薬物療法が奏功しない高齢者の慢性腰痛、「固有感覚機能」診断・向上装置の使用で改善が期待できる—国立長寿医療研究センター
2024.7.31.(水)
薬物治療やリハビリテーションでも改善しない「高齢者の慢性腰痛」に対して、「固有感覚機能」を診断した上でこの機能を高める特殊機器を使用することで腰痛の改善が期待される—。
国立長寿医療研究センターが7月22日に、こうした研究成果を明らかにしました(研究センターのサイトはこちら)。
「固有感覚機能」を診断・向上する装置を開発
「固有感覚機能」(proprioception)とは、体の各部分の位置、動き、筋収縮の状態などを感知する深部感覚で、ヒトの「姿勢を制御」する重要な機能です(目を閉じていても、足の位置や体の向きがわかる)。筋紡錘やパチニ小体といった固有感覚受容器が機能し、脳で感知することなく骨格筋と脊髄の間で反射的に調和が保たれています。
近年、この「固有感覚機能」が低下することが、腰痛の一因であるとの研究報告が行われており、▼高齢の腰痛患者に特徴的な固有感覚機能異常の特定▼加齢に伴い筋肉が減少するサルコペニア患者で、さらに固有感覚機能が低下する—ことが分かってきています。
そうした中で研究センターは、名古屋工業大学と共同で「機能低下した固有感覚受容器を特定し、特殊な振動刺激を加えることで固有感覚機能を賦活化できる装置」を開発。この装置は▼30-240Hzの振動刺激を体に連続的に与え、重心動揺計により生体反応を評価することで「固有感覚機能を診断」する▼機能低下した固有感覚受容器に対し、呼応する周波数刺激を付与することで「固有感覚機能を向上」させる—ものです。
さらに今般、「薬物療法が奏功しない、6か月以上持続する慢性腰痛をも65歳以上の患者」56例を対象に、この固有感覚機能診断装置を用いた診断・治療を実施。そこから次のような成果が得られました。
▽32例(57.1%)で「固有感覚機能の低下」が認められた
▽32例に、機能低下した固有感覚受容器を賦活化する特殊な振動装置を搭載した治療機器を自宅で2週間、体に当てたところ、▼81.3%で固有感覚機能の改善が▼うち73.1%で腰痛の改善が—みとめられた
▽治療終了から2週経過観察すると腰痛と固有感覚機能ともに悪化が認められた
こうした結果から、「固有感覚機能診断装置を、固有感覚機能の低下を伴う慢性腰痛患者に使用することで、腰痛と固有感覚機能の改善が期待される」と考えられます(少なくとも治療による短期的な効果が期待できる)。
研究センターでは、「高齢者の慢性腰痛は薬物療法に頼るところが大きく、骨粗鬆症やサルコペニアを合併していることも多く、治療に難渋することも少なくない。固有感覚機能診断装置は、従来、臨床的に困難であった『固有感覚機能の診断』を詳細に行い、かつ治療も同時に行える優れた機器である。今後の本装置普及が慢性疼痛治療にとって福音となる可能性がある」と期待を寄せています。
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