卵巣がん、前立腺がん、膵がんの抗がん剤選択を補助する遺伝子検査を保険診療内で実施可能に―厚労省
2021.1.4.(月)
卵巣がん、前立腺がん、膵がんの抗がん剤選択を補助する遺伝子検査を保険診療内で実施可能とするために、D004-2【悪性腫瘍組織検査】とD006-18【BRCA1/2遺伝子検査】の留意事項(解釈)を一部見直す―。
厚生労働省は12月28日に通知「『診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について』等の一部改正について」を発出し、こうした点を明確にしました。1月1日から適用されています。
卵巣がんの抗がん剤選択を補助する新検査踏まえ、D004-2【悪性腫瘍組織検査】を見直し
12月23日の中央社会保険医療協議会・総会で「新たな医療技術の保険適用」が了承されたことなどを踏まえて、診療報酬算定上の留意点などを整理したものです。次の3本の通知が改正されており、本稿では(A)に焦点を合わせます。
(A)診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(3月5日付、保医発0305第1号)
(B)特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項について(3月5日付、保医発0305第9号)
(C)特定保険医療材料の定義について(3月5日付、保医発0305第12号)
まず、新たに「卵巣がん患者に対するニラパリブトシル酸塩水和物(ゼジューラカプセル100mg)の効果を事前に判定する検査機器」の保険適用が決まったことを受け、D004-2【悪性腫瘍組織検査】の留意事項(解釈)が一部見直されています。
D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の点数は、次のように設定されています。
イ 処理が容易なもの
(1)医薬品の適応判定の補助等に用いるもの:2500点
(2)その他のもの:2100点
ロ 処理が複雑なもの:5000点
このうち「ロ 処理が複雑なもの」については、患者から1回に採取した組織等を用いて同一がん種に対して実施した場合は、所定点数にかかわらず、検査の項目数に応じて▼2項目であれば8000点▼3項目以上であれば1万2000点―を算定することとなっています(「注2」の規定、なお「イ 処理が容易なもの」にも同様の規定あり)。
今般、上記新検査の保険適用に伴って、新たに次のような留意事項が設けられています。
▽卵巣がん患者の腫瘍組織を検体とし、次世代シーケンシングにより抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的として、相同組換え修復欠損(遺伝子の変異状況)の評価を行った場合は、次の所定点数を合算した点数(3万2200点)を準用して、患者1人につき1回に限り算定する
▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「ロ 処理が複雑なもの」の3項目以上(1万2000点)
▼D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」(2万200点)
▽本検査は、D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」の施設基準に係る届け出を行っている保険医療機関で実施する
〇【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」の施設基準
▼「5年以上の化学療法経験を有する常勤医師」、または「産婦人科および婦人科腫瘍の専門的な研修の経験を合わせて6年以上有する常勤医師」を1名以上配置している
▼【遺伝カウンセリング加算】(D026【検体検査判断料】の加算)施設基準を届け出ている。ただし、「【遺伝カウンセリング加算】の届け出医療機関と連携体制をとっており、当該患者に対して遺伝カウンセリングを実施することが可能である」場合はこの限りでない
〇【遺伝カウンセリング加算】に関する施設基準
▼「遺伝カウンセリングを要する診療経験を3年以上有する常勤の医師」を1名以上配置している。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている非常勤の「遺伝カウンセリングを要する診療経験3年以上の医師」を2名以上組み合わせることで、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該基準を満たしていること見做せる
▼遺伝カウンセリングを年間合計20例以上実施している
前立腺がん、膵がんの抗がん剤選択を補助する【BRCA1/2遺伝子検査】を実施可能に
また、前立腺がんや膵がんについて、適切な抗がん剤を選択するための検査(D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】)が保険診療の中で可能となり、▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】▼D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】―の留意事項(解釈)が次のように見直されます。
▽前立腺がんにおいて、▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「ロ 処理が複雑なもの」のうちの「固形がんにおけるNTRK融合遺伝子検査」▼D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」―を併せて行った場合には、主たるもののみ算定する
▽D006-18【BRCA1/2遺伝子検査】の留意事項(解釈)を次のように見直す
(1)「1 腫瘍細胞を検体とするもの」は、▼初発の進行卵巣がん患者▼転移性去勢抵抗性前立腺がん患者―の腫瘍細胞を検体とし、次世代シーケンシングにより抗悪性腫瘍剤による治療法選択を目的として、BRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子の変異の評価を行った場合に限り算定する(算定対象に「転移性去勢抵抗性前立腺がん患者」を追加)
(2)「2 血液を検体とするもの」は、▼転移性もしくは再発の乳がん患者▼初発の進行卵巣がん患者▼治癒切除不能な膵がん患者▼転移性去勢抵抗性前立腺がん患者▼遺伝性乳がん卵巣がん症候群(以下、HBOC)が疑われる乳がん若しくは卵巣がん患者―の血液を検体とし、PCR法等により抗悪性腫瘍剤による治療法選択またはHBOC診断を目的としてBRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子の変異の評価を行った場合に限り算定する(算定対象に「治癒切除不能な膵がん患者」と「転移性去勢抵抗性前立腺がん患者」を追加)
(3)「2 血液を検体とするもの」を、HBOC診断を目的に実施するに当たっては、厚生労働省がん対策推進総合研究事業研究班作成の「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版」を参照する。なお、その医療上の必要性についてレセプトの摘要欄に記載する(変更なし)
(4)「1 腫瘍細胞を検体とするもの」を、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合は、「化学療法経験を5年以上有する常勤医師」または「泌尿器科の専門知識および5年以上の経験を有する常勤医師」が1名以上配置されている医療機関で実施する(新設)
(5)「1 腫瘍細胞を検体とするもの」を、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合は、【遺伝カウンセリング加算】の施設基準に係る届け出を行っている保険医療機関で実施する。ただし、「【遺伝カウンセリング加算】の届け出医療機関と連携体制をとっており、当該患者に対して遺伝カウンセリングを実施することが可能である」場合はこの限りでない(新設、【遺伝カウンセリング加算】の施設基準は上記参照)
(6)「1 腫瘍細胞を検体とするもの」を、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合は、「注」に定める施設基準の規定は適用しない(新設、【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」の施設基準は上記参照)
(7)「2 血液を検体とするもの」を、治癒切除不能な膵がん患者に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合には、「化学療法経験5年以上の常勤医師」または「膵腫瘍の専門知識および5年以上の経験を有する常勤医師」が1名以上配置されている保険医療機関で実施する(新設)
(8)「2 血液を検体とするもの」を、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合には、「化学療法経験5年以上の常勤医師」または「泌尿器科の専門知識および5年以上の経験を有する常勤医師」が1名以上配置されている保険医療機関で実施する(新設)
(9)「2 血液を検体とするもの」を、▼治癒切除不能な膵がん患者▼転移性去勢抵抗性前立腺がん患者―に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合には、【遺伝カウンセリング加算】の施設基準に係る届け出を行っている保険医療機関で実施する。ただし、「【遺伝カウンセリング加算】の届け出医療機関と連携体制をとっており、当該患者に対して遺伝カウンセリングを実施することが可能である」場合はこの限りでない(新設、【遺伝カウンセリング加算】の施設基準は上記参照)
(10)「2 血液を検体とするもの」を、▼治癒切除不能な膵がん患者▼転移性去勢抵抗性前立腺がん患者―に対し抗悪性腫瘍剤治療法選択を目的として実施する場合には、「注」に定める施設基準の規定は適用しない(新設、【BRCA1/2遺伝子検査】の「1 腫瘍細胞を検体とするもの」の施設基準は上記参照)
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