「医師偏在の解消」、地域医療構想や医師働き方改革と合わせ総合的な検討が必要―社保審・医療部会(1)
2022.3.1.(火)
将来の医療需要の変化を踏まえた「医師養成数」の在り方、地域・診療科の医師偏在の是正・解消については、「地域医療構想の実現」や「医師働き方改革」などと合わせ、総合的に検討していく必要がある―。
初診からのオンライン診療を解禁する指針改訂が行われたが、その中で「診療前相談」によるオンライン診療の可否判断という仕組みが盛り込まれた。診療前相談は処方や診断を行わないとされているが、「診断」との線引きは実際のところ非常に難しい。適切かつ安全にオンライン診療が実施されるよう、実態把握などを十分に行う必要がある―。
2月28日に社会保障審議会・医療部会が開催され、こういった議論が行われました。医師偏在対策は、「地域医療構想の実現」「医師働き方改革」とセットで進めなければならない政策テーマであり、今後、第8次医療計画作成論議を進める中でも最重要ポイントの1つになります。
また、放射性医薬品を用いたがん治療を「特別措置病室」で実施するための基準設定(厚生労働省令改正)についても報告されており、別稿で報じます。
医師需給の在り方、医師偏在の解消、地域医療構想なども踏まえた総合的な検討が必要
「地方で医師が不足している」という問題を解消するため、2008年から臨時的な医学部入学定員の増員が行われてきています。しかし、「人口動態」「受療行動の変化」「医師の働き方改革」など様々な要素を踏まえて医師の需要(ニーズ)と供給(医師数)とを試算すると、次のように「早晩、医師過剰になる」ことが分かっています。
▼医師の時間外労働を年間960時間以下(医師働き方改革のA水準)程度にした場合には、2029年頃に約36万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(従前の推計に比べて均衡および医師過剰となる事態の発生が1年遅れる)
▼医師の時間外労働を年間720時間以下(一般労働者と同水準)程度にした場合には、2032年頃に約36.6万人で医師の需要と供給が均衡し、その後は医師過剰となる(同1年早まる)
このため「医療従事者の需給に関する検討会」とその下部組織の「医師需給分科会」(以下、検討会等)で、医師の需要と供給を踏まえた「医師養成数」の検討が進められてきました。
この点、上述のように「早晩、医師過剰になる」点からは「医師の養成数を抑えていく」、つまり「医学部入学定員を減員していく」ことが必要です。医師がニーズに比べて過剰であれば「将来の医師の生活基盤が極めて不安定になる」「不適切な医療需要の掘り起こしが生じ、医療費の高騰→医療保険制度の逼迫を招く」などの問題が生じてしまいます。
しかし、日本全国をマクロで見ると「医師過剰」にはなるものの、ミクロで見ると「医師が不足する地域」が数多く存在しているため、「医師の養成数を抑えていく」「医学部入学定員を減員していく」方針を明確にすることが困難な状況です。
検討会等では、こうした状況を再確認したうえで、「第8次医療計画等に関する検討会において医療計画や地域医療構想と一体的に議論されることが望ましい」などの考えを示しています(関連記事はこちら)。
こうした考えを踏まえて、2月28日の医療部会でもこの点を議論。様々な角度から、多くの意見が出ており、「議論の難しさ」が改めて浮き彫りとなりました。
▼女性医師が増加する中で、出産・育児などで職場を離れなければならない部分をカバーするための男性医師数の増員を考えるべきである(山崎學委員:日本精神科病院協会会長)
▼男女関係なく、医師に「ワークライフバランスのとれた働き方」を可能とする制度設計が重要である。「若手の男性医師を酷使して医療提供体制を確保する」という概念を変えるところから始めなければならない(木戸道子委員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長、松原由美委員:早稲田大学人間科学学術院准教授)
▼「1県1医大」の仕組みを考え直す時期に来ている。人口が60万人に満たない県(東京都の特別区(23区)1つよりも人口規模が小さい)に医学部を設置しているが、そこで研修を受け「必要な症例を経験できるか」となると心配になり、経験の積める都市部に出たくなるのは当然とも言える。社会構造の変化に合わせ、医療の将来像をきちんと描き、その中で医師養成のシステムも見直していいかなければならない(相澤孝夫委員:日本病院会会長)
▼病院勤務医の確保が難しい中で「自由開業」をどう考えるべきか、議論する必要があるのではないか。また医師需給の計算方法をより厳しく考えていく必要がある(小熊豊委員:全国自治体病院協議会会長)
▼総合診療専門医の養成が新専門医制度の中で始まっているが、毎年200名程度にとどまっている。総合診療専門医のネックとして「将来が見えない、キャリアパスが見えない」という声を現場医師から聞く。こうした点の改善を早急に進めていく必要がある(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)
