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病床機能報告 DPC特定病院群への昇格・維持のために今やるべきこと

介護予防等に重要な筋トレ、「キツいプログラム」だけでなく、「長時間の軽い負荷のプログラム」でも効果期待—都健康長寿医療センター

2024.8.5.(月)

「運動、とりわけ筋トレによって骨格筋の量を維持・改善する」ことが介護予防や身体障害・慢性疾患のリスク低減に重要である—。

筋トレについては、従来から「『8-15回程度で限界がくる負荷』をかけてしっかり追い込み、それを3セット実施する」標準法が推奨されているが、必ずしも、これこだわる必要はなく、一定程度の長時間、軽い筋トレを行うことでも効果を上げると考えられる—。

東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が8月1日に、こうした研究成果を発表しました(研究所のサイトはこちら)。

「運動時間」が長ければ、筋トレの負荷の大きさや速度を柔軟に決めて良い

2022年度から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、来年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。高齢化の進展は「要介護者、要支援者の増加」につながるため、「介護予防」などの施策が非常に重要となります。

ところで、加齢に伴って骨格筋の量が減少します。骨格筋は運動や日常の移動に直接的に関わる運動器であるだけでなく、身体全体の代謝においても重要な役割があるため、「骨格筋の量を維持・増進する」ことが身体障害や慢性疾患のリスク低減、介護予防などのために有効と言えます。

この点、骨格筋は「運動、とりわけレジスタンストレーニング(筋トレ)によって、年齢に関係なく骨格筋の量を維持・改善できる」ことがわかっています。

そこで、研究所では「ラクに実施できて、さらに効果的な方法」、具体的には「標準法」にとらわれずに、「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」などを柔軟に組み合わせて効果的なプログラムの構成に関する研究を行いました。

まず、「標準法」について確認しておきましょう。

一般に、筋トレのプログラムは「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」などを効果的なトレーニングになるように組み合わせ、標準法では、「8-15回程度で限界がくる負荷をかけてしっかり追い込み、それを3セット実施」します。個々人の能力に合わせて、例えば、「おもりを使う」「動作のスピードを遅くする」(筋力の高い人ではおもりによる負荷、ゆっくりした動作による負荷をかける)などして「8-15回程度で限界がくる」トレーニングを見出し、これを3セット行う、という「キツい」ものです。

筋トレプログラムの構成要素



今回の研究では、この「標準法」に捉われず、「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」などを柔軟に組み合わせた効果的なプログラム構成が目指されました。

そこでは「トレーニング効果」に数理モデルによる予測が行われました。

あるトレーニングプログラムが効果的かどうかを調べるには、そのプログラムで筋トレを一定期間、複数名が実施してもらい、トレーニング前後で「どれくらい骨格筋の量が増えたか」を評価する必要がありますが、個人差が大きいため時間や労力がかかりすぎます。

これまでの動物を用いた研究結果からは、「骨格筋の中でも、速筋線維をなるべく沢山動かすこと」が骨格筋量の改善に重要と推察されます。速筋線維は「大きな力を出す時」「素早い動作を行う時」に使われる筋肉で、日常生活では「動きを急に止める」動作で使われるため、「転倒の防止」といった点でも活躍します。また加齢に伴い、骨格筋の中でも「遅筋線維」よりも「速筋線維」が減少しやすい傾向にあります。このため「筋トレで速筋線維をしっかり動かす」ことで骨格筋の量を改善していくことが重要となります。

しかし、「筋トレ中に速筋線維がどれくらい活動したか」を測定する方法はありません。そこで、これまでの研究から得られた「骨格筋に関する生理学的知見」を数式化して、筋トレを実施したときに「速筋線維がどれくらい活動(=筋力を発揮)するか」を予測する数理モデルを構築しました。この数理モデルから「ある筋トレプログラムに、どの程度のトレーニング効果があるか」を予測できると期待されます。

数理モデルの概要



次に、一定の基準で選定した筋トレの介入研究23篇で報告されている「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」から、構築した上記数理モデルを用いて「そのプログラム中に速筋線維がどれくらい活動したか」を予測し、それと「トレーニング効果」がどのような関係にあるかを調べました。その結果、次のような点が明らかとなりました。

▽トレーニング効果は▼速筋線維の活動量(力×時間)▼「負荷の大きさ」—の2要素で説明できる

▽「負荷の大きさ」よりも「速筋線維の活動量(力×時間)」のほうが、トレーニング効果との関連が強い

速筋繊維活動量、負荷の大きさ、トレーニング効果の関係



この関係を利用して、幅広いトレーニングプログラムについて「トレーニング効果」を予測すると、「反復回数ではなく運動時間を規定した場合のトレーニング効果」は下図のように予測されます。

数理モデルから予測した、負荷の大きさ、動作のスピードと筋量増加率の関係



この図からは「1セットあたりの『運動時間』が長ければ、負荷の大きさや速度を柔軟に決めて良い」可能性が伺えます。具体的には、一定程度長い時間のトレーニングであれば、強度や速度は柔軟に設定しても、効果を上げることができると期待されます。

研究所では、こうした研究結果を踏まえて「これまで標準法(8-15回程度で限界がくる負荷をかけてしっかり追い込み、それを3セット実施する)が筋トレとして推奨されてきたが、トレーニング効果を生み出すためのプログラムは実は多様性に富んでいて、従来、推奨されていた『キツいプログラム』に必ずしもこだわる必要がない」ことが示唆されたと結んでいます。なお、今回の研究は「数理的な予測」であり、「現実に則しているか」を検証すべき点はまだ残されており、さらなる研究に期待が集まります。



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