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2019年3月末までに1308件の医療事故、制度が国民に浸透する中で「正しい理解」に期待―日本医療安全調査機構

2019.4.10.(水)

 今年(2019年)3月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は24件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1308件の医療事故が報告され、うち74.5%の974件で院内調査が完了している。センターへの遺族からの相談件数は118件となり、国民全体に制度が浸透しつつある。次のステップとして「制度への正しい理解」に期待が集まる―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が4月9日に発表した「医療事故調査制度の現況報告(3月)」から、こういった状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

2019年3月の医療事故報告件数、外科で6件、内科で4件など

 2015年10月より、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対し、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことが主目的です。

センターでは重大事故について詳細を分析した結果を、提言にまとめ順次、公表しています(2019年2月までに7つの提言)。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析

 
 医療事故調査制度の大枠は、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 
 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)3月には、新たに24件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1308件となりました。

 今年(2019年)3月に新たに報告された事故は、▼病院から23件▼診療所から1件―でした。制度発足からの累計では、病院から1232件(事故全体の94.2%)、診療所から76件(同5.8%)となっています。

 今年(2019年)3月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科6件▼内科4件▼小児科3件▼脳神経外科2件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科222件(同17.0%)▼内科162件(同12.4%)▼消化器科108件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.0%)―などという状況です。
医療事故の現況(2019年3月)1 190409
  

センターへの相談件数は累計6745件、国民に制度が浸透し、次ステップは制度への理解

 センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。上述のように、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。もっとも、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどで通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。

 医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」「初めて事故を報告するが、センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問が生じることでしょう。また遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう(関連記事はこちらこちら)。

 こうした疑問・疑念を放置することは、制度の信頼失墜に繋がりかねないため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)3月には、新たに190件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6745件にのぼっています。

 今年(2019年)3月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から62件▼遺族などから118件▼その他・不明10件―でした。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので36件(医療機関からの相談の46.8%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」16件(同20.8%)、「院内調査に関するもの」14件(同18.2%)となっています。

 一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が80件(遺族などからの相談の63.5%)にのぼっています。ただし、こうした該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。相談件数の増加に鑑みれば、「制度の浸透そのものは進んできている」と見ることができるかもしれません。次のステップとして「正しい理解」に期待が集まります。
医療事故の現況(2019年3月)2 190409
 

センターへの調査依頼は新たに2件、88件の依頼中18件でセンター調査が完了

 医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが調査を行い、自院の体制や手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する過程で「院内の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられ、「まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められます。

 今年(2019年)3月に新たに院内調査が完了した事例は25件で、制度発足からの累計では974件となりました。これまでに報告された全1308件の医療事故のうち74.5%(前月から0.6%増加)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードが再び速まっている可能性があります。
医療事故の現況(2019年3月)3 190409
 
 なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。何かを隠しているのではないか」との思いも生じることでしょう。一方で、診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあると思われます(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。

 そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備。ここでは、「センターが1から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2019年)3月に、センターになされた調査依頼は2件で、いずれも遺族からでした。制度発足からの累計調査依頼件数は88件(遺族から71件・80.7%、医療機関から17件・19.3%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が18件(前月から2件増)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が1件▼医療機関における院内調査の終了待ちが4件—という状況です。

 
 
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