2019年2月末までに1284件の医療事故、院内調査完了は73.9%で変わらず―日本医療安全調査機構
2019.3.11.(月)
今年(2019年)2月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は24件。2015年の医療事故調査制度発足から累計1284件の医療事故が報告され、うち73.9%の949件で院内調査が完了している―。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が3月8日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。
目次
2019年2月の医療事故報告件数、外科で6件、消化器科で3件など
すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)には、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が、2015年10月から課せられています【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです。
センターでは重大事故について詳細を分析した結果を、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析—という7つの再発防止策を公表しています。
医療事故調査制度の大枠は、次のように整理できます(関連記事はこちら)。
▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する
↓
▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る
我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)2月には、新たに24件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1284件となりました。
今年(2019年)2月に新たに報告された事故は、▼病院から21件▼診療所から3件―でした。制度発足からの累計では、病院から1209件(事故全体の94.2%)、診療所から75件(同5.8%)となっています。
今年(2019年)2月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科6件▼産婦人科3件▼内科2件▼消化器科2件▼循環器内科2件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科216件(同16.8%)▼内科158件(同12.3%)▼消化器科107件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.2%)―などとなりました。
センターへの相談件数は累計6555件、国民の制度への理解は進んでいるか
センターに報告しなければならない医療事故は、上述のように、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。
この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問が、また、初めて事故を報告する際には「センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問が生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう。
こうした疑問・疑念を放置すれば、制度の信頼が失墜してしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)2月には、新たに155件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6555件にのぼっています。
今年(2019年)2月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から59件▼遺族などから86件▼その他・不明10件―となっています。
医療機関からの相談内容を見ると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので33件(医療機関からの相談の55.9%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」「院内調査に関するもの」が各10件(同16.9)となりました。
一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が68件(遺族などからの相談の79.1%)にのぼっています。ただし、こうした該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。一般国民の制度理解が重要な課題ですが、相談件数が多いところから「制度の浸透そのものは進んできている」と見ることができるかもしれません。
センターへの調査依頼は新たに1件、86件の依頼中16件でセンター調査が完了
医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自院の体制やプロセスを検証しなおすことで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。
今年(2019年)2月に新たに院内調査が完了した事例は18件で、制度発足からの累計では949件となりました。これまでに報告された全1284件の医療事故のうち73.9%(前月から増減なし)で院内調査が完了しています。
なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」との思いもあると考えられます。また診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ここでは、「センターが1から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。
今年(2019年)2月に、センターになされた調査依頼は遺族からの1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は86件(遺族から69件・80.2%、医療機関から17件・19.8%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が16件(前月から3件増)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が67件▼医療機関における院内調査の終了待ちが3件—という状況です。
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