務等の専門的な知識や経営能力が求められるが、公立病院特有の『短期間での人事異動』サイクルなどから、知識・能力の蓄積」、さらに「公金による支援を受けながら医療サービスの質や採算性の向上といった改革意欲をより向上させるため、全職員の意識改革が必要となる」といった課題がある
(3)再編・ネットワーク化の視点では、「相手先医療機関との合意形成」「地域住民等の関係者の理解促進」といった課題がある
(4)経営形態見直しの視点では、「経営形態見直しの先に、何を目指すか」「地方公営企業と地方独立行政法人との間の退職給付引当金の計上方法の相違や、事業廃止などの場合に生じる多額の財政負担といった制度面」での課題がある

 さらに、とくに地方部の公立病院には「地域医療の砦」という重要な使命がありますが、地方の医師不足は深刻です。

こうした課題を放置したまま改革を進めることはできず、研究会では課題解決に向けた具体的な提言を行っています。

地域での役割明確化に向けて、「経営比較分析表」導入し、具体的手法の立案を

 まず(1)の「地域における役割の明確化」という課題には、▼経営比較分析表の導入などに基づく「見える化」の推進▼経営指標の分析に基づく取組、PDCAサイクルの展開—によって対処することが求められます。

 前者の経営比較分析表は、例えば▼経営の健全性(経常収支比率、医業収益比率、病床利用率など)▼老朽化の状況(有形固定資産減価償却率、機械備品減価償却率、1床当たり有形固定資産)—などの経営指標について、「自院の経年比較」「類似団体(同規模の公営企業)との比較」、さらに「これらのクロス分析」を可能にするものです。この経営比較分析表の導入により、「等身大の自院の姿」を確認できるようになります。その上で、単なる現状分析に終わらせないよう、【病院幹部による目標設定(収支改善などの経営目標だけでなく、コンプライアンス、公立病院として果たすべき役割などの目標も含む)】→【目標達成のための具体的な手法や行動の検討】→【これらを日常業務に結びつけるための、組織や構造の主体別に検討(部門別のアクションプランなど)】に落とし込み、これらの検証・改善につなげていくことが重要です(PDCAサイクル)。

経営幹部が大目標を立て、これを部門ごとの手段などに落とし込んでいく

経営幹部が大目標を立て、これを部門ごとの手段などに落とし込んでいく

 
 研究会では、一例として【大目標:収支改善】→【手法:医業収支の改善、職員給与費対医業収益比率の引き下げ】→【部門別アクションプラン:医師では「初診や所見時間の効率化に向けた、所見目標時間の設定」「手術開始時間の厳守」、看護師では「業務時間の効率化に向けた、バーコード管理による定型的な看護行為時間データの分析」「看護必要度と看護実施データを用いた業務量の比較」など】→【部門ごとのフィードバック】→【アクションプランの改善】というサイクルを紹介しています。
経営状況改善という大目標に向かい、各部門がどう動くかまでに落とし込んだプランを立てることが必要

経営状況改善という大目標に向かい、各部門がどう動くかまでに落とし込んだプランを立てることが必要

経営人材確保のため、「人事サイクルの見直し」を自治体と協議せよ

また(2)の「経営人材」の課題に対応するためには「公立病院の事務局の強化、経営人材の確保・育成」を行うことが必要不可欠です。このため、▼地方公営企業法全部適用の場合、事業管理者に対し人事・予算等の権限が付与されるので、▽高い知見▽経営意識▽実務能力—を有する者を選定する▼地方公営企業法一部適用の場合、知見のある現院長を事業管理者に、若手副院長を院長に登用することで、人材育成を図る▼経営実務を担う事務長・事務職員について人事異動サイクルを見直し、医療制度や病院経営に関する研修体制を構築する▼医事業務などに関しては、全てを外部委託するのでなく、中心ポストに継続的に事務職員を配置し、診療報酬改定などに的確に対応する▼事業管理者や病院長、事務長と、自治体の首長や人事部局との間で協議し、「組織・定員の適正化」を行う▼看護師その他の医療職員で経営感覚・改革意欲に富む人材を経営幹部へ登用するなどの、人事運用の弾力化を検討する—ことを提案しています。院内で可能なこと、自治体サイドとの協議が必要な事項など、さまざまですが、速やかに「検討」を開始すべきでしょう。

再編・ネットワーク化、財政支援ツールを活用し、地域医療の確保を念頭に

 また(3)の再編・ネットワーク化に関しては、総務省による「再編・ネットワーク化に伴う病院事業債の活用」を推奨しています。これは、再編・ネットワーク化では、通常の施設・設備整備よりも多くの経費がかかることを踏まえ、「通常は元利償還金の25%である地方交付税措置を、40%に拡充する」(病院事業債・特別分)ものです。

公立病院の再編・ネットワーク化で必要となる経費について、病院事業債(特別分)で措置が行われる

公立病院の再編・ネットワーク化で必要となる経費について、病院事業債(特別分)で措置が行われる

 
あわせて、再編・ネットワーク化や経営形態見直しなどに伴う精算等に要する経費について、▼再編・ネットワーク化に伴う新たな経営主体の設立等に際し、病院経営基盤の強化のために行う出資(不良債務額を限度)について、病院事業債(一般会計出資債)で措置する▼医療提供体制の見直しに伴って不要となる病院等の施設除却等に要する経費の一部を特別交付税で措置する—ことなどが講じられており、自治体はもとより公立病院の財政負担軽減にもつながるため、研究会では「これらの措置を活用できるか否か確認すべき」と強く求めています。

もっとも地方財政措置の手厚さを求め、▼対象となる病院間の距離や立地▼交通条件—などを考慮しない再編・ネットワーク化は「地域医療の崩壊」につながることも忘れてはいけません。また再編によって、結果的に「病院がなくなる(病院までの距離が遠くなる)」、「規模・機能の縮小などで、これまでどおりの医療サービスが受けられなくなる」「診療所になってしまう」という点で地域住民からの反対が生じることもあるため、「当事者間はもとより、自治体内・関係自治体間・地域の医療関係者等でしっかり認識を共有し、地域住民への丁寧な説明を行い、住民の不安を払拭し、その理解を得ることが重要」と強調しています。

総務省は、不採算地区病院への特段の財政支援を検討すべき

 一方、(4)の課題について研究会は、国に対して、「公立病院と公立病院以外の病院との統合等で『公営企業を廃止する』場合には、不良債務等に対する地方債などの発行は現行制度ではできない」といった制度面での不都合を解消するよう努めることを要望しています。

 
 なお、いわゆる不採算地区病院(150床未満で、直近の一般病院までの移動距離が15km以上となる一般病院、150床未満で、直近の国勢調査に基づく当該病院の半径5km以内の人口が3万人未満の病院)では、「とくに病院経営が厳しい」状況を踏まえ、研究会では「財政支援の充実」「医師確保措置」を要望。

また、2020年の東京オリンピック開催などの影響で建築単価が上昇していることを踏まえて、「公立病院の施設整備に係る地方交付税措置の単価について、建築単価の実勢を踏まえ、定期的な見直しの仕組みを検討すべき」と要請したものの、一方で「公立病院の建築単価が、公的病院等に比べて全体的に高い」ため、建築単価抑制策なども検討するよう求めています。

公立病院(上段)では、公的病院等(中断および下段)に比べて、建築単価が高い傾向にある

公立病院(上段)では、公的病院等(中断および下段)に比べて、建築単価が高い傾向にある

 
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