2040年頃の医療提供体制像を描き、そこからバックキャストで「診療報酬の在り方」を考えることが重要ではないか―日病協
2024.10.25.(金)
2040年頃を見据えた「新たな地域医療構想」策定論議が進んでいる。そこで「2040年頃の医療提供体制の姿」(将来像)を想定し、そこからバックキャストで「診療報酬の在り方」を考えることはできないか―。
とりわけ人口減の進む過疎地などでは、人材配置を評価する現在の「structure評価」から、徐々に「process評価」へと移行していくことが必要である—。
10月25日に開かれた日本病院団体協議会の代表者会議でこうした議論が行われたことが、会議終了後の記者会見で、仲井培雄議長(地域包括ケア推進病棟協会会長)から明らかにされました。
過疎地などに目を向け、「人材配置を評価するstructure評価」からの脱却を
Gem Medで報じているとおり、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の3病院団体が行った2024年度の「病院経営定期調査」では、「病院経営が極めて厳しい状況(減収・減益)に陥っている」状況が明らかとなり(関連記事はこちら)、また2040年頃を目指す「新たな地域医療構想」の策定論議が厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で進められています(関連記事はこちら)。
2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達することから、急速に医療ニーズの増加・複雑化が生じます。こうした事態に対応できる効果的・効率的な医療提供体制を地域ごとに構築するため、【地域医療構想】の実現が求められています(関連記事はこちらとこちら)。
さらに2025年以降は、高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、▼85歳以上の高齢者比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、認知症高齢者の比率が高まる)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で、多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療提供体制」の構築がますます重要になってきます。
また、こうした人口構造の変化は、地域によって大きく異なります。ある地域では「高齢者も、若者も減少していく」ものの、別の地域では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに別の地域では「高齢者が増加する一方で、若者が減少していく」など区々です。
こうした状況を背景に「2040年頃を見据えた新たな地域医療構想」を策定し、これに基づいて医療提供体制を地域ごとに改革していくことが求められているのです。
現在の地域医療構想では「病床・病棟の機能分化」がメインターゲットとなっていますが、「新たな地域医療構想」では、「病床・病棟の機能分化」にとどまらず、▼医療機関の機能分化(関連記事はこちらとこちらとこちら)▼外来医療▼在宅医療▼医療・介護連携▼医師働き方改革▼医師偏在対策▼医療DX —など、いわば「医療提供体制全体の将来像」を描くものと位置付けられており、非常に幅広い領域の検討が行われています。
「新たな地域医療構想」の取り組みが進む中では、当然、医療提供体制の姿が今とは大きく異なるものになり、「病院経営の在り方も変化していく」ことになります。これは、「病院経営の礎となる診療報酬」についても、その在り方を変えていく必要があることを意味します(介護サービスを評価する介護報酬も含めて)。
この点について地域包括ケア推進協議会や全国自治体病院協議会、日本病院会、全日本病院協会など15の病院団体で構成される「日病協」では、次のような問題意識をもって診療報酬改革に向けた議論を進めています(関連記事はこちら)。
▽現在の診療報酬は「人材の配置を評価する」もの(いわゆるstructure評価)となっている
▽しかし、例えば人口減が進んでいる過疎地では医療人材の確保が極めて困難となり、結果、診療報酬の算定が難しい(=経営が厳しくなる)
▽今後、診療報酬は「structure評価」から、徐々に「process」や「outcome」を評価するものへと見直していくべきである
この議論は「2026年度に予定される次期診療報酬」よりも、さらに先の「2040年、2060年における診療報酬」を見据えたものです。
10月25日の日病協代表者会議(15病院団体の会長・副会長クラスによる協議の場)でもこの議論が継続され、例えば次のような考えが示されたことが仲井議長から報告されました。
▽2040年、2060年頃の医療提供体制などを念頭に置いて、そこからバックキャストで「診療報酬の見直し」を議論していけるとよい(まず「2040・60年頃の医療提供体制を適切に評価する診療報酬の姿」を想定し、それを実現するために「2035年、30年、2026年度にはどのようなう診療報酬改定を行えば良いか」を考えていくイメージ)
▽「structure評価」から、徐々に「process評価」や「outcome評価」へと移行していくべきで、とりわけ当面は「process」に重きを置いた評価へと見直していくべきではないか
▽とりわけ過疎地や地方では人材確保が一層困難となるため、そうした地域での医療提供体制確保に目を向けて、「structure評価」から「process評価」への移行を進めるべきである
もっとも、具体的な「process評価」の指標について、日病協代表者会議では「例えば現状では【重症度、医療・看護必要度】が該当するのではないかと考えられるが、将来(2040年、2060年頃)にどういった指標が適切なのかは軽々には論じられない」との考えにとどまっているようです。
2040年、2060年頃には、例えば「AI」(人工知能)がさらに発達し、医療現場にも様々な場面・形で実装されていると想定されます。しかし、具体的に「どの分野で、どこまでをAIが担ってくれるのか」を見通すことは困難です。このため、「具体像からprocess評価指標を導き出す」ことが難しいのです。
上述した「重症度、医療・看護必要度」についても、医療内容が変化していく中では項目の見直しなどが進み、さらに「重症度、医療・看護必要度」に代わる「新たな患者状態の評価指標」が開発・実装される可能性もあります。
このため、日病協サイドで「具体的なprocess評価を考えていく」のではなく、例えば中央社会保険医療協議会や厚生労働科学研究などでの「process評価指標の策定論議」に対し、医療現場の声を伝えていく形になりそうです(病院サイドの「現場に基づく考え」を物申していく形)。
日病協は、「2年に一度の診療報酬改定に向けて、病院団体が足並みを揃えて意見・要望を発信していく」ために設けられました。上記の議論は、「目の前の報酬改定」にとどまらず、「より長期的な展望に立って診療報酬の在り方を模索していく」ものと言え、今後の日病協代表者会議の行方に注目が集まります。
地域によっては自治体と医療現場の考えに差があり「回リハのベッド過剰」という問題も
ところで「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、▼今後、高齢救急患者への急性期治療・リハビリ・栄養補給・在宅復帰などの医療機能がさらに重要となることを踏まえ、新たな地域医療構想・病床機能報告では、「回復期」機能にpost acute機能だけでなく、sub acute機能も含むことを明確化し、定義・名称を見直す▼これにより「見かけ上、急性期病床が過剰で、回復期が不足している」という問題も解消できると期待できる—という方向が概ね固められています。
この点に関連して、日病協代表者会議では「地域によっては、自治体(都道府県)サイドの『回復期病床が不足している』という見解と、医療提供者サイドの考え・意向との間にミスマッチがあり、『回復期リハビリテーション病棟のベッドが増えすぎている』事態が起きている」ことが報告されています。
Gem Medでも報じているように、地域医療構想(患者数からベッド数を推計)と病床機能報告(病棟単位での報告)とでは「ベッド数に乖離」が必ず生じること、現在の回復期機能は「専ら回復期リハビリテーション病棟をイメージする」定義となっていることから、「見かけ上、回復期病床が不足する」地域が少なからず出ています。これが上述の「回復期リハビリテーション病棟のベッド数過剰」につながっている可能性もあります。
新たな地域医療構想では、「回復期機能」について定義や名称の見直しが行われ、こうしたミスマッチ発生が防止されることに期待が集まります。
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