▼総合診療専門医の養成は重要だが、それだけで問題は解決しない。多くの医師が専門性を極めていくが、それと並行して「最低限の総合診療能力」を若いうちから身につけ、さらに生涯にわたって磨いていくことが重要である(釜萢敏委員:日本医師会常任理事)
医師の養成課程、遡って「入学」要件、さらに遡って「医療提供の制度的枠組み」など、さまざまな点に「検討すべき課題」が山積していることが分かります。
医師需給、医師偏在対策については、単独で議論することは難しく、「地域医療構想」「医師働き改革」といった地域医療提供体制の在り方全体の中で検討していかなければなりません。例えば、「地域で医師が少ない」場合には、「勤務医が過酷な勤務を強いられている」と考えられ、これらを解決するには「地域の病院を再編統合し、医療提供体制そのものを組み替える」といった大きな手直しが必要になってくるためです。
このため、今後、例えば「第8次医療計画の見直し等に関する検討会」や、その下部組織である「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」などで、これらのテーマを検討していく考えを厚労省は明らかにしていきます。そこでの議論には、もちろん上記の意見も伝えられ、まさに「多方面を見据えた総合的な議論」が行われることになるでしょう(関連記事はこちら)。
初診からのオンライン診療、「診療前相談」と「診断」との切り分けは?
また2月28日の医療部会には、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改訂の内容も報告されました。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で「初診からのオンライン診療の制度化」に向けた議論が重ねられ、例えば次のように必要な見直しを行ったものです(関連記事はこちら)。
【初診からのオンライン診療が認められる場合】
▽「かかりつけの医師」が実施可能と判断した場合
▽既往歴や服薬歴、アレルギー歴などの医学的情報が、過去の診療録や診療情報提供書などで把握でき、医師がオンライン診療実施可と判断した場合
▽「診療前相談」(医師-患者間のオンラインでのやり取り、診断や処方は行わない)により、医師・患者の双方がオンライン診療実施可と同意・判断した場合
【初診からのオンライン診療の対象となる症状、処方内容】
▽日本医学外連合による「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえて医師がオンライン診療が実施可能か否かを判断する
▽日本医学会連合による「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等を踏まえて、医師が処方内容を判断する。麻薬やハイリスク薬などの処方は不可
【対面診療との組み合わせ】
▽「かかりつけの医師」がオンライン診療を行う場合には、原則として、かかりつけの医師が対面診療との組み合わせを実施する
▽「かかりつけの医師」がいない場合には、原則として、オンライン診療を行った医師が対面診療との組み合わせを実施する
▽自身で対応困難な疾患・病態の患者、緊急性のある場合などには「適切な医療機関」への連絡・紹介が求められる
この改訂内容について、▼「診療前相談」と「診療」との切り分けが不明確であり、整理していく必要がある(神野正博委員:全日本病院協会副会長)▼セキュリティ確保については、医師個人でなく「医療機関」の責任等を明確にしておくべき(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼「適切なオンライン診療」「安全なオンライン診療」の実施に向けて厚労省で実態把握などを適宜行ってほしい(今村聡委員:日本医師会副会長、山口委員)―などの意見が出ています。
現在は、オンライン診療・電話診療について、新型コロナウイルス感染症を踏まえた「臨時特例」が適用されており、上記改訂指針は「コロナ感染症が収束した後」に適用されます。
2022年度診療報酬改定では、オンラインによる初診料(通常288点のところ251点とする)の設定など、「改訂指針」を要件とする点数設計が行われています(関連記事はこちら)。
つまり「改訂指針の適用」と「新点数の施行」と「臨時特例の廃止」はセットで行われる必要があり、どのように整理されるのか、今後の動き(「臨時特例が3月いっぱいで廃止され、改訂指針が4月から適用される」のか、別のスケジュールで動くのか)を見守る必要があります。
なお、2月28日の医療部会では、放射性医薬品を用いたがん治療を「特別措置病室」で実施するための基準設定(厚生労働省令改正)についても報告されており、これは別稿で報じます。
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